第126話-帰ってきたよーーー!

文字数 2,678文字

 黒ドラちゃんはバルデーシュに向かって飛んでいます。行きと同じように、いえ、行き以上に張り切って飛んでいました。首のリースには、ホペニのはちみつ玉を抱えたモッチがもぐっています。魔石のベルトにはたっぷりとノラクローバーの入った籠がぶら下がっています。背中には白い布で出来た小包があります。皆へのお土産は、この中にしまってきました。
 風がだんだん暖かくなってきました。下の地面も茶色や緑の部分が増えてきました。大きな川の上を過ぎて、ブランの北の山が大きく見えてきました。

 「モッチ、帰ってきたよ!バルデーシュに帰ってきたよ!」
 黒ドラちゃんが叫ぶと、モッチがリースから顔を出しました。
 「ぶぶぶぶぶいんっぶいんっぶいんっ!」
 モッチも喜んでいます。

 ブランの棲む北の山のそばを通りましたが、ブランはいないようでした。そのまま飛び続けていると、バルデーシュのお城が見えてきました。

 黒ドラちゃんは王都の上を三回ほど旋回しました。すると、黒ドラちゃんの周りにピンクの花びらが舞いました。下を見て見ると城の屋上にゲルードがいて、大きく手を振っています。
 「帰って来たよーーー!」
 「ノラクローバーたくさん摘んだよーーー!」
 黒ドラちゃんはうれしくて大きな声でゲルードに報告しました。

 そのまま飛び続けると、マグノラさんの白いお花の森が見えてきました。その向こうには古の森も見えています。

 「帰って来たよーーー!帰って来たよーーー!」

 黒ドラちゃんはうれしくて大きな声で叫びながら飛び続けました。古の森の上を飛んでいると、下から「黒ドラちゃん!黒ドラちゃーん!」と言う声が聞こえてきました。ドンちゃんです!湖のそばに降り立つと、黒ドラちゃんはどっこいしょ、と籠を降ろしました。すぐに森の中からドンちゃんが飛び出してきます。

 「黒ドラちゃん!」
 「ドンちゃん!」

 飛びついて来たドンちゃんをムギュッと抱きしめます。

 「黒ドラちゃん黒ドラちゃん黒ドラちゃん!」
 「ドンちゃん!」

 リースの中からモッチが飛び出してきました。黒ドラちゃんとドンちゃんに挟まれて、一緒にムギュッとなっていたようです。
 「あはは、ごめんね、モッチ」
 黒ドラちゃんが謝ると、モッチはひしゃげたはちみつ玉を大事そうに抱えたまま「ぶいん」と言って許してくれました。そして、そのまま森の奥の方へ飛んでいきます。仲間のクマン魔蜂さんたちに、ただいまを言いに行ったんでしょう。

 黒ドラちゃんが、あらためてドンちゃんをムギュッとしている足元から「コホンッ」という咳ばらいが聞こえてきました。下を見ると、食いしん坊さんがうらやましそうに黒ドラちゃんのことを見上げています。
 「あれ、ごめんね、食いしん坊さん。あたしったらドンちゃんしか目に入らなくて……」
 黒ドラちゃんが申し訳なさそうに言うと、食いしん坊さんは片眼鏡をくいっと直してから、ゆっくりと首を振りました。
 「いいえ、こんなにたくさんのノラクローバーを摘んできてくださったのです。さぞや大変だったでしょう、本当にありがとうございます」
 食いしん坊さんはノラクローバーが山盛りになった籠を見ながら、心からの感謝を言葉にしてくれました。ドンちゃんは黒ドラちゃんのムギュッから離れると、食いしん坊さんと手をつないでうれしそうに籠を眺めました。

 おや、なんでしょう?湖の向こう側の森がにぎやかになってきました。
 「そうだ!森にカモミラ王女たちもが来るんだよ!」
 ドンちゃんが言いました。見れば、湖の向こうの木々の間からキラキラしたものが見えています。
 「あれ?鎧の兵士さん達も来てる?」
 黒ドラちゃんは首をかしげました。
 「みんなね、今日黒ドラちゃんが帰ってくるからって、集まってくれることになってるんだ」
 黒ドラちゃんは、それを聞いて不思議に思いました。
 「どうしてあたしが今日帰ってくるってわかったの?」
 「あのね、ノーランドの妖精さんがカモミラ王女に教えてくれたんだって」
 「へえー!」
 「それでね、カモミラ王女は食いしん坊さんとスズロ王子とゲルードに教えてくれたの!」
 「はあー!」
 「それでゲルードがブランやマグノラさんやラウザーにも知らせてくれたんだよ!」
 「すごいねえ!」

 にぎやかな団体は、どんどん森の中を抜けてきます。
 「黒ちゃん!」
 ブランが森の上を飛んできました。
 みんなをここまで案内するために、わざと低めにゆっくり飛んできていたようです。
 「ブラン!みんな、こっちこっち!」

 黒ドラちゃんもドンちゃんと食いしん坊さんを背中に乗せて、湖の向こうまでみんなを迎えに行きます。
 「おかえり!黒ちゃん、無事で良かった」
 ブランが黒ドラちゃんをムギュッとしてくれました。すぐ後ろから「お帰り、黒チビちゃん」という声が聞こえます。
 「マグノラさん!」
 黒ドラちゃんはブランのムギュッから抜けて、マグノラさんに飛びつきました。
 「よくがんばったね。ノーランドは寒かったろう?」
 マグノラさんの優しいガラガラ声が耳に沁みます。
 「うん!雪がいっぱい降って、寒くて……でも、楽しいこともいっぱいあったの!」
 黒ドラちゃんが弾んだ声で答えると、マグノラさんがうなずいてくれました。
 「あのね、モッチが王宮蜜蜂さんに場所を教えてもらって、ノラクローバーもたくさん摘んだんだよ!」

 黒ドラちゃんは皆と一緒に、大きな木のある方へと戻りました。ノラクローバーのたくさん入った籠を見て、みんなが「良くやった!」「がんばったね!」と言ってくれます。ドンちゃんと食いしん坊さんもすごく嬉しそうです。
 そこへ、ドンちゃんのお母さんがやってきました。
 「あ、ドンちゃんのお母さん!、見て見て、ノラクローバーこんなに摘めたんだよ!花嫁の冠、すごいの作れるよ!」
 黒ドラちゃんの言葉を聞きながら、ドンちゃんのお母さんは黙って籠を見つめました。籠に前足をかけて、ノラクローバーの匂いを胸一杯に吸い込んでいます。
 「……ありがとう、黒ドラちゃん」
 ドンちゃんのお母さんの目が濡れています。
 「もう、二度とこの目で見ることは無いと思っていたわ。もちろん、ドンちゃんに見せてあげることも出来ないだろうって」
 籠の中から一本掴んで出しました。くんっともう一度香りをかぎます。

 「ありがとう。とっても幸せな花嫁の香りがするわ」
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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