第186話-ついつい丸まってしまって

文字数 2,309文字

 黒真珠(仮)は、やはり本物の黒真珠ではありませんでした。確かに黒くて丸くてツヤツヤしているけど、それは表面が硬い殻で覆われているからでした。
 モッチがしょんぼりとしています。
「えっと、真珠……じゃなかったみたいだね」
「ぶいん」
「で、でもさ、珍しい生きものには間違いないよ!ね、ね、ドンちゃんだって見たことないでしょ!?」
「うん、ないない!すごいよモッチ。大発見だよ!ね、黒ドラちゃん?」
「うん、大発見!大発見!」
 落ち込んでるモッチを励ますために、黒ドラちゃんとドンちゃんは一生懸命「すごいすごい!大発見!」を連発しました。

「ぶ、ぶいい~~ん!」
 あ、モッチがようやく少し元気になったようです。虫さんらしき生きものに話を聞いてみようと言っています。
「ぶぶん?、ぶぶん?」
 モッチが、真ん丸になってしまっている虫さん(?)に話しかけます。黒い玉の虫さんはしばらくじっとしていましたが、モッチが辛抱強く待っていると、さっきのように伸びて広がり虫さん体形になりました。

「やっぱり虫さんだよね?」
 黒ドラちゃんがつぶやくと、虫さんは方向転換して黒ドラちゃんの方へ頭(?)を向けました。つぶらな黒いポチっとした目がついています。

「わたしは、フカフカ谷のダンゴローと申します、決して怪しい者ではございません」
「わっ!!しゃべった!!」
 黒ドラちゃんが驚いて大きな声を出すと、ダンゴローさんはビクッとして再び丸くなりかけました。
「あ、ごめんごめん。驚かすつもりじゃなかったんだ。丸くならないで」
 そう言われて、おそるおそる体を伸ばします。

「ダンゴローさんて、虫、なの?」
 ドンちゃんが小さめの声で話しかけます。

「あの、わたしはダンゴロムシと呼ばれる、妖精です……一応」
「えっ!妖精さん!?妖精さんなの!?」

 黒ドラちゃんたちはパ~っと顔を輝かせました。バルデーシュには竜はいるけど妖精さんはあまり見かけません。王宮には、妖精のいる国ノルド出身の王妃様がいるし、スズロ王子もたくさんの妖精たちから加護を受けていますが、他の場所ではほとんど妖精さんには会ったことがありません。

 みんなで一斉にダンゴローさんのそばに顔を近づけると、一瞬丸まりかけましたがグッとこらえたようです。
「はい。あの、ですが、妖精とはいえ何か特別なチカラがあるわけではございませんので……」
 そこで、申し訳なさそうにモッチのことを見ました。これまでのやり取りを聞いていたんでしょう。黒真珠じゃなかった上に、たいした生きものじゃないとは言いづらかったみたいです。
「まあ、それはもう良いよ良いよ。それで、ダンゴローさんはどこから来たの?」
 黒ドラちゃんもドンちゃんも、そしてモッチもじっとダンゴローさんを見つめています。

「あの、わたしはダンゴロムシの楽園、黄金色のフカフカ谷よりやってまいりました」
「こがねいろのふかふかだに?」
「それってバルデーシュのどこにあるの?」
「ぶぶいん?」

 みんな初めて聞く場所です。ダンゴローさんは、たくさんある足を不安そうに動かしながら、3匹を順々に見まわすと答えました。

「それが、わたしにもよくわからなくて……」

「えっ!?」
「どういうこと?」
「ぶいん?」

 みんなが一斉に首をコテンと傾けます。

「元々、土の中を移動してきたのです。金のスコップでトンネルを掘って」
「金のスコップ?」
「なにそれ?」
「わたしたちにとって唯一といっても良い、妖精らしい魔法のアイテムです」
「魔法のアイテム?」
「はい。小さなスコップですが、疲れることなく土を掘り進められる優れもの。ダンゴロムシの必須アイテムです」
「へ~!すごいね!やっぱり妖精さんだね!すごいよ、ダンゴローさん!」
 黒ドラちゃんたちから尊敬のまなざしで見つめられて、ダンゴローさんがちょっと落ち着きなくそわそわしています。真っ黒くて良く分からないけど、どうやら照れているようです。

「それで、フカフカ谷の場所が分からないのはどうしてなの?」
 ドンちゃんが、そわそわしているダンゴローさんにたずねました。

「ぶいんぶいん!」
 モッチも、それだよそれ!って先を促してます。

「あ、そうでした、その話でした」
 ダンゴローさんは、コホンっと軽く咳払いしてから続きを話し始めました。


「わたしたちは日の光に当たり続けると、体の表面が乾いて動けなくなってしまうのです」
「ふむふむ」
「なので、土の中を進むのですが、金のスコップがあれば、どんなに遠くまで進もうと必ずフカフカ谷へ戻ることが出来るのです」
「へ~!ますますすごいね!ダンゴロムシさんの金のスコップ!」
「はい。なので、本来はこんな風に見ず知らずの方にご迷惑をおかけすることなどないのですが……」
「そんな、迷惑なんかじゃないよ!」
「ぶぶ、ぶい~~~ん……」
「いや、モッチさんのせいではありません。わたしが臆病なばかりに、モッチさんに変な期待をさせてしまって」
「ぶぶ、ぶいんぶいん」
「いや、あの時はついつい丸まってしまって……ちょっとモッチさんの見た目が、その、けっこう凶悪な蜂っぽくて」
「ぶぶっ!?」
「いや!もちろん、今はそんなこと考えておりません!断じて!まったく!」
 ダンゴローさんがあせってモッチにたくさんの足を振っています。

「でも、肝心の金のスコップはどうしちゃったの?モッチがダンゴローさんを見つけた時は持ってなかったんでしょ?」
 ドンちゃんがお話をうながしてくれて、ダンゴローさんはホッとしながら、でも悲しそうに答えました。

「盗られてしまったのです。凶暴な空の悪魔に」

「そらのあくまーっ!?」

 みんながびっくりした声を重ならせながら聞き返しました。




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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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