祝☆FA第四弾記念小話『デサンのひとりごとー2』

文字数 3,453文字

モッチとダンゴローさんの絵を描いて、国一番の画家となったデサンさん
何やら、彼の耳に信じられない噂が入り……
おじさま宮廷画家の思いがけない1日のお話。
本編とは雰囲気が変わりますが、お楽しみいただければ幸いです

----------



「なんですと、モッチ殿とダンゴロムシ妖精の絵が巷で売られている!?」


その報せを聞いた時、私は自分の耳を疑った。
バルデーシュの宮廷画家として、そして妖精たちに愛される国一番の画家として、あの二匹の絵を描けるのは自分しかいないという自負があった。
何しろ、モッチ殿はともかくとして、ダンゴロムシ妖精は幻ともいわれる存在。
その姿を見たものは、バルデーシュの中でもごくわずか、画家では自分だけだろうと思っていたからだ。

だというのに、巷で売られているその絵は大人気なのだという。
しかも、絵を見たモッチ殿も古竜様も良く出来ているととてもお気に入りなのだとか。

「うそだ、そんなはずはない。……そうか!誰かが私の絵を真似たのだな」
けれど、私のつぶやきはすぐに否定されてしまった。

「いや~、違うと思うぜ、あの絵はこのお城に飾られてる絵とは全然違うもんなぁ。あれってアラクネさんのお話を聞いて描いたんじゃないかってさ」
のんきそうに答えてきたのは、普段は南の砦に棲む陽竜様だ。
今日は華竜様の棲む森へ遊びに来たついでに、付き添いの魔術師見習いに頼まれ、城へ顔を出したという。
少し前に北の塔がやけに騒がしかったので、何か魔術師の集まりでもあったのかもしれない。

が、今はともかく、その「絵」について聞かなければ。

「デサンの絵はすごいよ。 綺麗だし華やかだし、こう、なんていうか、王様もすごく立派に描けてるしさあ」
でもさ、と陽竜様の言葉は続く。
「今、売れてる絵はさ、何ていうか、全然違うんだよ」
「そ、それはそうでしょう!モッチ殿とダンゴロムシ妖精の姿を見た画家は、私一人しか」
「あ、違う違う。 なんか違うっていうのは、間違いがあるとかじゃなくて、雰囲気が、さ」
「雰囲気……?」
「うん、何ていうかぁ~、ほわほわっていうか~ふわんふわんていうか~」
「ほわほわの……ふわんふわんですか?」
「うん!そんな感じでさ、あ、悪い、リュングが戻って来た。じゃあ、俺行くね~」
そう言って、陽竜様はしっぽを振り振り行ってしまわれた。
人間の姿になっても尻尾だけは出てきてしまうとか、うかつな方だ。
そうだ、竜とはいえ、陽竜様はうかつな方。
だから絵についても聞いたことをそのまま鵜呑みにしてはいけないのではないか?

やはり、その絵は自分の目で確かめねばなるまい。
ちょうど今日と明日は休みをいただいている。
城から離れて小旅行にでも行こうかと考えていたが、予定を変更して城下街に出るとしよう。

陽竜様の話では、絵を売っているのは東から来た旅人だとか。
なぜ、遠くはなれた東の国で、モッチ殿とダンゴロムシ妖精の絵が描ける者がいるのだ?
アラクネ何某がどうとか言っていたが、やはりおかしいではないか。

すべてはその絵を見てからだ。
私がはっきりさせてやる!


いつの間にか、悪党どもを懲らしめる正義の味方のような気持ちになりつつ、私は街へと出て行った。



*****



街で絵を売っているという旅人を探し始めたものの、はたと思い当たった。
この王都の賑わいの中で、そんなに簡単に件の旅人たちが見つけられるだろうか?
ついつい頭に血が上ってうっかりしていたが、陽竜様に旅人の特徴でも聞いておけば良かった。
これだけの人出では、そう簡単に見つけられないだろう。
そう、例えばあそこの角付き兜を被っているような悪目立ちする特徴でもなければ、見つけることは……
おや、あの者が手にしているのは巻かれた絵ではないか?

「ちょ、そこの、兜の君!」
角付き兜が振り返った。
かなり大柄だ。
気安く呼び止めてしまったが大丈夫だろうか、暴れ者だったりしたら……
「俺のことか?」
「そ、そうだ、君だ。絵を、絵を持っていなかったか?」
「これか?」
思ったよりも若い声で答える角付き兜の青年(?)が絵を差し出そうとしたところで、傍らにいたイケメンっぽい青年に止められた。

「お待ちを」

整った目鼻立ち、鋭い眼光、只者じゃない感があふれている。
しかも顔半分がすっぽりと布で隠されている怪しさだ。
これはやはり声をかけるべきでは無かったか。

「絵をお求めでしょうか?」

丁寧な言葉使いの中にも、隠し切れない鋭さがある。
私はちょっとひるみそうになったが、ここはバルデーシュの街中だ。
少し離れたところには街を見回る騎士も見える。

「クマン魔蜂のモッチ殿とダンゴロムシ妖精の絵を売っているというのは君たちか?」
「ええ、そうだと言ったら?」
ぐっ。
ますます鋭さを帯びる視線に背中を冷や汗が流れた。

「その絵を1枚買いたい。おいくらかな」
私が絵を買うために声をかけたことを知って、イケメンの目が少し和らいだ。
「これは運が良い!サイハーン画伯手書きの10枚の中の最後(・・)の1枚を手に入れるとは!」
イケメンの目がきらりと光る。
そうか、最後の1枚か、良かった。
が、なぜか相手はそのまま動かない。
「?……おいくらだろうか?」
見れば絵はそれほど大きいものではない。
旅で持ち運べるくらいだから当然かもしれないが、ハンカチ程度のサイズだ。
それに街中で売られるような流行画は、そんなに高価なものはないはずだ。


「では、じゅうまんゴー「あ、また1枚売れたんですね!?良かったぁ。これでまた5000ゴールド入るから、助かりますよね~!」
イケメンが何か言いかけていたが、横から小柄な少女が現れて金額を教えてくれた。
私が5000ゴールド払うと、なぜかイケメンが舌打ちしながら受け取る。
少女がイケメンに小突かれていたが、もう私の気持ちは絵に移っていた。

一瞬、その場ですぐに見てみようかと思ったが、たとえどんな絵であろうと、必ずしっかりと向き合うというのが私の信条だ。
この絵は城に戻ってからゆっくりと見ることにしよう。



*****



絵を持ち帰り、城にある自分のアトリエで一人心を落ち着ける。

絵をゆっくりと広げて見る。

それを目にした時の気持ちを、なんと表現すればいいか、私にはわからなかった。

だが、一つだけわかったことがある。
絵には、私が描けなかったモッチ殿とダンゴロムシ妖精が描かれていた。

技巧だけなら、私の絵は数段優れていると自信を持って言える。
けれど、絵というものはそれだけではないのだ。
『何』を描くか、どう表現するか。

私の描いた二匹は、その様子、背中の光、羽の色、すべて忠実に再現していると思う。
けれど、それはあくまで王の偉業(・・)のアクセントだ。
そこに、二匹の間に通じる『気持ち』は描けていたのか。

もう一度、サイハーンという画家が描いたという絵を見てみる。
『ほわほわっていうか、ふわんふわんていうか』
輝竜様の言葉がよみがえる。
あれは、絵のことを言っていたのではないのだ。
絵を見て、己の心が感じた想いを表していたのだ。

優しくダンゴロムシ妖精を抱きかかえるモッチ殿、恐縮しながらも安心して運ばれるダンゴロムシ妖精。
傍らに描かれた金のスコップの輝きは、二匹が繰り広げた冒険の煌めきのよう。

私はじっと絵を見つめた。
気付けば涙が流れていた。
人の絵を見て涙を流すなんて、いつ以来だろうか。


外はすっかり暗くなり、明かりを入れていない部屋も同じく暗くなっていた。

けれど、私が見つめる先で、サイハーン画伯の絵は柔らかく輝いていた。
城中から集まった、たくさんの妖精たちに囲まれて。

ふっと、耳元でモッチ殿の羽音が聞こえたような気がした。

それは決して愚かな絵描きをあざ笑うようなものではなく、へし折られた鼻っ柱を、涙で濡れた頬を、優しく癒すような響きがあった。


この絵はこのアトリエに飾っておこう

絵の世界は広いのだということを

ほわほわとか

ふわんふわんとかいう優しい気持ちを

いつまでも

忘れずにいられるように――







----------




今回のFA小話には、サイハーン画伯(彩葉様)の作品の登場人物にゲスト出演してもらっちゃっています。
時間と心に余裕のある方は『小説家になろう』の古森の活動報告をご覧ください。
彩葉様のお話へのリンクが貼ってありますので、本家のお話を読んでからこの小話をもう一度読んでいただくと、一粒で二度おいしいかもですw

小話までお付き合いいただき、ありがとうございました☆
黒ドラちゃんの新しいお話を
再び皆様にお届けできる日が来ることを
私自身も楽しみにしております
では(*´▽`*)ノ




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み