第49話-どうする?どうする?

文字数 2,024文字

「母親もうるさいし、仲の良かった友達も推薦が決まっちゃうし、すっかり嫌になってたんだ。確かに」
「じゃあ、じゃあさ、ずっとここに、「戻りたい!」
 ラウザーの声をさえぎってロータの悲痛な声が響きました。
「戻りたい!戻りたい!戻りたいよ!」
 ロータは泣いていました。
「本当に誰も知らないところへ行くことなんてありえないって思ってた。だからこそ願ったんだ」
「で、でもさ」
「とにかく戻りたい!もう、逃げ出したいなんて考えないから、あの世界に俺のこと返してくれよ、頼むよ」
 ロータはラウザーにすがりついて泣きました。ロータの背中をなでながら、ラウザーは星を見上げました。星はいつかのように「淋しい淋しい」とチカチカまたたいて見えました。

 必ず戻してやる、とラウザーはロータと約束しました。その為にマグノラさんに相談に来たのです。そして、黒ドラちゃんの豊富な魔力であればロータを確実に戻せるかもしれない、と教えられたのでした。そこから、黒ドラちゃんを海に誘う一連の流れになった、というわけです。

 語り終えると、ラウザーはブランの顔色をうかがいました。
「ほ、本当はマグノラねえさんはさ、まずはブランに相談しろって言ったんだ」
「当たり前だ!」
 ブランの声が怒っています。
「でも、もし初めにロータのこと話したら、絶対に黒ちゃんを森から出してはくれなかったろ!?」
「そ、それは――――わからないけど。こんな嘘つくようなことして!」
 その時、馬車の外で馬のいななきが聞こえました。黒ドラちゃんが外を見てみると、レンガ造りの大きな建物の前に着いていました。
「砦に着いたんだ!た、頼むよ、ブラン、黒ちゃん、ロータのことは人間たちには言わないでくれ!」
「えっ?ゲルードに話さないの?」
 黒ドラちゃんが驚いて言いました。
「ダメだ!絶対に言えないよ。それに、黒ちゃんの魔力でロータを戻す計画も、絶対に言えない!」
「そうだな」
 ブランもうなずきました。
「どうして?」
 ドンちゃんがたずねます。
「多分、もしそのロータって人間を戻すとなると、再び魔力のゆらぎを起こさせるってことになると思う。ゲルードが賛成するとは思えない」
 ブランの答えに黒ドラちゃんもドンちゃんも何も言えなくなりました。確かに、ここに来る前のゲルードの様子を思い浮かべると、とても賛成してもらえそうにはありません。
「俺、約束したんだ!絶対に元の世界に戻してやるって。だから、頼むよ頼むよブラン」
 ちょうどその時、馬車の扉が外側から開かれました。
 ゲルードがひざまづいて「砦に到着です、古竜様」と言って黒ドラちゃんに手を差し伸べています。それを押し出すようにブランがまず降りて、それから黒ドラちゃんに手を添えて降ろしてくれました。

 南の砦は、高いレンガの塀で囲まれた、大きなレンガ造りの建物です。
門の中に入ると、建物の前は広場になっています。そこには池がありました。高い木が生えて、青々とした葉を茂らせています。
「ここって砂漠じゃないの?池があるよ?」
 黒ドラちゃんがゲルードにたずねました。
「ここはもともと沙漠のオアシスが在った場所なのです。ここだけは水が枯れることが無いので、砦を造りました」
「オアシス?」
 黒ドラちゃんとドンちゃんは首をかしげます。
「たまにさ、沙漠のなかにも水が枯れない場所があるんだよ。でも街が作れるほどの規模じゃないんだけどね」
 ラウザーが教えてくれました。

 砦からおじさんが出てきて、ゲルードやブランに挨拶をしました。この砦を守る兵士さんをまとめている『団長さん』という偉いおじさんだそうです。そのまま中に案内してくれようとしましたが、今日は海に遊びに来たから、といって丁寧に断りました。

 黒ドラちゃん、ブラン、ラウザーは竜の姿になりました。ゲルードは馬に乗り、下からみんなの後についてくると言っています。
「どうするの?ブラン」
 黒ドラちゃんが小声で聞くと「わからない」と迷いのある声でブランが答えました。すがるような目でラウザーがブランと黒ドラちゃんを見ています。どうすれば良いのか、答えが見つからないまま黒ドラちゃん達は砦を飛び立ちました。

 砦を出てすぐに、突然クマン魔蜂さんが黒ドラちゃんの目の前をぶんぶん飛びまわりだしました。
「どうしたの?クマン魔蜂さん」黒ドラちゃんがお空で止まると、ブランもラウザーも止まってくれました。すると、クマン魔蜂さんは、みんなが向かっていた方とは逆の方に進みます。砦の方に戻ろうとしているようです。
「どうしたの?とりでに戻るの?」
黒ドラちゃんがたずねると「ぶい~ん!」と羽音を響かせて、元来た方へ飛んで行きました。
「クマン魔蜂さん、待ってよー!」
 黒ドラちゃんが後を追うと、ブランとラウザー、馬に乗ったゲルードもついてきてくれました。





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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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