第115話-王宮の森へ

文字数 3,012文字

 広間の中に入ると、たくさんの人たちが黒ドラちゃんを迎えてくれました。腰に巻いたベルトについた大きな籠は、取り外して黒ドラちゃんのお泊りするお部屋に持って行ってくれました。首にかけた花のリースも取り外そうとしたので、モッチがいるから、と止めました。花の中をのぞいて見ると、モッチは疲れて眠っています。リースはそのままにしておいてもらいます。広間では、あらためて王様や王妃様とご挨拶をしました。バルデーシュで覚えたお辞儀をすると、広間に集まった人たちから「可愛いらしい!」とか「さすが古竜様ですね」なんて声が聞こえてきました。がんばってマナーを覚えておいて良かったあ、と黒ドラちゃんはますますうれしくなりました。

 黒ドラちゃんは、どうしてノーランドまで飛んでくることになったのか、王様にお話しました。黒ドラちゃんのお話は、古の森祭りから始まって、ゲルード達が来るところに、食いしん坊さんとカモミラ王女が来るところ、ドンちゃんがクローバーを吹き出したところやマグノラさんはガラガラ声だけど優しいの、なんてところまで加わって、とにかくお話が進むのに時間がかかりました。それでも、誰も急かすことをせずに静かに聞いてくれました。王様もじっくり聞いてくれています。そして、黒ドラちゃんのお話が終わると「明日、王宮の森へ案内させよう」と言ってくれました。

 それから、黒ドラちゃんのことを囲んでささやかな夕食会が開かれました。黒ドラちゃんはまだお子様だし、疲れているだろうということで、本当にわずかな人たちだけの参加でした。ノーランドにしかない果物や野菜がたっぷりと使われた料理で、どれも美味しくて、黒ドラちゃんは満腹になるまで食べちゃいました。お腹がいっぱいになると、とたんに眠くなってきます。コクンコクンとし始めた黒ドラちゃんに、モーデさんが優しく付き添いながらお部屋に連れて行ってくれました。本当は召使さんが抱っこしてくれようとしたのですが、見た目よりもずっと重くて、誰も持ち上げられなかったのです。

 モーデさんが用意してくれた寝巻に着替え、フカフカのベッドに入ると、黒ドラちゃんはすぐに夢の中に入っていました。首にかけていたリースはそっと外されて、黒ドラちゃんの枕元に置かれています。初めてのノーランドの夜は、マグノラの花の香りに包まれて、穏やかで優しく更けていきました。


 翌朝、黒ドラちゃんはモッチのブンブン攻撃で目が覚めました。モーデさんは少し離れたところで、おろおろしながら様子をうかがっています。
 「おはよう、モッチ」
 黒ドラちゃんがモッチに挨拶すると、ようやくモッチは少し落ち着きました。
 「ぶぶいん?ぶいん?」
 昨日、モッチが寝ているうちに王宮についてしまったので、びっくりしているようです。
 「あのね、ここはノーランドの王宮だよ。昨日の夜に着いたの」
 「ぶ~んぶぶん?」
 「うん、今日はホペニのところへ行けると思うよ」
 「ぶい~んぶいんぶいん!!」
 モッチは嬉しそうにくるくると回って見せました。
 黒ドラちゃんがベッドから出ると、モーデさんがおそるおそる話しかけてきました。
 「あの、古竜様、その大きな蜂は刺したりしませんか?」
 「大丈夫だよ!モッチはとてもはちみつ玉作りが上手なミツバチさんなんだよ。カモミラ王女とも仲良しなの!」
 「まあ、そうなのですか。では、安心して朝食を運ばせましょう」
 そう言って微笑むと、そばにあったワゴンの上の呼び鈴を鳴らします。すぐにドアが開いて、ワゴンに乗せて美味しそうな果物がたくさん運ばれてきました。

 「わあー!すごい!朝からご馳走だね!」
 黒ドラちゃんは目を輝かせました。見たこともないような甘い香りをさせている果物もあります。
 「これ、なあに?」
 「これは雪蜜リンゴというノーランドだけでしか取れない小型のリンゴです」
 「へえー!」
 一つ手に取って鼻に近づけます。小さいけれど、本当に甘い良い香りです。これ、みんなへのお土産に、帰りにもらえないかな?なんて考えながら、黒ドラちゃんは美味しく朝食をいただきました。


 さて、今日は王宮の森へ連れて行ってもらえます。王宮の森にはホペニ達ノーランドスノーブルー蜜蜂もいるし、食いしん坊さんのおばあ様のノラウサギもいるはずです。黒ドラちゃんは「よしっ!」と気合を入れてリースを首にかけました。モッチも「ぶいん!」と元気に羽音を立てています。見ると、いつの間に作ったのか、はちみつ玉を持っています。“王宮蜜蜂”なんて、すごい名前の蜜蜂一家に会うので、張り切っているみたいです。

 ノーランドの王宮の森は、山の方へ登って行くように大きく広がっていました。雪の積もる森の中を、黒ドラちゃんはモーデさん、ノーランドの魔法騎士さん、ノラウサギに詳しいおじいちゃん博士と一緒に登って行きました。吐く息が真っ白になって、森の中へ消えていきます。昨日も感じましたが、建物から一歩出るとすごく寒いんです。でも、モーデさんも騎士さん達も、おじいちゃん博士でさえ、あまり気にしていないようです。今はまだ、この国の本格的な冬では無いそうです。もっともっと寒くなると聞いて、今のうちに来て良かった、と黒ドラちゃんはホッとしました。

 やがて、水色の綺麗な花がたくさん咲いている場所に出ました。まるで、マグノラさんの花畑の水色版です。澄んだ優しい花の香りが辺り一面に漂っています。花畑の真ん中には、一本の古い大きな木が立っています。その木は大きく枝を広げていました。そのおかげで、木の下のお花畑には雪が積もらずにいるようです。モッチは、その木に近づいていきました。すると、どこからともなくたくさんの水色っぽいミツバチが現れて、モッチを取り囲みます。
 「ぶい~ん!ぶん、ぶん、ぶん!」
 取り囲まれてもモッチはへっちゃらでした。はちみつ玉を頭の上に持ち上げて、羽音でご挨拶です。モッチを取り囲んでいた蜜蜂たちがサーッと左右に分かれると、木の幹からノーランドスノーブルー蜜蜂が一匹出てきました。他の水色ミツバチよりも一回り大きくて、飛び方も優雅です。
 「ぶいん!ぶいん!」
 モッチがすごい勢いでその蜜蜂に向かって飛んでいきます。
 「あ、モッチ!」
 黒ドラちゃんが止める間もなく、モッチはノーランドスノーブルー蜜蜂の前で急停止して、はちみつ玉を差し出しています。
 「あれは、ホペニと言って、王宮蜜蜂の末っ子です」
 あわてる黒ドラちゃんに、モーデさんが教えてくれました。
 「ああ、あの子がホペニなんだあ。びっくりしちゃった」
 ホペニは嬉しそうに「ブンブンブン!」と羽音で答えてから、モッチを木の幹の穴の中へ連れて行きました。

 「ノーランドスノーブルー蜜蜂のことは、モッチさんに任せておきましょう」
 「え、良いの?モッチ大丈夫かなぁ?」
 「ここの蜜蜂たちはとても優雅で落ち着いていますので、モッチさんを攻撃したりはしないと思いますよ」
 そう言われてみると、確かに周りを飛んでいる水色の蜜蜂も、スイ~ッスイ~ッとした感じの飛び方です。黒ドラちゃんは安心しました。そして、モッチにはここでがんばってもらうことにして、モーデさんたちとノラウサギの棲家まで進んでいくことにしました。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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