第203話-フカフカ谷のダンゴロムシは……

文字数 2,059文字

「ぶぶいん!」

 モッチが嬉しそうに穴から顔を出しました。
「おや、モッチもよく来たね。どっこらしょと」
 マグノラさんが起き上がって尻尾をゆらりと揺らすと、辺りにとても良い香りが広がります。

「マグノラさん、あのね、ダンゴローさんとフカフカ谷へ出発したんだけど、あたし、モッチのお花を忘れちゃったの」

 黒ドラちゃんが困った顔で相談すると、マグノラさんが一本のお花をプチッと摘んで渡してくれました。
「まあ、フカフカ谷がどのくらい遠くなのはわからないけれど、とりあえずこれをお持ち」
 お花畑に咲いている中でも小さなお花ですが、真ん中の方がキラキラと輝いています。
「わ~、なんかすごいね、このお花」
 黒ドラちゃんが受け取ると、お花畑のお花に夢中になっていたモッチが戻ってきました。
「ぶいん!」
 黒ドラちゃんからキラキラのお花を受け取って、大喜びしています。

「あの、華竜様、ありがとうございます」
 穴の中からダンゴローさんも顔を出しました。
「無事にスコップも取り戻せたみたいだし、良かったね」
 にっこり微笑むと、マグノラさんが再びお昼寝の体勢に入りました。尻尾は相変わらずゆらゆらと揺れています。

「ありがとう!マグノラさん、あたしたち、出発するね!」
 黒ドラちゃんはお礼を言うと、再び穴の中に潜りました。
「ぶぶいん!」
 お花の茎をお腹の周りに巻いて、ギュッとしばったモッチが続きます。
「華竜様、お世話になりました」
 ダンゴローさんが丁寧にお辞儀をしてから、二匹の後に続きました。
「ああ、気をつけておいき」
 マグノラさんは三匹を見送ると、大きなあくびをして目を閉じました。


 モッチの魔力切れの心配もなくなって、黒ドラちゃんは張り切って掘り進みます。時々不安になって地上に顔を出すと、その度に思いもよらない場所に出ました。白いお花の森の後に掘り進んで穴から顔を出した時には、王宮のすぐ傍でした。お城の人たちをびっくりさせてはいけないと、すぐに潜って別な方向へ進みました。戻ったつもりはないのに、次に穴から顔を出すと白いお花の森のすぐそばでした。
「本当に不思議だね~!」
 黒ドラちゃんはなんだか楽しくなってきました。金のスコップは本当に不思議なアイテムです。
 その後はどこに出るのか楽しみで、何度か穴から顔を出してみました。南の海辺、西のエステンとの境の森のそば、再び王宮、そんな風に寄り道を楽しんでいると、後ろから遠慮がちな声が聞こえてきました。
「あの、古竜様、もうそろそろフカフカ谷を目指していただけるとありがたいのですが……」
「あ!」そうでした、そうでした。
 黒ドラちゃんたら、あちこちに出られるのが面白くてすっかりフカフカ谷のことを忘れちゃっていました。
「ご、ごめんなさい、ダンゴローさん!今度は絶対にフカフカ谷へ向かうね!」
 浮かれていた気持ちを引き締めて、黒ドラちゃんは金のスコップをギュッと握りしめます。

 ――美味しい落ち葉の敷き詰められた、黄金色のフカフカ谷
 そこにはたくさんのダンゴロムシさんたちが暮らしている
 コロコロとした黒くて丸い体、手には金のスコップ
 みんながダンゴローさんを待っている
 黒ドラちゃんを連れて帰るのを待っている――

「ふんぬ~~~!」

 黒ドラちゃんの背中の魔石がポワンと光り、握った金のスコップがきらりと輝きました。フカフカ谷へ行くんだ!ダンゴローさんと一緒に帰るんだ!黒ドラちゃんが力強く掘り進みます。やがて、スコップがスポッと通り抜け、穴から出てきた黒ドラちゃんの目の前には、見たことの無い景色が広がっていました。

「着きました!フカフカ谷です!帰れたんです!」

 後から出てきたダンゴローさんが泣きそうな声で叫んでいます。
「ぶぶい~ん」
 モッチも穴から出てくると、ダンゴローさんの周りを嬉しそうにくるくる回っています。

 そこは薄らと明るい場所でした。たくさんの木々に囲まれて、空は見えません。足元は、ちょっと湿り気を帯びた落ち葉で埋め尽くされています。茶色と黄色、少しの緑と赤。フカフカ谷は、様々な落ち葉で彩られていました。

「ダンゴロー兄ちゃん!!」
「ダンゴロー!」
「ダンゴローちゃ!」
 そこここの落ち葉の陰から、たくさんの小さなダンゴロムシが飛び出してきました。

「ただ今、戻ったよ!」
 ダンゴローさんが手を広げて迎えます。小さなダンゴロムシ達とダンゴローさんは、ギュッと抱き合って一つの大きな黒い塊のようになっていました。

「ぶぶい~ん」
 モッチが良かったねって言ってます。黒ドラちゃんもホッとしました。クロ様が黄金色にしたというフカフカ谷。そこにようやく黒ドラちゃんもたどり着く事が出来たのです。ひと通り再開の喜びに沸いた後で、小さなダンゴロムシたちが黒ドラちゃんとモッチに気付きました。

「ダンゴローお兄ちゃん、その二匹、お客さま?」
「このぶんぶん言ってるのって、ハチ?ハチだよね?」
「ダンゴローちゃ、こっちの丸っこい鳥はなあに?」

「……」
 やはりダンゴロムシは地上の世界のことに疎いようです。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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