第194話-湖のブローチ

文字数 2,283文字

 みんなのびっくりしているお顔を見て、ラキ様がふっと笑いました。
「何をそんなに驚いておるのじゃ?カミナリ玉が光ることは皆知っておろう?」
「そ、そうだけど。でも、カミナリ玉をどうやって使うの?」
 ドンちゃんがポシェットいっぱいのカミナリ玉を見ながらたずねます。ラキ様が綺麗な指でその内から一つをつまみます。
「カーラスは光りモノが好きなのであろう?ならばこれをバルデーシュへばらまいてやれば良いではないか?」
「ばらまいて、どうするの?」
「もちろん、集めるのじゃ」
「……」
 黒ドラちゃんもドンちゃんもラキ様の作戦の意味が分からなくて首をかしげました。
「カミナリ玉をばらまいて、今度は集めるの?」
 ドンちゃんが不思議そうにたずねると、ラキ様がふーっとためいきをつきました。
「わからぬか?」
「うん、わかんない!」
 ドンちゃんと一緒に、黒ドラちゃんもモッチもうんうんうなずきました。あ、ラウザーも尻尾をニギニギしながら、後ろでこっそりうなずいてます。

 突然ゲルードがポンッと手を叩きました。
「なるほど!それならばバルデーシュ中のカーラスを一か所に集めることが出来るかも知れませんな」
 感心したようにラキ様にうなずきながら言っています。
「え、カミナリ玉じゃなくてカーラスが集まってくるの?」
 黒ドラちゃんがたずねると、ブランが教えてくれました。
「正確には、光るカミナリ玉を追いかけて、カーラスが集まってくるんだよ、黒ちゃん」
「そっかあ!!」
 黒ドラちゃん達もようやくラキ様の作戦が見えてきました。光りモノが大好きなカーラスを、カミナリ玉を使って集めようというのです。

「でも、バルデーシュ中にカミナリ玉をばらまくのって大変じゃないの?」
 ドンちゃんがたずねました。
「それに、ばらまいた後で、どうやって集めるの?」
 黒ドラちゃんもたずねます。
「ぶぶん?」
 モッチも不思議そうです。

「カミナリ玉は小さな雷と同じじゃ。たとえ広い範囲であろうと、我が落とそうと思えばどこにでも落とせるわ」
 ラキ様が自信たっぷりに言いました。
「すごいねえ~!ラキ様!かっこいい!」
 黒ドラちゃんが褒めると、ラキ様の白い頬が薄らと赤く染まりました。
「はあっ、か、可愛い……」
 ラウザーが尻尾をカミカミしながら後ろの方でぐにゃぐにゃしてます。テーブルの上では、ダンゴローさんとモッチが手を取り合って喜んでいます。

「それで、集める時はどうするの?ラキ様が集められるの?」
 ドンちゃんが期待一杯の目で見つめながらラキ様にたずねました。
「それは出来ぬ」
 ラキ様があっさり答えます。
「えっ!」
 黒ドラちゃんもドンちゃんも驚いてお口をポカンとさせました。ラウザーも尻尾をカミカミしたまま固まっています。ダンゴローさんとモッチも手をつないだままピタッと止まっています。

「出来ぬって、おっしゃいますと……」
 リュングが恐る恐るラキ様にお伺いしています。
「我はばらまくだけじゃ、集めるのは国一番の魔術師なりがなんとかすれば良いであろう?」
 ラキ様がチラリと視線を送ると、ゲルードは「うーん」とうなって考え込んでしまいました。せっかくの良いアイデアだと思ったのに、集める方法が無ければ無駄になってしまいます。みんなは再び考え込んでしまいました。ダンゴローさんの背中も丸くなっています。

 ふと、ブランが顔を上げます。考え込むゲルードの横から、話しかけてきました。
「黒ちゃん、黒ちゃんの魔力で集められないかな?」
「あたしの魔力で?」
「うん、前にマグノラが言っていただろ?黒ちゃんには思い描いたことを叶える魔力があるって」
 そう言えば、そんな話をされましたっけ。あれはドンちゃんの為にノーランドにお出かけした時でした。

「……出来るかな?」
「きっと出来るよ、黒ちゃんなら」
 そう言ってブランが優しく見つめてくれます。こんな風に見つめられると、なんだか力が湧いてくるような気がします。

「よーし!ラキ様、ためしに古の森の中にカミナリ玉をばらまいてみて!」
「よかろう」
 ラキ様の瞳がキラリッと光ります。
「そりゃっ!」
 掛け声とともに、古の森の中にドドーーンと雷の音が轟きました。黒ドラちゃん達は一瞬びっくりして耳を塞いでしゃがみこみました。そのすぐ後に森中にパラパラと雨が降るような音が響きました。見れば、そこここに小さなカミナリ玉が落ちています。湖にもたくさん落ちたようで、無数の波紋が広がっていました。

「それじゃあ、いくよ!」
 黒ドラちゃんは目を閉じて想像しました。

 ――古の森の中にはたくさんのカミナリ玉がピカピカと輝いています。
 それをラキ様の前に、いえ、せっかくだから湖の周りにぐるっと集めましょうか。
 エメラルドグリーンの湖を、ピカピカ光るカミナリ玉がぐるりと囲んでいます。
 森中のカミナリ玉が湖の周りに集まってきました。
 湖とカミナリ玉で、まるで大きなブローチのよう、美しく光り輝いています。

 ――きれい

 目を閉じたままの黒ドラちゃんがつぶやくと、森中のカミナリ玉が一斉にほわんと輝きました。
「やった!」
 ラウザーが叫びました。黒ドラちゃんが目を開けてみると、森の中や湖の中からカミナリ玉が集まってきて、湖をふちどる真っ最中でした。
「わぁ~、綺麗だね、すごいよ!黒ドラちゃん」
 ドンちゃんがうっとりしながら褒めてくれます。
「ぶぶん!」
 モッチも黒ドラちゃんにやったね!って言ってくれました。

「うん、きっとこれでカーラスを一か所に集められるよね?!」
 黒ドラちゃんの言葉を聞きながら、ダンゴローさんも嬉しそうに輝く湖を見つめました。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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