第227話-行ってきまーす!

文字数 1,996文字

「申し訳ございません古竜様、私は背中に乗せていただきたく……」
 そう言いながら、リュングは黒ドラちゃんではなくて、なぜかブランの顔色を気にしています。
「良いよー!乗って乗って!」
 黒ドラちゃんが元気よく答えると、またまたなぜかリュングはブランに遠慮がちに会釈して乗り込みます。
「あ、それでミラお爺さんは?」
「はい、ミラジさんは先にフラック王国へ向かわれました。ルカ王に我々の話を通しておいてくださるとのことでした」
「そっか、じゃあ、出発だね?」
「はい。お願いいたします」
 羽ばたこうとする黒ドラちゃんの前に、ゲルードが出てきました。
「古竜様、我々はここで待機しております。リュング、何かあればすぐに魔伝を飛ばすように」
 そう言ってリュングに紙で出てきた鳥さんみたいなものを渡します。
「ルカ王の『呪い』の効果はいかほどかわからない。これには特別な魔力を吹き込んでおいた。いざという時はこれを飛ばしなさい」
「はい」
 リュングが神妙な様子で受けとりました。
 ブランが黒ドラちゃんの首のベルトを指さします。
「黒ちゃん、そのベルトについている魔石は空の魔石だよ」
「そらのませき?」
「うん。綺麗な空色だろう?晴れた日の陽の光も、曇りの日の雲のかけらも、大地を潤す雨のしずくも、すべてその中に含まれている」
「へ~すごいね!」
「空の彼方に、広がるその先へって気持ちにさせてくれる、不思議な力を持つ石なんだ」
「そうなんだ」
「うん、空はどこまでもつながっているからね。もし、先に進めないとか、困ったことがあったら石に触ってごらん」
「石に触るの?」
「ああ、きっとどこかに想いがつながる」
「うん」
「僕はここで待ってるよ、黒ちゃん。大丈夫、信じて待ってる」
「うん!」
 黒ドラちゃんは、ブランにギュッとしがみつきました。間に挟まってドンちゃん達の乗った花籠がぎしっと音を立てます。

「さあ、行っておいで」
 名残惜しそうにしながら、ブランが黒ドラちゃんを放しました。古の森の湖のような碧い瞳で黒ドラちゃんを見つめます。見つめられて、黒ドラちゃんの若葉色の瞳が明るく輝きました。
「あたし、きっと呪いを解いてくるよ!待っててね、ブラン!」
 黒ドラちゃんが羽ばたくと、背中のリュングも声を上げます。
「ゲルード様、皆様、行ってまいります!」
 うなずくゲルードの横で、鎧の兵士さんたちが次々にリュングに言葉をかけます。
「気を付けて、しっかりな!」
「俺たちがついてるぞ!」
「落ちるなよ!」

 黒ドラちゃんの翼が大きく広がって、ドンちゃんと食いしん坊さんを乗せた花籠がふわりと浮かびます。
「行ってきまーす!」
 元気よく羽ばたいて、黒ドラちゃん達一行は、フラック王国目指して出発しました。




 しばらく飛んでいくと、大きな川が見えてきました。
「古竜様、オースン川です!あれの手前にフラック王国があるはずです!」
 背中でリュングが叫びます。言われてみると、オースン川の手前には小さな小川が流れる草原が広がっていました。大小の池もあります。

「あそこかな、そうだよね?きっと」
 黒ドラちゃんは少しゆっくりと飛ぶことにしました。
「でもさ、ケロールの歌も聞こえないし、お空に虹もかかってないね?」
「そうですね……。今日は歌はお休みなのでは?」
 フラック王国は滅びてしまったと聞かされていたので、リュングも良く知らないみたいです。
「とにかく、ミラお爺さんが先に行ってくれてるんだよね?池の近くまで行って降りてみようよ」
 黒ドラちゃんの言葉にリュングがうなずきます。籠の中では、ドンちゃんと食いしん坊さんがしっかり寄り添っています。モッチは黒ドラちゃんの花冠から顔だけ出して「ぶぶいん」と羽音を立てました。黄色いはちみつ玉はどこかにしまってあるようです。

 草原の端にちょっとした岩場がありました。少し高くなっていて周りが見渡せます。黒ドラちゃんはそこに降り立ちました。

「どっこらしょっと」
「古竜様、お疲れ様です」
「ううん、全然疲れてないよ。ドンちゃんと食いしん坊さんは大丈夫?」
「大丈夫だよ、黒ドラちゃん」
 ドンちゃんが食いしん坊さんにエスコートされながら籠から出てきました。
「さて、ここまで来ましたが、ここから先どうするか……」
 食いしん坊さんがつぶやいた時、足元から急に声がしました。

「お待ちしておりました!古竜様、グィン・シーヴォご夫妻も!」
「わっ!ミラお爺さん!」
 足元の岩場だと思っていたところに、ミラジさんがいたのです。
「いやあ、わしに気づいて下さるか不安でしたが、さすが古竜様ですなぁ!良かった、良かった」
 いえいえ、全く気づいていませんでした。ミラジさんはすっかり岩場の色と重なっていて、誰も気づいていなかったのです。その証拠にミラジさんの尻尾の先に花籠を乗せちゃってます。おまけに、食いしん坊さんたちが立っているのは、ミラジさんの背中でした。





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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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