第151話 サンドイッチ

文字数 689文字

 三人だけになると、ようやく藍が口を開いた。
「あぁ、なんだか疲れたわ」
「大丈夫?」
 藍のお腹には赤ちゃんがいるのだ。まだ安定期に入っていない。
「大丈夫よ」
 そう言いながら、ソファに腰を下ろす。
 
「翔こそ大丈夫? 顔色がよくないわよ」
 基樹も言う。
「さっき駐車場でよろけただろう」
「ずっと車に乗っていたから、ちょっと足元がふらついただけだよ。なんでもない。緊張はしているけど」

「そうよね。私も、すごく緊張しているわ」
「翔も座れよ。二人とも、これ、少しつまんだらどうだ?」
 基樹が、久美に持たされたバスケットとポットをテーブルに置く。結局、手をつけないまま、ここまで来てしまった。
 藍がバスケットを開けると、一口サイズのサンドイッチが並んでいる。
 
「それどころじゃないかもしれないけど、一つくらい食べろよ」
「そうね。きっと久美の心がこもっているわね。基樹くんも、一緒に食べましょう」
 添えられたウェットティッシュで手を拭いてから、藍はサンドイッチを一つ取る。
「今頃、久美さんも、きっと心配しているぜ」
 そう言いながら基樹は、ポットのコーヒーをホテル備えつけのカップに注ぐ。
 
「おいしいわよ」
 藍が、翔を見て微笑む。
「うん」
 食欲はないが、あまり二人に気を遣わせてもいけない。翔も、サンドイッチに手を伸ばす。
 
 
 くつろげるはずもなく、ソファにすわったまま身を硬くして待っていると、ついにドアをノックする音がした。
「佐渡です。お迎えにがりました」
 基樹が、素早く立って行って、ドアを開ける。翔と藍は、顔を見合わせる。
 入って来た佐渡が、二人に向かって言った。
「それでは参りましょうか」
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