第1話 黒ドラちゃん

文字数 2,573文字

 古(いにしえ)の森へ遊びに来てくださってありがとう
 森の入口は童話風
 その奥に、たくさんの出会いの物語が、豊かに広がっています
 さあ、どうぞ、黒ドラちゃんたちのお話を、ゆっくり楽しんでいってくださいね



*****



 むかしむかし、あるところに大きな森があり、その中には小さいけれどとてもきれいな湖がありました。湖の水はキラキラと輝くエメラルドグリーンで、お天気の日には澄んだ青空と流れる雲が穏やかに映し出されていました。

 その湖のほとりには、とても大きな木が一本立っていました。その巨木は、根元近くにこれまた大きな洞(うろ)が空いていて、そこに1匹の竜の子どもが住みついていました。竜の子どもは、その体の色からまわりのみんなに「黒ドラちゃん」と呼ばれていました。まわりのみんなっていうのは、森に住むウサギとかリスとか可愛い系のみんなです。黒ドラちゃんは、可愛いものが大好きなんです。

 黒ドラちゃんはお天気の日には洞の外に出て湖で泳いだり、森の上を飛んでお散歩したりして過ごします。黒ドラちゃんが洞の外に出ている間は、怖い系のみんな(オオカミさんとかキツネさんとか気の荒い牡鹿さんとか)はなぜか森に現れません。なので、可愛い系のみんなはお天気が良いと、いそいそと黒ドラちゃんをお散歩に誘うのでした。

 その日も黒ドラちゃんは、一番の仲良しのウサギのドンちゃんを背中にのせて森の上を飛んでいました。なんでドンちゃんて呼んでるかって?ま、それはおいおい後でお話ししますね。
 森の上は空気がとても澄んでいて、黒ドラちゃんはその上を飛ぶのが大好きでした。
と、初めて嗅ぐ匂いがしました。
「ドンちゃん、なにか匂うね」
「そう?あたしわかんないなぁ」
 ドンちゃんにはこの匂いがわからないようです。
「匂いのする方に行ってみても良い?」
 黒ドラちゃんがたずねると、ドンちゃんは返事の代わりに背中で一回タンッ!と軽快に後ろ足を踏み鳴らしました。ドンちゃんがご機嫌の時にする合図です。よし、と黒ドラちゃんは匂いのする方へ飛んでいきました。
 少し進んだところで、何かキラキラ光るものが森の中に見えてきました。黒ドラちゃんはワクワクしながら近づいていきます。
 すると、キラキラがくるりと動きました。バサバサと空中でとどまりながら、黒ドラちゃんが見つめると「それ」も黒ドラちゃんを見つめました。
 「それ」は白くてキラキラしていて、なんだかちょっとゴツゴツした感じの生き物でした。大きさは黒ドラちゃんを二回りくらい大きくした感じ。首っぽいのがあって、胴体から長くつづく尻尾ぽいのがあって、背中には羽も見えました。首の先には顔っぽいのがついていて、湖と同じ色の真ん丸な目でこちらを見上げています。
「あれ、竜だよ!黒ドラちゃん」
 ドンちゃんが背中でタンタンしながら興奮しています。
「え、あれ竜なの?」
 なんか、自分(竜)と違うんじゃない?と思いましたが、ドンちゃんは続けて叫びました。
「間違いないよ!黒ドラちゃんと色違いさんだもん!」
 ドンちゃんに言われてよく見てみると、なるほど色は違うけどよく似ているのかも?……えー、あたしってあんなにゴツゴツしてるかなぁ?
 とはいえ、とりあえず黒ドラちゃんは色違いさんに話しかけてみることにしました。

「ねぇ、あなたは竜なの?何ドラちゃんなの?」

 白い竜は驚いたように、碧の宝石のような瞳を更に真ん丸にしました。しばらく固まっていましたが、黒ドラちゃんとドンちゃんがじっと見つめて返事を待っていることに気付くと、ようやく答えてくれました。
「……ブランだよ。ぼくはブラン」
「ふーん。ブランドラちゃん?」
「いや、ただのブラン。ドラちゃんはつかないかな。君の名前は?」
「黒ドラちゃんだよ」
「いや、えっと…」
 白い竜、ブランは少し困ったようにした後、ドンちゃんに向かって聞きました。
「この子はなんていう名前なの?」
「黒ドラちゃんよ」
「……」
 ブランはちょっとの間考え込んでいましたが、すぐに気持ちを切り替えたように見上げてきました。
「ねぇ、ちょっと降りてこない?君が嫌じゃなければ。少し話さない?」
「良いよ!」

 黒ドラちゃんはすぐにブランのそばに降りました。自分以外の竜なんて初めて見るし、色々お話してみたかったんです。

 降りてみると、今度は黒ドラちゃんがブランをちょっと見上げるような感じになりました。近くで見てもブランはキラキラしていてとても綺麗でした。
「ブランはきれいだねー。なんでそんなにキラキラしてるの?」
 黒ドラちゃんが尋ねると、ブランは「君だってキラキラしてるよ。とてもきれいだ」と答えました。黒ドラちゃんはなんだかむずむずするような、穴に潜りたいような空に飛び出したいような、おかしな気持ちになりました。
「あたし、キラキラしてる?」
 ちょっと振り返って背中のドンちゃんに小さい声で聞いてみます。
「うん!黒ドラちゃんも白ドラちゃんも同じくらいキラキラしていてきれいだよ!」
 ドンちゃんが嬉しそうにタンタンしながら答えます。黒ドラちゃんもなんだか嬉しくなって、じっとしていられなくなり、ブランに森の色々なところを見せたくなりました。可愛い系のみんなのことや、ブランの瞳の色と同じ湖や、いつも入っている洞の中や、とにかく色々を、です。

「ねぇ、森を案内してあげようか?」そう尋ねながら、もう黒ドラちゃんは羽をバサバサさせて飛び立つ気まんまんです。ブランはちょっと迷っているようで「この森には他にも竜が居る?」と聞いてきました。ひょっとして、竜が一匹しかいないような森ってつまらないって思われるかな?と、黒ドラちゃんは不安になりました。
「ううん、竜に会うのはブランが初めてだよ、ここには他の竜はいないよ。で、でも、可愛い系のみんなとか!きれいな湖とか!美味しい木の実とか!他にも色々いろいろっ」
 黒ドラちゃんがあせって答えるとブランは嬉しそうに「うん、うん。じゃあ、一緒にいくよ、案内してくれる?」と羽をバサッバサッとさせてくれました。

 良かったあ。黒ドラちゃんはホッとしてご機嫌で飛び立ちました。

「こっち、まずはこっちだよ!」

 はしゃぐ黒ドラちゃんに続いてブランも飛び立ちます。白と黒の二筋のキラキラした光が、森の上を楽しげに飛んで行きました。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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