第89話-ご褒美はカミナリ玉

文字数 1,502文字

 ラキ様は何をくだらないこと聞くのか?という表情をしながら続けました。
「まずは、そのふわふわを軽くムギュッとしてな」

「むぎゅ……」

 背中のドンちゃんがつぶやきます。

「それから撫でくりまわし、すりすりするのじゃ」
 うっとりとした表情になっています。

「なでくり、すりすり……」

 またドンちゃんがつぶやきました。黒ドラちゃんの背中からそーっと顔をのぞかせて、ドンちゃんはラキ様に聞きます。
「……ピリピリしたりしない?」
「もちろんじゃ。あ、いや、もしそなたがピリピリしたいのであれば、喜んでしてやるぞ?」
 ラキ様に聞かれて、ドンちゃんは途端にふるふると首を振りました。
「したくない!したくない!ピリピリは苦手なの!」
「ならばムギュッとすりすりだけじゃ」
 ラキ様がドンちゃんに答えると、ようやくドンちゃんが黒ドラちゃんの背中から降りてきました。ラキ様が手を広げると、その中にぴょんと飛んで納まりました。ラキ様がうれしそうに腕の中のドンちゃんに頬ずりします。
「ふわふわじゃ、ふわふわじゃ!」
 ラキ様はなんだか良い匂いがします。ドンちゃんは鼻をヒクヒクさせながら大人しくすりすりされています。
 その様子を見ながら、黒ドラちゃんがラウザーに聞きました。
「ねえ、南の方にはうさぎっていないの?」
「うーん。見たこと無いなぁ。っていうか、南の方は暑いからさ、毛皮のふさふさしてる生き物ってあまり見ないんだよ」
 なるほど、と黒ドラちゃんは思いました。確かに、この間も砂漠の方ではヘビさんとかトカゲさんとしか会わなかった気がします。

 しばらくドンちゃんをすりすりしていたラキ様は、満足したのか黒ドラちゃんにドンちゃんを返してくれました。
「善きかな。我を喜ばせた褒美にこれをやろう」
 そう言って、ラキ様は袖の中に手をやると、小さな玉をドンちゃんの前に差し出しました。ドンちゃんが受け取ってみると、玉の中には小さな稲光が無数に煌めいています。

「わあー!これ、すごくきれいだよ、黒ドラちゃん!」
 黒ドラちゃんが覗き込むと、玉の中ではキラキラした光があふれていました。
「すごい!」
「その玉の中には、雷の力をほんの少しだけ閉じ込めてある。夜に見て見るが良い、一段と綺麗じゃぞ」
 ラキ様がドヤ顔で教えてくれました。
「えー、そんな良いものがあるなら俺にもくれたって――」
 後ろの方でラウザーがぶつぶつ言っています。
「お前にはいつも本物をくれてやっておるじゃろう?」
 そう言いながら、ラキ様は小さな稲光をラウザーの鼻先に飛ばしました。

「ラキ様、ありがとうございます」
 ドンちゃんがあらためてお礼を言うと、ラキ様はにっこり微笑んで「またそのうちすりすりさせておくれ」と優しく言いました。
 ドンちゃんは斜めにかけたポシェットに、大事そうに雷玉をしまいました。
「ドンちゃん、ポシェットさっそく役に立ったね!」
 黒ドラちゃんに言われて、ドンちゃんが恥ずかしそうにもじもじしながら、コクンとうなずきました。

 ドンちゃんが下げているポシェットは、食いしん坊さんことグインから貰ったものなのです。こげ茶と白の毛糸で編んであり、肩に下げる紐のところに灰色のポンポンがついています。もちろん、食いしん坊さんの御毛製です。守りの魔法がかけてあって、ドンちゃんのお出かけをサポートしてくれるのです。

 と、ドンちゃんがギュッとポシェットのひもを握って、お耳をピンッとさせました。
「馬車がくるみたい!」
 その言葉が終わらないうちに、みんなの目の前に魔法の馬車が現れました。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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