第309話 最終章-1

文字数 2,412文字

古の森に、足を運んでくださって、ありがとうございます
黒ドラちゃんたちのお話、最終章です
全4話とあとがき1話を予定しています
よろしくお願いいたします 




**********




 その日の朝、黒ドラちゃんは何だかいつもと違う気がして目を覚ましました。


 何だか森の中がひんやりしている気がします。


 古の森は、いつもはポカポカ春のような陽気です。
 でも、今朝はちょっとだけ空気がひやっとしていました。

「何だろう?ブランが北の山から雪を運んできてくれたのかな?」


 黒ドラちゃんはお耳を澄ませて、森の中にブランが来ていないか探してみました。お鼻をクンクンさせて匂いも確かめます。
 でも、ブランの羽音も匂いもしませんでした。どうやら、このひんやりはブランのせいでは無いみたいです。

 洞の中から出てきて、不思議な気持ちで辺りを見回していると、後ろの茂みからガサガサという音と一緒に、聞き慣れた羽音が聞こえてきました。

「ぶっぶい~~ん!」
「ドラドラ~!」

 いたずら好きの仔ノラウサギのマシルと、クマン魔蜂のモッチです。その後ろからちょっと遅れて、マシルとは双子のグートも現われました。

「ぶぶいん?」
 キョロキョロしていた黒ドラちゃんにモッチがどうしたのか聞いてきます。

「あのね、今朝ってなんだかいつもと違う気がしない?」

「ぶぶ、ぶいん……」

 黒ドラちゃんの言葉に、モッチも辺りを見回しました。

「ぶいん?」

「わからない?あたしの気のせいなのかなぁ」

 黒ドラちゃんがもう一度森の中を見回していると、後ろの茂みが大きくガサガサと音を立てて、ドンちゃんが現われました。

「おはよう、黒ドラちゃん」

「おはよう、ドンちゃん」

「ぶいん♪」

「ああ、やっぱりモッチと一緒だったんだ。朝ご飯を食べ終わった途端に二匹で外へ飛びだして行っちゃったから、探しに来たの」

「ドラドラ~」
「モチャモチャ~」
 マシルとグートが仲良く答えます。どうやら、黒ドラちゃんとモッチと一緒にいたんだよってことらしいです。

「今日は朝ご飯を食べたら、遊びに行く前にノラウサギダンスの練習のお約束だったでしょ?」

「ドラドラ~!」」
「モチャモチャ~」!」

 双子にとっては、黒ドラちゃんとモッチと遊ぶ方が良かったみたいです。

「まったくもう。黒ドラちゃんたちと一緒なら叱られないと思ってるでしょ?」

 ドンちゃんが腰に前足をあてて、ちょっとだけ低い声で二匹にいうと、マシルとグートは黒ドラちゃんの後ろへそそっと隠れました。

「ぶぶいん」

 なぜかモッチも双子と一緒に黒ドラちゃんの背中に隠れています。

 黒ドラちゃんの後ろからコソッと顔をのぞかせる三匹の様子がおかしくて、思わずドンちゃんは笑ってしまいました。

 すると、ホッとした様子でマシルとグートが前に出てきました。モッチもマシルの頭の上に止まって、どこからか出した白い布で汗をぬぐっています。

「黒ドラちゃん、朝早くから子どもたちが押しかけてごめんね」

「ううん、大丈夫だよ。それよりさ、ちょうどドンちゃんと話したかったの」

「お話?」

「うん。ええとさ、何だかいつもと違う感じがしない?」

 そう言って黒ドラちゃんが辺りを見回すと、ドンちゃんも首をかしげました。

「うーん。何か違うかな?いつもと同じ気がするけど」

「そっかぁ。ドンちゃんにもわからないのか」

 黒ドラちゃんはちょっとガッカリしました。子どもたちやモッチにはわからなくても、ドンちゃんならわかるかも知れないって思っていたんです。

「ねえ、黒ドラちゃんにしかわからないって事は、ひょっとして森に新しい竜が来ているんじゃ無い?」

「えっ!?」
「ぶいん!?」
「ドラドラ~!?」

 黒ドラちゃん、モッチ、マシルが驚いて声を上げました。
 グートの眠そうな目は一瞬だけ大きくなって元に戻っています。

「だって、黒ドラちゃんにしかわからない時って、ブランやラウザーが来た時だったじゃない?」

「うんうん!」

「だからさ、今朝も知らない竜が来ているとか、古の森に」

「そっかあ」

 黒ドラちゃんはもう一度目をつぶって耳を澄ませてお鼻をクンクンさせました。

「うーん?」

「違うの?」

「よくわかんない。でも、森の外れまで行ってみよう!」

「ぶぶいん!」
「ドラドラ~!」
「モチャモチャ~!」

 黒ドラちゃんの言葉に、モッチと双子がうれしそうに飛び跳ねました。

「でも、森のどっちの方角だかわかる?」

「うーん。白いお花の森がある方……かな、なんとなくだけど」

「マグノラさんのところに知らない竜でも遊びに来ているのかな?」

「そうなのかな?まあ、とにかく行ってみるね。みんな一緒に行く?」

 黒ドラちゃんがたずねると、みんながいっせいにうなずきました。

 あ、ドンちゃんが双子を抱っこして黒ドラちゃんの背中を登ってきます。今朝のノラウサギダンスの練習は、無事に後回しになったみたいです。モッチもいつものように黒ドラちゃんの頭の上に止まりました。

「じゃあ、行ってみようか!」

「ドラドラ~!しゅっぱーつ!」
 黒ドラちゃんが羽ばたくと、背中でマシルが大きな声で言いました。
 ナゴーンへのお出かけ以来、マシルはこの号令がすっかり気に入っちゃったのです。

「ぶっぶい~~~ん!」
 モッチもご機嫌で羽音を立てています。

 そうして黒ドラちゃんたちが森の外れを目指して飛び上がった瞬間に、目の前をふわりと白いものが横切りました。

 それは一つだけではなくて、次々に黒ドラちゃんたちの上に降ってきます。

「ぶぶいん!?」
「これ、なあに?」

 モッチとマシルが不思議そうに上を見上げました。黒ドラちゃんとドンちゃんは白いものを見てビックリしました。

「雪?!古の森に雪が降ってきた!」
「ええっ!でも、雪ってブランが棲んでいる北の山や、ノーランドみたいな寒い国じゃないと降らないって、フクロウのおじいちゃんが言ってたよね……」

 いつでも春のはずの古の森に、白くてふわふわの雪が降ってきたのです。
















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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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