第29話-モグノラ……さん

文字数 1,859文字

 きれいなお花を見ながら、楽しいお話をたくさん聞かせてもらっているうちに、あっという間に夕方になっていました。黒ドラちゃんとドンちゃんは、マグノラさんにお礼を言って、急いで白いお花の森を後にしました。約束通り一番星が輝く前にドンちゃんをおうちに送って行って、黒ドラちゃんは洞のおうちに戻ってきました。
「今日は楽しかったなあ。今度はブランと一緒に行こう」
 黒ドラちゃんは呟きながらゴロンと横になると、すぐに寝息をたてはじめました。


 さて、森が夜に包まれて、フクロウのおじいさんのホーッという鳴き声しか聞こえなくなった頃です。黒ドラちゃんは、昨日と同じように背中がかゆくて目が覚めました。
「か、かゆいっ、かゆいよ~!」
 そうでした。3~4日続くってマグノラさんが言っていたんでしたっけ。黒ドラちゃんの手は短めなので、あいかわらず背中に届きません。あんなにたくさんお話ししたんだから、かゆくなったらどうしたら良いのか聞けば良かったのに、すっかり忘れていたんです。かゆくてかゆくて、黒ドラちゃんは背中を洞の内側にこすりつけながら、あっちにゴロゴロ、こっちにゴロゴロ、転げまわりました。

 と、その時、黒ドラちゃんのお耳に、誰かが呼ぶ声が聞こえてきました。こんな夜中に森にお客様でしょうか?いったい誰が呼んでいるんでしょう?一瞬痒さを忘れて耳を澄ますと「黒チビちゃーん!」というガラガラ声がはっきり聞こえました。
「マグノラさん!」
 背中の痒さも忘れて、黒ドラちゃんは声の方へ飛んで行きました。

 マグノラさんは湖の向こう岸をウロウロとしているようでした。黒ドラちゃんが飛んで行くと、すぐに駆け寄ってきてくれました。
「黒チビちゃん、大丈夫かい?」
 マグノラさんのガラガラ声が心配そうです。
「マグノラさん、また背中がすごくすごくかゆいの!」
黒ドラちゃんが半べそで言うと「やっぱりかい。ごめんよ」とガラガラ声が、シュンとした感じになりました。
「昼間、初鱗のことを教え切らないうちにあんた達を返しちまったと気づいてね、気になって飛んできてみたんだ」
「ありがとう、これってどうにか出来るの?」
黒ドラちゃんは背中をヨジヨジしながら聞きました。
「人間に姿を変えることは、もう出来るかい?」
「うん。ブランに教えてもらったよ」
「そうかい、あの坊やも役に立つこともあるね。ほい、ちょっと人間になってごらん」
マグノラさんに言われて、黒ドラちゃんは「ふんぬっ!」と掛け声をかけました。ボワンッと光が弾け、そこには黒髪に若葉色の瞳をした7、8歳くらいの女の子が立っていました。
「人間になったよ、マグノラさん」
「掛け声はアレだけど、姿は可愛いね。さて背中のかゆみはどうだい?」
「えっと……あれっ全然かゆくない!!」
 黒ドラちゃんはビックリしました。さっきまで我慢できないほど痒かったのに、今は何ともありません。試しに背中の真ん中を触ってみました。羽の名残りみたいに背中の上の方の両側に骨があるのがわかりましたが、その間を触っても何も感じません。ひとしきり背中をさすったりなでたりして、人間の腕って便利だな、と黒ドラちゃんは思いました。
「マグノラさん、ありがとう。これで眠れるみたい」
 そういうと黒ドラちゃんは可愛らしいあくびをしました。安心したら、なんだか急に眠たくなってきました。
「モグノラ……さん、ふあー」
なんだかマグノラさんの名前が変わっちゃってますけど、黒ドラちゃんは半分夢の中です。
「黒チビちゃん、あの洞がおうちだろ?あたしが運んであげるから寝ちまいな」
そう言って、マグノラさんはひょいっと黒ドラちゃんを抱っこして湖の向こうへひとっ飛びしました。そして洞の中にそっと黒ドラちゃんを降ろして、枯れ葉のお布団をかけてくれました。
けれど洞を一歩出ようと外を見て「おやおや、もうわかんなくなっちまったよ」とつぶやきました。さっきまではっきり見えていた森は、黒ドラちゃんが眠りに着いた途端に魔力のもやがかかったようになっていました。マグノラさんには帰り道が全然わからくなっていたのです。

「しょうがない、今日はこのまま子守りをするかね」
 そう言うと、マグノラさんは黒ドラちゃんの体を抱え込むように、どっこいしょと洞の中で丸くなりました。

 外ではお星さまがチカチカ輝いています。

 洞の中から「すー」「ぐー」と二つの寝息が聞こえてきて、森の夜は静かに更けてゆきました。






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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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