第158話-また来るよ!

文字数 2,621文字

 網元のおじいちゃんの家でご馳走になり、黒ドラちゃん達はお腹いっぱいになりました。

 すっかり満足そうなラウザーに、リュングがささやきます。
「陽竜様、まだラキ様にお土産買ってませんよ?」
 聞いた途端に、ピキーン!とラウザーの尻尾が伸びました。

「ん?ラキ様と言うのはラウザーの彼女のことか?」
 おじいちゃんはしっかり聞いていて、ラウザーに聞いてきます。ラウザーは黒ドラちゃんやみんなのことをチラチラ見ながら、「えっと、うん、そんな感じ」小さな声でと答えました。黒ドラちゃんが思わず行きと同じように突っ込もうとすると、後ろからくいっと尻尾が引っ張られました。
「?」
 不思議に思って振り返るとドンちゃんが首を振っています。横でリュングも「見逃してあげましょう今回は」とか、したり顔で言っています。黒ドラちゃんはラウザーにつっこみたくてうずうずしました。でも、ラウザーのおかげで、尻尾が出ちゃうほど美味しい魚料理を食べられたから、我慢です。
 おじいちゃんは、ちょっと考えてからラウザーに言いました。
「どんな女子かわからんけど、真珠はどうだ?」
「しんじゅ?」
 黒ドラちゃんが初めて聞く名前です。

「そうそう!真珠!俺も今そう言おうと思ってたんだ!」
 ラウザーがパッと顔を輝かせて嬉しそうに声をあげました。尻尾もブンブン勢いよく回っています。良くわからないけど、ラキ様にぴったりのお土産らしです。

「ねえ、ドンちゃん、しんじゅって知ってる?」
 黒ドラちゃんが小声で聞くと、ドンちゃんは首を振りました。ドンちゃんがそのまま食いしん坊さんを見上げると、食いしん坊さんも首を振ります。食いしん坊さんがリュングを見ると、リュングは自信なさげに言いました。

「確か、暖かい海で採れる物だとか……。人魚の涙とか海の宝箱から取れるとか、そんな話を聞いたことはありますが、実物は見たこと無いですね」
 どうやらこの中で真珠を知っているのはラウザーだけのようです。

「真珠は隣の蔵で保管しとるよ。見に行くか?」
 おじいちゃんがラウザーにたずねると、ラウザーは尻尾をブンブン振ってうなずいています。そんなにステキな物なんでしょうか?

 おじいちゃんに連れられて、みんなは隣の蔵に入って行きました。蔵の中は二階になっていて、真珠は上の階に置いてありました。鍵のかかった箱の中から、おじいちゃんが平たい台を一枚出します。覗き込んで見ると、白くて丸い物が大きさごとにきれいに並べられていました。

「これがしんじゅ?」

 黒ドラちゃんがおじいちゃんにたずねると「そうじゃよ。明るいところで良く見てごらん」と一つ渡してくれます。

 黒ドラちゃんはドンちゃん達と一緒に、窓から差し込む光で真珠を良く見てみました。
「わあ~!不思議な輝き~!」
 黒ドラちゃんもドンちゃんも一目で真珠が気に入りました。魔石のように透き通っていたり光を発してはいないけれど、柔らかくて優しい白さと輝きです。見つめていると優しい気持ちになれる、そんな不思議な力を感じました。
「ねえ、おじいちゃん、これって人魚の涙なの?」
 黒ドラちゃんが尋ねると、おじいちゃんが笑いながら首を振りました。
「この美しさからそんな言い伝えも出来たようじゃが、これは貝の中からたまーに見つかるもんなんじゃ」
「貝の中にあるの!?貝が飲み込んじゃったのかな?」
 ますます不思議な気がして、黒ドラちゃんは手の中で真珠を転がしました。
「詳しいことはわからんがの。こんな風にきれいな物からもっと形の不揃いなものまで、色々あるな」
「へえ~!」
 本当に不思議です。
 すると、リュングが心配そうにラウザーに小さな声で話しかけているのが聞こえました。
「ちょっとちょっと陽竜様、真珠って丸い物はすごく高価だと聞いたんですけど、お代はどうするのですか」
 またまたおじいちゃんがしっかり聞いていて、すぐに答えてくれました。
「ラウザーにはな、欲しい時にいつでもやると言ってあったんじゃ。まあ、今までは一度も欲しいとは言わなかったがな」
「ええ!そんな……これってかなりのお値段だと――」
 リュングが驚いて聞き返すと、おじいちゃんは真面目な顔で言いました。
「今までラウザーには何度も漁師仲間が助けられてきた。そのたびに礼をしようとしたが、一度も受け取らん」
 ラウザーはそっぽを向いてとぼけています。

「確かに真珠は高価なものじゃよ。だが、ラウザーからお代を貰おうとは思わんさ。この港町じゃ、誰もな」

 おじいちゃんの言葉を聞いて、黒ドラちゃん達は台の中の真珠を眺めました。魔石や宝石に劣らぬほどの価値があるはずの物です。それにも勝るほどの感謝を、この港町の漁師さんたちはラウザーに感じているのでしょう。

「俺、これにする!」
 台の中でも大きめな1つをラウザーが手に取りました。
「そうか、それならこれと揃えて耳飾りにすれば良い」
 おじいちゃんはあっさりと、ラウザーが手に取った物とほぼ同じ大きさの一つを選んで箱に入れてくれました。
「おお!ありがとなあ!」
 ラウザーが嬉しそうに尻尾を振りました。

「あ、あとこれとこれとこれも!」
 続けていくつかの大きさの違う真珠を選んでおじいちゃんに見せています。
「ええー!陽竜様、いくらなんでもそんな!」
 リュングがあわててラウザーの尻尾を引っ張って止めようとしましたが、おじいちゃんはあっさりうなずいて箱に入れてくれました。
「良いんじゃよ。贈らせてくれ」
「で、でも――」
 リュングが申し訳なさそうに言うと、おじいちゃんはラウザーを見ながら答えました。
「次はいつ来られるか、わからんじゃろ?」
「う、うん」
 ラウザーが尻尾をニギニギしながら答えます。

「その時、わしがまだいるかわからんしな」
 おじいちゃんが笑いながら言うと、とたんにラウザーがおじいちゃんに抱きつきました。

「だめだよ!もっともっと長生きしろよ!俺、必ずまたマクロご馳走になりにくるから!絶対来るから!」
 ラウザーの声が震えています。おじいちゃんが優しくトントンと叩きました。

「わしはもう十分長生きしとるよ、今でもな」

 黒ドラちゃん達にもようやくわかりました。
 なんであんなにラウザーが港町で時間を作ることにこだわったていたのか。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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