第75話-しあげのキラキラ

文字数 2,188文字

 黒ドラちゃんとドンちゃんは、魔法の馬車で古の森のすぐそばまで戻りました。
森もすっかり暗くなっています。一番星どころか、夜空はお星さまでいっぱいです。黒ドラちゃんは、ドンちゃんをお母さんのことろまで送っていくことにしました。

「どうしよう……きっとお母さんすごく心配してるよね!?」
 ドンちゃんが不安そうに言います。
「う、うん。もうお出かけしちゃダメなんてことにならないよね?」
 黒ドラちゃんも不安そうに答えます。

 巣穴の近くまで行ってみると、ドンちゃんのお母さんが巣穴から出て、不安そうに辺りをキョロキョロと見回しているのが見えました、
「お母さん!」
 ドンちゃんがお母さんに飛びつくと、お母さんもギュッとドンちゃんのことを抱き締めました。
「お母さん、ごめんなさい!ごめんなさい!」
 ドンちゃんは泣きながらお母さんにしがみつきました。今日経験した怖いことがいっぱい思いだされて、体がぶるぶる震えてきました。お母さんは、ただただギューっとドンちゃんのことを抱き締めてくれました。


「あ、あのドンちゃんのお母さん……」
 黒ドラちゃんは、きちんと話をしなくちゃ、と思いました。
「あ、あの今日は……その……」
 でも、説明しようと思っても、何から話して良いのかわかりません。
「良いのよ、黒ドラちゃん。ドンちゃんを無事に連れて帰ってくれてありがとう。二人とも疲れてるでしょう?お話は明日にしましょう」
 そう言って、お母さんは幸せそうにドンちゃんを抱っこしたまま、巣穴の中に入っていきました。


 翌日、古の森の外れに魔法の馬車が現れました。ブランも飛んできているようです。
黒ドラちゃんを呼ぶ声が聞こえてきました。昨日、あんな騒ぎがあったのに、もうダンスの練習をするのかな?と黒ドラちゃんとドンちゃんは、不思議に思いながらも森の外れに向かいました。

 ブランは黒ドラちゃんを見ると、昨日のドンちゃんのお母さんのように、ギューっと抱き締めてくれました。黒ドラちゃんは嬉しくて、ブランのことをギュッと抱きしめ返しました。黒ドラちゃんとブランがギュッギュッしながら尻尾を振り振りしていると、馬車の扉が開いて、中から食いしん坊さんが現れました。
「食いしん坊さん!」
 ドンちゃんが飛びつくと、モフモフの体で受け止めてくれました。
「無事で良かったぞ、マイ・プチ・レディ」
 食いしん坊さんがドンちゃんに話しかけます。意味は分からないけど、ドンちゃんは嬉しくて、食いしん坊さんと額をごっつんこしました。すると、あたりにキラキラが飛び散りました。
「今の、なに!?」
 黒ドラちゃんがビックリして声をあげました。ドンちゃんもビックリしています。食いしん坊さんが言いました「これはノラウサギのダンスの仕上げにする振付だよ、今のは偶然だがね」
「今までは一度も成功しなかったのに、出来たね!?」
 ドンちゃんが叫びます。
「ああ、気持ちが通じ合わないと、あのキラキラは出てこないのだ。ようやく通じたかな?」
 食いしん坊さんが嬉しそうに笑いました。そう言えば、お城の舞踏会はもうすぐです!昨日話していたけれど、カモミラ王女の参加はどうなったんでしょう。ブランに聞いてみましたが、ゲルードは何も言っていなかった、と言いました。とにかくゲルードのお屋敷に行けば、カモミラ王女とも会えるし、と黒ドラちゃん達は馬車に乗り込みました。

 ところが、ゲルードのお屋敷についてもカモミラ王女とは会えませんでした。今朝早くに、王宮からの呼び出しがあり、出かけて行ったというのです。もしかして、王様やお后様が怒っているのかも……。
「そんな髪型の王女なんて舞踏会には出させないぞ!」なんて……。
 黒ドラちゃんとドンちゃんが不安になっていると、ブランが優しく言いました。
「この国の王は寛大なお方だ。それにノルドとノーランドは兄弟国だから、王妃も口添えしてくれるだろう。大丈夫、悪いようにはしないと思うよ」と。
 ゲルードにも何度かたずねましたが「ご安心ください。王女は王宮でくつろいでおられます」と言う説明で、心配ないと言います。そして「カモミラ王女とは、舞踏会で会えるでしょうから、それを楽しみにダンスの練習をがんばってください」と言われました。
「王女、舞踏会出られるんだ!?」
 黒ドラちゃんとドンちゃんは嬉しくてピョンピョンしちゃいました。

「練習がんばる!」
 黒ドラちゃんは、おばあちゃん先生のいうことを聞いて、ダンスを一生懸命覚えました。そして、舞踏会までに靴もドレスも身に着けて、なんとか優雅っぽい感じで踊れるところまで出来るようになりました。ドンちゃんも食いしん坊さんとノラウサギダンスの仕上げです。あの、キラキラを出すのがノラウサギダンスの一番の見所だったので、それをどんな風に披露するか、色々試しました。何度も練習して、ドンちゃんはすっかりノラウサギダンスの名手と言えるくらいにまで上達しました。食いしん坊さんが「バルデーシュでノラウサギダンスを踊らせたら、われらの前に出るものいないだろう!」と嬉しそうに宣言していました。


 明日はいよいよ王宮での舞踏会です。さあ、黒ドラちゃんとドンちゃんの初めての舞踏会は、いったいどんな風になるんでしょうね?
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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