第47話-チームドラゴン

文字数 2,141文字

「ラウザー、ちょっと、ちょっと待てよ」

 馬車の中で話を聞いていたブランが、ラウザーの話を止めました。

「今の話だと、ゲルードが言ってた魔力の揺らぎって……」
「う、うん」
 ラウザーがまた尻尾をにぎにぎしています。どうしても出てきちゃうみたいです。もう黒ドラちゃんも言うのはやめておきました。

「つまり、お前の心からの叫びがその周辺の魔力に作用して、揺らぎを起こしたってことだよな?」
「う、うん。多分そうだと思う」
「なんで言わなかったんだ!昨日だって僕は北の山で何度も聞いたじゃないか!」

 ああ、ブランは昨日ラウザーを北の山に連れて行って話を聞こうとしていたんですね。でも、ラウザーは話さなかった、と。

「あのさ、続きを聞いてもらえる?そうすれば話さなかった理由もわかるから」
 そうラウザーが言うと、ブランはしぶしぶうなずきました。黒ドラちゃんとドンちゃんは、もちろん興味津々で話の続きを待っています。



 海から引き揚げた人間は、はじめのうちはものすごく驚いて何が何やらわからないようでした。

「ここ、どこ?俺スマホ持ってたろ?どこ?あ、なんで裸?くっそ!お前が脱がしたのかよ!?」
 最後の方は喧嘩腰でラウザーに詰め寄ってきました。

「いや、俺じゃないよ。初めから裸だったけど。お前漁師じゃないの?」
「は?なに、なんで俺が漁師なんだよ!俺の服とかスマホどこだよっ!?」
「すまほって何?漁師じゃないならなんで裸で海の中にいたんだよ」
「だからーーーっ、裸なのは知らねえし!あーーーーーっもうっ!ここどこっ!?」

 素っ裸で砂浜に立って、黒髪の人間はぐるっとあたりを見回しました。もちろん、見えるのは砂砂砂、海に波、お日様です。

「お前さ、この辺じゃ見ない感じの顔つきだけど、バルデーシュの人間じゃないの?ナゴーンから流れてきたのか?」

「……バルデーシュ?ナゴーン?……なんだよ」
 は?どうしちゃったんだよ、俺……とつぶやきながら、黒髪の人間はストンと砂の上にへたり込みました。
「部屋にいたはずだよな?俺――」
 海の方を向いているけど、その瞳は何も見ていないような感じでした。と、突然ラウザーにすがりつきました。
「あ、お前スマホとかケータイ持ってない?無ければこの辺で電話があるところまで俺のこと連れて行ってくれないか?」
「俺、すまほとかけーたい、持ってない。でんわがあることろっていうのもわからないな」
「まじかよ」
 人間はがっくりとうなだれました。
「でも、他の人間のところまでなら、お前のこと運んでやれるぜ」
 ラウザーが明るく言うと、パッと顔を上げてまたすがりついてきました。
「本当か!頼む、頼むよ!」
と、そこで急に「ヤバイ、これダメだ」と言ってしゃがみこみました。
「どうしたんだ?腹でも痛いのか?」
ラウザーがたずねると「ちげーよ!俺裸じゃん!」と、今更ですがラウザーに背中を向けて、体を丸めて恥ずかしそうにしています。
「何か着る物持ってこようか?」
「あ、ありがとう!助かる!」
 黒髪の人間が嬉しそうに言いました。そして、急に思い出したようにラウザーに聞いてきました。
「お前さ、なんていう名前なんだ?俺、りょうた、石田龍太って言うんだ」
「おーた、しだろーた?」
「違うよ!りょうた !……お前外国人なのか?日本語上手いけど」
「にほんごってなんだ?おれはバルデーシュの国の生まれさ。ろおた!」
「……バルデーシュ?……わかんねえけど、やっぱり日本人じゃないんだな」
「名前はラウザーさ!よろしくな!ろ・お・た」
「うん、……もう、ロータで良いよ。よろしくな、ラウザー」

 ようやくロータは落ち着いたようでした。

「じゃあ、とりあえず俺ちょっと飛んでくるわ。すぐ戻るからさ」
「――飛ぶ?」
 ロータが不思議そうに聞き返してきます。そうか、そういえばロータが目覚めた時から人間の姿しか見せていなかったな、とラウザーは思いました。
「俺さー、陽竜なんだ。じゃ、ちょっくら行ってくる!」
 そう言って竜の姿に戻ろうとするとロータに止められました。
「や、待て待て待て。なに、そっち系の外国人?ジャパニーズアニメ好きな感じの?」
 笑いながらロータが言ってきましたが、なんだかわからない言葉だらけです。
 ようやくラウザーも何かおかしいと思い始めました。
「ロータ、お前さ、どこの国の人間だ?」
「日本だよ。ジャパン!ジャパニーズ!お前もうちの国のアニメ好きなんだろ?」
「……ニホンもジャパンもこの近くでは聞いたことないな。アニメ?……ロータ、俺以外の竜に会ったことあるか?」
「は?竜ってドラゴンのことか?えっと、何かのチーム名?」
「ドラゴンだけど、ちーむってなんだ?それはどういうドラゴンだ?」
 今度はロータが妙な顔をしています。しばらく黙って見つめあっていましたが、耐えきれないようにロータが言いました。
「やめてくれよっ!何がしたいんだよ!俺のことだまして何も出ねえぞ!ドッキリなのかよ!責任者出せよ!」
 大声で周囲に向かってどなりましたが、もちろん返ってくる声はありませんでした。




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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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