第109話 告白

文字数 769文字

 だが陸人は、静かな声で言った。
「人を殺していいなんて思っていません。でも、それを言うなら、増永さんも、翔さんを襲った男を殺害しています」
 眼鏡の奥の暗い目が、じっと藍を見据える。
「あ……」

「人を殺しているから殺されてもいいとも思いませんが、僕の両親も、財産のほとんどを教団につぎ込んだ挙句、派閥争いに巻き込まれて命を落としたんです。おかげで、僕の人生は台無しになった。
 宗教だかなんだか知らないけど、僕は、現実離れした教義を掲げて、馬鹿げた内部争いに明け暮れ、結局は人の命なんて虫けらほどにしか思っていない教団に復讐するために、教団に入り込んだんですよ」
 
 意外な告白に、藍はたじろぐ。
「じゃあ、私をここに連れて来たのも、復讐のためなの?」
 もしや、私のことも殺すつもりなのだろうか。
「それは、その……」
 少しの間、口ごもった後、陸人が答える。
「半分はイエス、半分はノーです」

 首をかしげて見つめていると、陸人は、部屋の隅にあった木の椅子を、ベッドのそばに持って来た。
「座ってもいいですか?」
「えぇ」
 陸人は、背中を丸めて椅子に座る。
 
「藍さんが急病で、病院に運ばれることになったという情報を、反対派に知らせたのは僕です。救急車を襲って、藍さんを拉致する計画でした。
 その際、同行者、つまり増永さんを殺害するのも、計画のうちでした。僕は、教団に入るまでは看護師をしていたので、同行して、藍さんに薬を投与し、体の自由を奪う役目でした」
 だからあのとき、体を動かすことも、声を出すことも出来なかったのか。
 
「そこまでは、計画通りでした。下っ端の僕は、その後、藍さんがどうなるのかまで知らされていなかったけれど、とにかく、内紛が激しくなって、その分、教団全体が打撃を受ければいいと思っていた。
 でも……」
 陸人は、再び口ごもる。
「でも、何?」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み