第244話-モッチと金色の宝物☆5

文字数 3,189文字

 一方、モッチは自分が会議の議題になっていることも知らずに、まだ黄色い花の上でした。胸のバッチも何だか今までほど輝いてないような気がします。モッチの気持ちはざわざわとしていて、周りの花々の美しさも楽しめませんでした。

「ぶぃん……」
 何度目かわからないため息が出てきちゃいます。こんな時にキーちゃんがいてくれたらなあ、と思います。きっとキーちゃんなら、アズール王子に対するモッチの気持ちを聞いてくれて、その上でファンとしての心得を説いてくれたでしょう。モッチだけではこのもやもやざわざわした気持ちをきちんと落ち着かせられる自信がありません。まるで、自分の気持ちがどこかで迷子になっちゃったみたいな気分です。
 黄色いお花に寝ころんで、晴れた空を見上げます。いつもなら楽しい気持ちで飛べるはずなのに、どうしてこんなに体が重く感じるのでしょう。羽もバッチも重くなってる気がします。広間をいきなり飛び出したモッチのことを、みんなはどう思ったでしょう。きっとアズール王子だって、もうモッチのことをファンだとは認めてくれないかも……青い空がにじんで見えます。

 黄色いお花の上でぼんやりしていると、優しい風が吹いてきました。何かふんわりとしたものが辺りを漂っています。モッチは花の上で起き上がると、辺りを見回しました。
 辺りにたんぽぽの綿毛がたくさん飛んでいます。モッチが寝ころんでいたのは、黄色いたんぽぽの花壇でした。スズロ王子は小さいころにたんぽぽの綿毛を飛ばすのが大好きで、お城の庭にわざわざたんぽぽの花壇を作らせたのです。
 そういえば、王子はいつもたんぽぽの妖精を肩に乗せていました。

「ぷぷん」
 思わずたんぽぽの妖精の名前をつぶやきます。
「なあに?モッチ」
「ぶんっ!?」
 すぐそばから返事が返ってきたので、モッチはとてもびっくりして花の上で飛び上がってしまいました。
「ぶぶいん?」
「ふふ、僕はさっきからずっとここににいたよ。声がかけづらくて黙っていただけさ」
「ぶ、ぶいん」
 もやもやうじうじと悩んでいた様子を見られていたんだと思って、モッチはちょっと恥ずかしくなりましたが、ポポンはそんなこと気にしていないようです。ほわほわした綿毛のような黄色い髪をなびかせながら、モッチの隣に座ります。

「今日も良い天気だね」
「ぶ、ぶいん」
「今日は会合なのでしょう?もう終わったの?」
「……ぶ、ぶいん」
「途中で出てきちゃったの?」
「ぶん」
「でも、モッチにはからくりで大役を務めてもらうんだって、スズロ王子から聞いていたけどなあ?」
「ぶん?」
「その話は聞いていない?」
「ぶん」
「そっか、本当に途中で飛び出してきちゃったんだね」
「……ぶん」
 優しい風が辺りにたんぽぽの綿毛を漂わせています。この優しい風の中ならなんだか素直になって、胸のもやもやのことも話せそうな気がしてきます。モッチは、ポポンに広間での話を聞いてもらうことにしました。

「――ぶん、ぶぶいん、ぶいん、ぶん」
「そうなんだ、アズール王子とグラシーナさんかあ……」
「ぶん」
 静かに聞いていたポポンが、モッチに向き直りました。
「ねえ」
「ぶん?」
「モッチはアズール王子にどうあって欲しい?」

「ぶ……ん?」
「モッチのことだけ見ていてくれれば良い?他の人には優しくしないでほしい?」
「ぶ、ぶぶいん!」
 そんなことありません。だって、モッチはアズール王子の優しく穏やかなところが大好きなんですから。
「そうなの。でも、アズール王子がグラシーナさんにゼロの金バッチを上げるところを見たら、もやもやしちゃったんだね?」
「ぶぶ、ぶいん」
「そっか、自分でも自分の気持ちがわからないんだね」
「ぶん」

 ポポンが髪を優しく揺らしながら聞いてきます。
「じゃあさ、モッチは好きな人が笑顔でいるのと悲しい顔しているのどっちが好き?」
「ぶ、ぶいん!」
「そう、僕も同じだ。僕もスズロ王子の笑顔の方が好きだよ」
「ぶん」
「モッチが飛び出してきたとき、アズール王子は笑顔だった?黒ドラちゃんやドンちゃんや、その場にいたみんなは?」
「……ぶ、ん」
 モッチの耳に、広間を飛び出してきた時のグラシーナさんの悲しげな声がよみがえりました。
「……」
「ねえ、モッチ、モッチがどうしてもやもやしているか、僕、わかるような気がするな」
「ぶん?」
「うん。きっとね、モッチはアズール王子がグラシーナさんに優しくしたからもやもやしたんじゃないんだよ」
「ぶぶ?」
「うん。だって、モッチはアズール王子に笑顔でいてほしいんだよね?」
「ぶん」
「モッチは、大好きなアズール王子の幸せそうな笑顔を喜べない自分にもやもやしたんじゃないかな?」

「!」
 モッチの胸がドキンとしました。ポポンは黙って髪を揺らしています。

「……ぶん……ぶん!」
 モッチは、大きくうなずきました。迷子になっていた気持ちが、無事に帰ってきたみたいです。ポポンの言葉が、モッチのもやもやをスッと晴らしていってくれました。何度もうなずくモッチの胸で、金バッチが陽光を反射してきらりと光りました。
 ポポンが髪をほわほわさせながら続けます。
「ねえ、モッチ。クマン魔蜂ってね、バルデーシュでは『愛と勇気と、不可能も可能にするほどの情熱の象徴』って言われてるんだよ」
「ぶいん?」
「ああ、本当さ。そしてモッチは『どのクマン魔蜂よりもクマン魔蜂らしいクマン魔蜂だ!』って僕は思うよ」
「ぶぶ、ぶいん?」
「とても深い愛情と強い勇気と、不可能を可能にする情熱の持ち主さ、モッチは」
「ぶ、ぶふふ~ん」
 すごく嬉しくて恥ずかしいような気持ちになって、モッチは辺りを飛び交うたんぽぽの綿毛を見ているふりで視線をさ迷わせました。
 すると、たんぽぽの綿毛の中を、何かキラリと光るものが飛ん来るのが見えます。

「ーーン」
「ぶいん?」
「ブブイ~~~ン!」
 ホペニです!銀色の美しい羽を輝かせながら、ホペニが飛んできました。

「ぶぶいん!?」
 モッチはびっくりしました。どうしてホペニがここにいるんでしょう?カモミラ王女はホペニのことなんて何も言っていませんでした。

「ブブイン、ブン」
 ホペニはちょっと疲れているようでした。何しろ、モッチはあちらこちらメチャクチャに飛び回り、庭まで出てくる間にもお城中をぐるぐるしました。その跡をたどってきたホペニも、同じようにあちこち飛び回り、ぐるぐるしてきたのです。ホペニはモッチとポポンの座っていたたんぽぽの花の上に来ると、すぐにモッチに呼びかけました。
「ブ、ブン♪」
 順序は違っちゃったけど、モッチのことをびっくりさせることができて、ちょっと嬉しそうです。ホペニがサプライズゲストだったのだと聞いて、モッチは嬉しくてホペニの周りをぐるぐる飛び回りました。ホペニが、モッチにからくりの話をします。

「ぶぶん?!」
「そうなんだよ、モッチには内緒だったかもしれないけど、ホペニとモッチはからくりで大役を務めるんだよ」
 ポポンも教えてくれました。
「ぶいん?」
「うん。スズロ王子はもちろんだけど、カモミラ王女がとても楽しみにしていたよ」
 ホペニが花の上でふわんと軽く飛び上がりました。
「ブブブイン!」
 モッチに一緒に来るように誘います。
「うん、そうだね。ねえモッチ、ホペニと一緒に戻ったら?もうアズール王子のどんな笑顔も大好きだって、思えるでしょ?」
 グラシーナさんを見つめるアズール王子の笑顔を思い出しながら、モッチは胸のバッチを見つめました。金のバッチは以前と同じように輝いて見えます。羽の重みも感じません。

「ぶん♪」
 モッチの気持ちは、モッチの中にきちんと落ち着いてくれています。そうすると、今すぐにみんなのところに帰りたくなりました。

「ぶいん!」
「ブイ~ン!」
 ホペニと一緒に元気よくお城の中に戻っていくモッチを、ポポンが優しく揺れながら見送っていました。

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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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