第136話-見知らぬウサギさん

文字数 2,545文字

 みんなで白いお花の森の中を進んでいくと、マグノラさんはいつものように奥のお花畑で丸くなってお昼寝していました。

「マグノラさん!」
 黒ドラちゃんの背中から飛び降りたドンちゃんが、マグノラさんに飛びつきます。
「おやおや、新婚のおチビちゃんじゃないか?どうしたんだい?」
 そう言われて、ドンちゃんは少し照れています。けれど、すぐにここへ来た目的を思い出して、マグノラさんへ話しだしました。
「あのね、古の森にラマディーっていうナゴーンの男の子が来たの」
「へえー、ナゴーンから一人で来たのかい?たいしたもんだ」
 マグノラさんが感心したように言いました。みんなの一番後ろでマグノラさんの言葉を聞いたラマディーは、とりあえず好意的な雰囲気にほっと力を抜きました。

「それで、みんな揃ってここへ来たのはどういうわけだい?ラウザーまでいるじゃないか」
「マ、マグノラ姉さん、こんにちは」
 ラウザーがしっぽをにぎにぎしながら挨拶しました。それを見たマグノラさんは、は~っ、とため息をつくとブランに向き直りました。

「困りごとなんだね?」

「――はい」

 ブランは、これまでのいきさつをマグノラさんに話しました。一番後ろにいたラマディーは、話の途中で一番前に引っぱり出されました。ひと通り話を聞いたマグノラさんは、ラマディーのことをじっと見つめてから言いました。
「ブラン、ラウザーと黒チビちゃん達を行かせておやり」
「……ナゴーンへ行かせて本当に大丈夫でしょうか?」
 ブランはまだ不安そうです。

「あの国では、竜は畏れられる存在だ。害を成すような馬鹿者はいないだろう」
 それを聞いてラウザーと黒ドラちゃんが嬉しそうに顔を見合わせました。

「それに、ここで行かせないと、ラウザーはゆらぎを起こしかねないし、黒チビちゃんはずーっとラマディー達のことを考え続けちまうだろう?」
 ラウザーと黒ドラちゃんは、今度はビックリして顔を見合わせました。

「その方がよっぽどやっかいだろうさ?」
 マグノラさんの言葉に、ブランもゲルードも納得したようでした。

「そこの魔術師見習いの坊やはラウザーについていくとして……新婚のおチビちゃんも黒チビちゃんと行く気なんだろう?」
 マグノラさんがたずねると、ドンちゃんはコクンっとうなずきました。
「あたし、今度はついて行くって決めてたの」
「そうかい。じゃあ旅の無事を祈るとしよう」
 そう言って、マグノラさんがしっぽを振ると、ドンちゃんの毛並みがふわっと輝きました。
「グィン・シーヴォとも良く話しあってから行くんだよ?お前さんの一番の味方なんだからね」
 マグノラさんに言われると、ドンちゃんはさっきよりも深くうなずきました。

「さあ、それじゃあみんなお帰り。あたしは昼寝の続きで忙しいからね」
 そう言うとマグノラさんはまた花畑の真ん中で丸くなりました。周りのお花が淡く輝いて良い香りが満ちてきます。
 みんなはそれぞれマグノラさんにお礼の言葉を伝えると、白いお花の森を後にしました。


 古の森に戻ると、食いしん坊さんが湖のそばでウロウロと落ちつか無げにみんなを待っていました。食いしん坊さんは、ドンちゃんと結婚して古の森に棲み始めてから、いつでも森の奥深くまで出入りできるようになったのです。
「食いしん坊さん!」
 ドンちゃんが黒ドラちゃんの背中から飛び降りると、食いしん坊さんがすごい勢いで飛び跳ねてきました。
「何があったんだい!?マイハニー!」
 ドンちゃんの周りをぐるぐると何回も回ってから、どこにもケガが無いことを確認して、ようやく食いしん坊さんは落ち着きました。
「あのね、お話があるの」
 ドンちゃんが前足を組んで目をウルッとさせながら話すと、とたんに食いしん坊さんのお耳が垂れさがります。
「と、とにかく一度家に帰ろう。お母様も心配されていた」
 食いしん坊さんに促され、ドンちゃんは一緒にお家へ帰っていきました。
 ブランはゲルードを乗せてお城へと戻りました。
 ラマディーはお城へは連れて行くことが出来ないので、リュングと一緒にラウザーに乗せてもらって南の砦に行くことになりました。
 ナゴーンへのお出かけ準備は、ゲルードとブランが考えてくれると言っていたので、それが出来るまで砦で待つのです。
 黒ドラちゃんはナゴーンへのお出かけにワクワクしていました。ラウザーがいつも会っていたという漁師たちに会うのも楽しみです。ラマディーの言っていたホーク伯爵の持っている劇場っていう場所にも行ってみたいと思います。それに、ひょっとしたら金・銀・銅のニクマーン像も見つける事が出来るかもしれません。見つけたら、絶対になでなでしよう!
 そんな風にナゴーンでの色々なことを想像していいるうちに、いつの間にか黒ドラちゃんは洞の中で眠ってしまいました。夜空ではガラス玉のようなお星さまが、キラキラと静かに輝いていました。





「黒ドラちゃーーーん!」
 翌朝早く、黒ドラちゃんはドンちゃんの声に起こされました。寝ぼけまなこをこすりながら洞の外に出ると、ドンちゃんが知らないウサギさんと一緒に待っていました。

「おはよー!黒ドラちゃん」
「おはよう、ドンちゃん。そのウサギさんはだあれ?」
 黒ドラちゃんがたずねると、ドンちゃんがキョトンと不思議そうな顔をしました。ドンちゃんの横にいるのは、スラっとした体形の灰色ウサギさんでした。
「そのうさぎさんは、どこから来たの?」
 黒ドラちゃんに再びたずねられて、ドンちゃんが知らないウサギさんと顔を見合わせています。灰色ウサギさんが、かしこまったお辞儀をしながらご挨拶してきました。
「朝早くから夫婦で押し掛けて申し訳ありませんな、古竜殿」
「えっ!」
 黒ドラちゃんは驚いて目をみはりました。黒ドラちゃんを見つめる綺麗な青い目は、食いしん坊さんの目と一緒です。
「食いしん坊さんなの!?本当に!?本当に!?なんでそんなに急に痩せちゃったの!?」

 昨日までモフモフでちょっと太め体形だったのに、目の前の食いしん坊さんは、まるで別人ならぬ別ウサギのようです。



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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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