第154話-キン!ギン!ドン!

文字数 2,261文字

 宴の間に居た人々が眩しさに思わず目を閉じ、再び開いた時にはその場に丸っこく光り輝く物が三つ並んでいました。

「にくまーん!」

 王子が侍女の腕をすり抜けてニクマーンに駈け寄り、三つとも抱き上げます。不思議なことに、王子の腕の中でニクマーン像たちはホワンと柔らかくふくらんで見えました。

「キンちゃん、ギンちゃん、ドンちゃん、みんなにごあいさつしてくだしゃい!」

 王子はまるで自分の友だちのように腕の中の金・銀・銅のニクマーン像を皆に見せました。女王は王子からニクマーン像を取り上げなければとあせり、侍女もあわてて王子を止めようと手を伸ばします。しかし、一瞬早く、ニクマーン像は王子の腕から飛び出しました。

「こんばんはー!俺、キン!」
「俺、ギン!」
「俺、ドン!」
「「「三匹そろって、ナゴーンの最強のニクマーントリオ、参上~!」」」

 ポムポムと弾みながら三段重ねになってポーズつけると、決め台詞のように名乗りをあげました。その後ろで嬉しそうに拍手をする王子に対して、ナゴーンの大人たちは目を見開き口をあんぐりと開けたまま誰一人として動けません。
 黒ドラちゃん達も驚きましたが、魔力にあふれたバルデーシュでは、これくらいのことなら珍しくはありません。

「こんばんは!あなたたちはホーク伯爵のニクマーン像でしょ?」
 黒ドラちゃんがたずねると、ニクマーン像は再びポムポムと弾んで三段重ねから平たく三角形になりました。
「そうだけど~」
「けど~」
「ん~」
 なんだか三匹とも言葉を濁しています。そのまま三匹でモニュモニュと内緒話でもするようにかたまっていましたが、パっと三角形に戻るとキンが言いました。
「あそこも最初は良かったんだけどさ~」
 ギンが続けます。
「だんだん誰も会いに来ないし遊んでもくれなくなってさ~」
 ドンも続きます。
「とにかく退屈で退屈で、俺達どうにかなりそうだったんだ~」

 ホーク伯爵がショックそうに口元を押さえています。ニクマーン像はそんなホーク伯爵の様子を見て、ちょっとひしゃげると申し訳なさそうに言いました、
「大事にしてくれているのはわかるんだけど……」
「そうなんだけど……」
「でも、淋しくて退屈なのは嫌なんだよなあ……」

 そして、メル王女の方へ向けて、一列に並ぶとキンがまた言いました。
「ホーク伯爵のところのパーティーで、あの子が『弟なら毎日可愛がってくれる』って言うからさ!」

 一斉に皆の視線が集まり、メル王女はうろたえました。
「えっ、わたし、そんなこと言った覚えは――」
「声に出さなくても、聞こえたんだ、俺達には!」
 ギンが元気良く答えます。
「心の中で強く願うと、聞こえるんだよ、俺達には!」
 ドンが付けたします。

 見れば、王女の手の中の真実の魔石はまだ白いままでした。言葉には出していないというのは本当なのでしょう。

「どうやって王女のドレスにくっついてきたの?警備の人がたくさんいたでしょう?」
 みんなが不思議に思っていたことを黒ドラちゃんがたずねます。

「ああ、俺達さ~、バルデーシュで造られたから、元々は魔力があったんだあ」
「だからあの時、残ってたなけなしの魔力を振り絞って、みんなの目をくらましたんだよ」
「それであの子のドレスにひっついて、お城の中までやってきたんだ~」
 疲れたよなぁ、大変だったよなぁ、なんて三匹で弾みながらしゃべっています。

「ここに来てからはさ、ポルが毎日遊んでくれて、俺たちにも名前を付けてくれてさ」
「とにかく毎日楽しくって幸せでさ!」
「ポルが可愛がってくれる度に、俺達どんどん魔力が戻ってきて、いつの間にか動けるようになったんだ」
 三匹はポムポむと弾むと、ポル王子の元へ戻って行きました。そして、ポーン、ポーン、ポーンと弾むと、再び王子の腕の中に収まり、幸せそうにホワンとふくらみました。


 もうナゴーンの人々にも、この不思議な出来事が嘘でもまやかしでも無いとわかり始めてきました。
 でも、まさか、こんなことがあるなんて――
 皆の顔にそう書いてあります。

「曇りなき眼で真実を見抜き、優しい気持ちでニクマーンたちに接する事が出来る者だけが、楽園の扉を開く事が出来る」

 いつの間にか、一番前に出てきていたホーク伯爵が、静かな声で絵本の中の一節を唱えました。そして、王子の元へ近づひざまずくと、優しくニクマーン達を撫でながら話しかけます。

「ポル王子様、この三匹はぜひこれからも貴方様のお手元で過ごさせてやってください」
「うん!」
「いえ、そんなことは!」
 元気なポル王子の返事にかぶせて、女王が驚きの声を上げます。しかし、ホーク伯爵は女王に向き直るとなおも言いました。
「私が所有していた時よりも、王子の手の中にある方がはるかに幸せそうです、このニクマーンたちは」
 そういうと、ホーク伯爵は最後に名残り惜しそうに三匹を撫でてから立ちあがりました。

「でも、このような騒ぎを起こしたのは、紛れもなく王女のせいでもあります……」
 そう言いながら女王は王女を見つめます。王女の頬にはまだ涙の跡がありました。
 けれど、いつものようにきゅっと唇を噛みしめ、感情を必死に押し殺して女王を見つめ返します。

 女王は、その瞳を見つめて声を失いました。

 そこには、澄んだ瞳がありました。
 とても子どもとは思えないような、寂しげで悲しい想いを湛えながら。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み