第181話 愛しい恋人
文字数 641文字
二番目、三番目のゲートを抜け、車は、森の中から通りに出る。
洋館を去ることになった日、傷を負いながら、基樹に会いに行ったことを思い出す。そして、基樹にタクシーで送られて戻って来たときに、この場所で増永が待ち構えていたのだった。
あの日、運命が変わった。いや、翔が、自分の手で変えたのだ。自分だけでなく、基樹の運命も。
何度あの日のことを悔やんだかわからない。だが、ようやく最近になって、これでよかった、こうなるしかなかったのだと思えるようになった。
見慣れた道を車は進む。十分ほど走ると、やがてフェンス越しに校舎が見えて来た。かつて藍と通い、基樹と出会った高校。
あの頃、高校は、孤独と憂鬱に耐える場所でしかなかった。だが、あれから月日が経ち、今、自分には、大切な人も、新たな家族もいる。
これから、どんな未来が待ち受けているのだろう。自分は相変わらず弱虫で泣き虫だけれど、次に何か辛いことがあっても、きっと誰かが寄り添ってくれる。
もう一人じゃない。
フェンス沿いに走って行くと、やがて校門が見えて来た。駅の方向から歩いて来た生徒たちが、ぞろぞろと中に入って行く。
その人波を横に、ポケットに両手を入れて所在なげに立つ、長身の人物。彼に目を留めた藍が、すぐに翔に顔を向けて、にっこり笑う。
車は、スピードを落としながら、校門に近づく。エンジン音に気づいた彼が、こちらを見た。
次の瞬間、その端正な顔に笑みが広がり、彼は、ひょいと右手を上げた。僕の愛しい恋人、基樹。(終)
洋館を去ることになった日、傷を負いながら、基樹に会いに行ったことを思い出す。そして、基樹にタクシーで送られて戻って来たときに、この場所で増永が待ち構えていたのだった。
あの日、運命が変わった。いや、翔が、自分の手で変えたのだ。自分だけでなく、基樹の運命も。
何度あの日のことを悔やんだかわからない。だが、ようやく最近になって、これでよかった、こうなるしかなかったのだと思えるようになった。
見慣れた道を車は進む。十分ほど走ると、やがてフェンス越しに校舎が見えて来た。かつて藍と通い、基樹と出会った高校。
あの頃、高校は、孤独と憂鬱に耐える場所でしかなかった。だが、あれから月日が経ち、今、自分には、大切な人も、新たな家族もいる。
これから、どんな未来が待ち受けているのだろう。自分は相変わらず弱虫で泣き虫だけれど、次に何か辛いことがあっても、きっと誰かが寄り添ってくれる。
もう一人じゃない。
フェンス沿いに走って行くと、やがて校門が見えて来た。駅の方向から歩いて来た生徒たちが、ぞろぞろと中に入って行く。
その人波を横に、ポケットに両手を入れて所在なげに立つ、長身の人物。彼に目を留めた藍が、すぐに翔に顔を向けて、にっこり笑う。
車は、スピードを落としながら、校門に近づく。エンジン音に気づいた彼が、こちらを見た。
次の瞬間、その端正な顔に笑みが広がり、彼は、ひょいと右手を上げた。僕の愛しい恋人、基樹。(終)