第2話 おうちにおいで

文字数 2,121文字

 真っ先に黒ドラちゃんは湖に向かいました。ブランを連れて湖のほとりに降ります。
「ねぇー、すっごく綺麗でしょ?この色、ブランの目と同じだよ!」
 黒ドラちゃんが得意そうに言うと、ブランが湖を覗き込みました。湖の水は綺麗に澄んでいて、お魚が泳いでいるのが見えました。

「たくさん魚がいるんだね。それにとってもきれいな水だ。魔力も澄んでいる」
 ブランが言いました。

「魔力が澄んでる?」
 黒ドラちゃんが首をかしげます。

「そうだよ、ここは森も湖もとても魔力が濃くて、そして澄んでる。良い場所だね」

 黒ドラちゃんはこの森しか知りません。だから、魔力が濃いとか澄んでいるとかよくわかりませんでした。
「君の魔力もとても濃くて澄んでいる。この森と同じだよ」
 ブランが湖の瞳で黒ドラちゃんを見つめます。黒ドラちゃんはなんだかドキドキしました。
「あ、あのね、あの木の根元にあたしのお家があるの。来て来て!」
 黒ドラちゃんはバサッと飛んで、湖の向こう側の巨木の根元に降りました。ブランも後からついてきます。

 大きな大きな大きな木は豊かに葉を茂らせ、下から見上げると木漏れ日がキラキラと輝いて見えました。

「これは、……すごいな……」
 ブランがつぶやきました。

「ここがあたしのお家なの」
 黒ドラちゃんが洞の中に入って見せます。洞の中には巨木の枯葉が敷き詰めてあってフカフカです。ブランが「素敵なお家だね」と言ってくれたので、黒ドラちゃんは嬉しくなって聞きました。
「ブランはどんなお家に住んでるの?」
「僕はここからずっとずっと北の方の山の上の岩穴に住んでいるんだ。一年中雪に覆われているような高い山だよ」
 黒ドラちゃんは(ゆきってなんだろう?)と思いました。黒ドラちゃんの住んでいる森は、一年中お花が咲いていて暖かで冬になったことがありません。この森はいつでも春みたいだって、ふくろうのおじいさんが前に言っていました。その時に、春の他にもお日様がギラギラして暑くなる夏や、寒くてドンちゃんたちなんて穴から出たくなくなっちゃう冬があることを聞きました。

 黒ドラちゃんが考えていると、ブランが言いました。
「雪を見たことない?」
「うん。冬になったことないから、この森」
 黒ドラちゃんが答えると、ブランは「やっぱり」とだけ言いました。ブランは黒ドラちゃんが知らないことも色々知っているみたいです。冬も雪もそれから森の外のいろんなこと、黒ドラちゃんは何も知りません。

「雪はね、白くて冷たくてキラキラしてるんだよ。口の中に入れると融けて水になるんだ」
「へぇー!」
 黒ドラちゃんは驚きました。
「あたしも雪を口に入れてみたい!!」
「黒ドラちゃん、あたしもあたしも!」
 ドンちゃんもタンタン飛び跳ねます。ブランはちょっと考えてから「あの……うちに遊びに来る?」と聞きました。
「行くっ!行く!、ね、ドンちゃん?」
 黒ドラちゃんが勢い込んで返事をすると、背中でドンちゃんがタンタン!と……あれ、しませんね?黒ドラちゃんが振り返ると、背中のドンちゃんが困ったような顔で身体をモジモジ、口をむぐむぐさせています。なんだか迷っているようです。
「ドンちゃん、行こうよ!ね!?」
 黒ドラちゃんが何度もお願いしているうちに、とうとうドンちゃんが言いました。
「じゃあ、お母さんたちに聞いてみるね。それで、良いって言ったら!」
 そうでした。ドンちゃんにはお母さんやたくさんの兄弟がいるのでした。ドンちゃんは一番下のウサギさんで、小さいけれど黒ドラちゃんの一番のお友達です。

「じゃあ、一緒に行けるなら明日の朝、(うろ)の前に来て」
 黒ドラちゃんがいうと、続けてブランが言いました。
「それじゃあ、僕は明日の朝、今日君たちに会った場所で待ってるよ」
「えっ、このままあたしのうちで一緒に待たないの?」
 黒ドラちゃんが驚いて言うと、ブランはちょっと困ったように言いました。
「この場所はね、凄く魔力が濃いんだ。君が一緒だから僕はたどり着けたけど、僕だけだったらきっとこの木を見つけることは出来なかった」
「そっかなぁ……」
「うん。つまり僕が本当に入るのが許されているのは、君たちに出会った場所まで、ってことなんだ。だからあの場所で待つよ」
 許されてるって、誰にでしょう?黒ドラちゃんには良くわかりませんでしたが、ブランは黒ドラちゃんよりずっと物知りっぽいので、きっとそうなんでしょう。
「わかった。じゃあ、明日またあの場所でね」
「うん。じゃあ、僕はもう行くね。ドンちゃん、お母さんたちが良いって言ってくれるといいね」
「うん。また明日ね」
 黒ドラちゃんが言うと、ドンちゃんも背中でタンタンしました。

 ブランが飛び立ち、ドンちゃんも帰っていくと、黒ドラちゃんは洞の中に入って丸くなりました。夜になると湖のほとりはとても静かです。(明日、ドンちゃんとブランと一緒に雪を口に入れられるといいなぁ。冷たくて白くて、口に入れると水になる……ふしぎだなぁ)雪のことを色々想像しているうちに黒ドラちゃんはいつの間にか眠ってしまいました。
 外では、大きな大きな木の茂った葉っぱの間から、たくさんのお星さまがチカチカと静かに黒ドラちゃんを見守っていました。

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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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