第88話-愛でるのじゃ

文字数 2,083文字

 黒ドラちゃんとドンちゃんは、古の森の外れでワクワクしながらブランのことを待っていました。今日は、前に約束した「街でお買い物」をするんです。ブランと一緒に魔法の馬車に乗って、お出かけすることになっていました。

「ブラン、まだかな~?」
「まだかな~?」
 黒ドラちゃんとドンちゃんが北の方を見ながら早く早くと思っていると、後ろの方から「おーい!」という声が聞こえてきました。振り向いてみると、ラウザーがしっぽを振り振りしながら飛んでくるところでした。背中に誰か乗せています。あれ、しかも二人も乗せているようです。

 ラウザーは黒ドラちゃんたちのすぐそばに降りました。背中から、この前の舞踏会で会ったラキ様という綺麗な人と、モジャモジャした黒髪でローブを着た男の子が降りてきました。

「ラウザー、どうしたの!?今日はあたしたちこれからお出かけしちゃうから、せっかく来てくれたけど遊べないんだよ。ごめんね」
 黒ドラちゃんが申し訳なさそうに言うと、ラウザーが笑顔で答えました。
「違うよ、黒ちゃん。ブランから聞いたけど、今日は街へ行くんだろ?」
「うん。お買いものするの!」
「そうだよな、それで俺たちも一緒に行こうと思ってさ」
 ラウザーがご機嫌で言いました。
「一緒に?本当!?やったあ!」
 黒ドラちゃんは嬉しくて、その場でぴょんぴょん跳ねました。

「ラウザー、その子、誰?」
 ドンちゃんが興味津々で黒髪のモジャモジャをじっと見ています。“複雑に入り組んでるところに潜りたくなる気持ち”で、うずうずしているようです。
「あ、こいつね、魔術師見習いくんのリュング。砦の仲間さ」
 ラウザーが紹介すると、リュングくんはぺこっと頭を下げました。
「は、初めまして、古竜様。私は南の砦に魔術師見習いとして派遣されております、リュングと申します」
「あ、はじめまして」
 黒ドラちゃんとドンちゃんもあわててごあいさつしました。ごあいさつしながらも、ドンちゃんはリュングの頭から目を離しません。
「あ、あの、私の頭に何か……?」
 リュングが不安そうに尋ねると、ドンちゃんはハッとしたように「う、ううん。なんでもないの!」とあわてて目をそらしました。すると、ラウザーの隣にいたラキ様が、ずずいっと前に出てきてドンちゃんの前にしゃがみこみました。

「ええ、なんとまあ可愛い生き物であろうか?おぬしは城で素晴らしき舞踏を披露していたうさぎではないか?近う寄れ」
 そう言いながらドンちゃんの方へ手を伸ばして抱き上げようとしました。けれど、ドンちゃんは突然目の前に現れたラキ様にびっくりして、黒ドラちゃんの背中へ隠れてしまいました。ラキ様の眉間にシワが寄ります。小さな稲光がピカピカと体の周りを飛び跳ね始めました。

「あ、あのさ、ドンちゃんは恥ずかしいんだよな?、な?な?」
 ラウザーがあわてて黒ドラちゃんとラキ様の間に入りました。でも、ラキ様の目はラウザーを通り越して、黒ドラちゃんごとドンちゃんを射抜くように見ています。

「やれ子ウサギよ、可愛さ余って何とやらじゃぞ。早くこちらへ来ぬか?」
 そう言いながらラキ様が手を伸ばすと、黒ドラちゃんが止めに入りました。
「あ、あの、ラキ様、ドンちゃんは恥ずかしがり屋で怖がりなんです!ちょっとだけ待ってあげてください!」

 するとラキ様は初めて黒ドラちゃんに気付いたようでした。今まで、黒い壁だとでも思っていたんでしょうかね?

「ふむ。おぬしは誰じゃ?その姿は……おぬしも竜神か?さてずいぶんとコロコロしておるな、ほれほれ」
 そう言いながら、ラキ様は黒ドラちゃんのぽってりしたお腹をぽむぽむと叩きました。
「えっと、その、あの――」
 黒ドラちゃんはお腹をぽむぽむされながらだんだんと後ろへ下がって行きます。
「黒ドラちゃんがんばって!」
 後ろからドンちゃんが応援してくれます。

「ほお、銅鑼とな?確かに銅鑼のようであるな、ふむふむ」

 なんだかラキ様は変な風に納得しちゃったみたいです。機嫌良さそうに黒ドラちゃんのおなかをぽむぽむと叩いています。後ろの方ではリュングがあわあわしながら「古竜さまがぁ……」とかつぶやいていますが、ラキ様はおかまいなしです。

「銅鑼子よ、おぬしの腹はなかなか良い感じだぞ。さて、背中のふわふわをこちらに寄こさぬか?」
 そう言いながら黒ドラちゃんの前に手を差し出します。黒ドラちゃんはどうしようかとラウザーの方を見ました。けれどラウザーは尻尾をにぎにぎするばかり。視線は、ラキ様と黒ドラちゃんの間を行ったり来たりするだけで、頼りになりそうにありません。ドンちゃんは黒ドラちゃんの背中でぎゅーっと小さくなっています。

「あ、あの、ラキ様、もしドンちゃんを渡したらどうするつもりですか?」
 黒ドラちゃんがたずねると、ラキ様は当然のように答えました。
「愛でるのじゃ」
「めでる……?」
 黒ドラちゃんとドンちゃんがコテンと首をかしげます。めでるってどういうことでしょう?
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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