第173話 長い夢
文字数 1,015文字
その日のうちに、車に積んであった、それほど多くないグレインの荷物が運び込まれた。やはり、翔たちの了解を得るまでもなく、彼がここで暮らすことは、既定路線だったらしい。
この屋敷では、三階にある翔の部屋と藍の部屋が一番広い。翔は、部屋を明け渡してもいいと申し出たのだが、それには及ばないと言われた。
グレインは、二階の基樹の部屋の隣の、同じ間取りの部屋を使うことになった。
今後のことについても、野本から説明があった。
今、教団に関わる犯罪において、続々と逮捕者が出ているという。逃亡したり潜伏している者もいるので、全員の身柄を確保し、さらに一つ一つの事件が解決するには数年を要するものと思われる。
逃亡者の中には、追いつめられ、よからぬ考えを起こす者がいるかもしれない。
それらのことは、日本に限らず、外国においても同様で、ときには、グレインや野本が参考人として、裁判に出廷することも考えられる。
以上のような理由から、翔と藍、それに基樹と、生まれて来る藍の子供についても、財団が継続的に保護する。いずれは保護のもとに学校に通えるようにするし、基樹が父親に会えるようにする、と。
グレインは、長年カルト教団の教祖をしていたとは思えない、気さくで明るい人柄だったが、日本語はほとんど話せず、野本なしで、どうやって意思の疎通を図ればいいのかと、翔は心配していた。
だが、それは杞憂だった。簡単なことならば、ボディーランゲージで十分通じたし、グレインも基樹も、スマートフォンの翻訳アプリを使って、難なく会話している。
藍も基樹も、あっという間にグレインとの距離を縮めたようだ。
「ショウ、元気?」
グレインは、みんなのやり取りを黙って見ていることが多い翔に、たびたび声をかけてくれる。
「はい……」
この陽気な外国人が自分の父親だということが、未だにピンと来ない。基樹がスマートフォンを差し出す。
「アプリを使えばいい。翔たちも、スマートフォンを買ってもらったらいいよ」
グレインも言う。
――そうだね。今度ダディから二人にプレゼントしよう。
「はぁ……」
また自分は、みんなに気を遣わせてしまっているのだろうか。だが、別に臆して話しかけられないというわけではないし、彼が嫌いなわけでもない。
自分は、適応能力が恐ろしく低いのかもしれない。今もまだ、この状況に茫然としていて、長い夢を見ているような不思議な感覚から抜け出せずにいるのだ。
この屋敷では、三階にある翔の部屋と藍の部屋が一番広い。翔は、部屋を明け渡してもいいと申し出たのだが、それには及ばないと言われた。
グレインは、二階の基樹の部屋の隣の、同じ間取りの部屋を使うことになった。
今後のことについても、野本から説明があった。
今、教団に関わる犯罪において、続々と逮捕者が出ているという。逃亡したり潜伏している者もいるので、全員の身柄を確保し、さらに一つ一つの事件が解決するには数年を要するものと思われる。
逃亡者の中には、追いつめられ、よからぬ考えを起こす者がいるかもしれない。
それらのことは、日本に限らず、外国においても同様で、ときには、グレインや野本が参考人として、裁判に出廷することも考えられる。
以上のような理由から、翔と藍、それに基樹と、生まれて来る藍の子供についても、財団が継続的に保護する。いずれは保護のもとに学校に通えるようにするし、基樹が父親に会えるようにする、と。
グレインは、長年カルト教団の教祖をしていたとは思えない、気さくで明るい人柄だったが、日本語はほとんど話せず、野本なしで、どうやって意思の疎通を図ればいいのかと、翔は心配していた。
だが、それは杞憂だった。簡単なことならば、ボディーランゲージで十分通じたし、グレインも基樹も、スマートフォンの翻訳アプリを使って、難なく会話している。
藍も基樹も、あっという間にグレインとの距離を縮めたようだ。
「ショウ、元気?」
グレインは、みんなのやり取りを黙って見ていることが多い翔に、たびたび声をかけてくれる。
「はい……」
この陽気な外国人が自分の父親だということが、未だにピンと来ない。基樹がスマートフォンを差し出す。
「アプリを使えばいい。翔たちも、スマートフォンを買ってもらったらいいよ」
グレインも言う。
――そうだね。今度ダディから二人にプレゼントしよう。
「はぁ……」
また自分は、みんなに気を遣わせてしまっているのだろうか。だが、別に臆して話しかけられないというわけではないし、彼が嫌いなわけでもない。
自分は、適応能力が恐ろしく低いのかもしれない。今もまだ、この状況に茫然としていて、長い夢を見ているような不思議な感覚から抜け出せずにいるのだ。