第240話-モッチと金色の宝物☆1

文字数 3,372文字

 古の森に棲むクマン魔蜂のモッチには、とても大切にしている物があります。
 それは、丸みを帯びて金色に輝く、とても素敵な宝物。

 これは、そんな素敵な宝物を手に入れた、モッチのある日の物語です――


 *****


「ぶぶい~~~~ん♪」
 モッチは朝からご機嫌でした。どうしてかって?今日はエステン国のアズール王子がバルデーシュの王宮にやって来るんです。
 エメラルドグリーンの湖のそばの大きな木の根元にある、黒ドラちゃんの棲む洞の中へ、モッチは朝一番で飛んでいきました。

「ふああああ~~~」
 洞の中でお目覚めの大あくびをしている黒ドラちゃんにごあいさつします。
「ぶっぶい~ん!」
「おはよう、モッチ。朝から張り切ってるね?」
「ぶぶ、ぶ~ん!」
「そうだね、久しぶりにアズール王子と会えるもんね!」
「ぶいん!」
 そうなんです、実はモッチも王宮へお呼ばれしているんです!もちろん黒ドラちゃんと一緒です。それに、食いしん坊さんとドンちゃんも夫婦そろってお呼ばれです。エステンとバルデーシュの間で前々から進められていた技術協力の成果を発表する会合が、王宮で開かれます。そこに特別ゲストとして古の森のメンバーも呼ばれたのです。

「ぶいん、ぶんぶん」
 モッチは、首から下げた小さくて丸いキラキラしたものを、黒ドラちゃんに見せてきました。
「なあに?これきれいだね、モッチ。どこで拾ったの?」
「ぶいん!ぶっぶい~~~~ん!」
「拾ったんじゃない?アズール王子の手作り?へえ、キーちゃんと一緒にもらったの?あれ?……裏に何か彫ってあるね」
 黒ドラちゃんが、モッチの首にかかった丸い物をひっくり返して良く見てみると、そこには小さく『2』と数字が刻まれていました。人間の使う文字はまだまだ苦手ですが、黒ドラちゃんも、数字くらいなら読めるようになったんです。
「2?これって?」
「ぶぶ、ぶぶいんぶいん!」
「アズール王子のファンクラブの会員番号?」
「ぶん!」
「へえ、すごいね、1番はキーちゃん?」
「ぶん。ぶぶい~~ん、ぶぶいんぶん」
「へえ、最後の3番のメダルは蜘蛛の吟遊詩人さんが持ってるの?モッチったらいつの間に吟遊詩人さんと知り合ったの?」
「ぶぶ、ぶいいん、ぶいん!」
「えっ、エステンとの境の森に行ったの?!へえ、そこでそんなことがあったんだ。あたしも吟遊詩人のアラクネさんに会ってみたいなあ」
「ぶん、ぶいんぶいん」
「そっかあ、アラクネさんは色々なところに旅してるんだ。じゃあ、そのうちひょっとしたら古の森にも来てくれるかな?」
「ぶん!!」
「モッチがそう言うなら、楽しみに待ってるよ。きっと森のみんなも喜ぶよね!」
「ぶっぶい~~~ん!」
 モッチと黒ドラちゃんが話していると、洞の外からドンちゃんの声が聞こえてきました。
「黒ドッラちゃーん、あーそーぼー、じゃなかった、おはよう!準備出来てる?」
「おはよーっ!ドンちゃん、もうモッチも来てるんだよ」
「ぶいん!」
 洞の中に一歩進んだドンちゃんは、途端に「きゃっ、まぶしい!」と悲鳴をあげました。モッチが首から下げたアズール王子のお手製の金バッチが、朝日をはね反してキラリと光ったのです。
「モッチ、そのピカピカ光る金色のって、なあに?」
 ドンちゃんが目をパチパチさせながら不思議そうにたずねると、モッチは得意そうに首飾りを外して見せてきました。
「2?」
「ぶいん!」
 そうして、モッチは嬉しそうにドンちゃんにも、金色バッチの話を聞かせたのです。

「へえー、モッチはすごいねえ!エステンの森までって、けっこう遠いでしょ?よくたどり着けたね」
「ぶん、ぶいん!」
「え、ゲルードが連れていってくれたの?」
「ぶいん!」
「へー、スズロ王子のお手紙、あっ、そうか結婚式のお知らせかな?」
「ぶぶ?」
「きっとそうだよ、古の森にも招待状を持ってきてくれたもの。ね、黒ドラちゃん、そうだよね?」
「そっかあ!そういえば、スズロ王子とカモミラ王女の結婚式、あたしたちもお呼ばれしてるんだっけ!」

 黒ドラちゃんたちの棲む古の森は、バルデーシュという国にあります。スズロ王子は、バルデーシュの第一王子です。そして、結婚相手のカモミラ王女は、北にあるノーランド国の第三王女でした。二人は、幼い頃からの淡い恋を実らせて、めでたく結婚することが決まったのです。

「ぶぶいん?」
「そうだよ、スズロ王子たちの結婚式、もうすぐだよね!」
 黒ドラちゃんがワクワクしながら答えると、ドンちゃんがお耳をピンっとさせて言いました。
「結婚式の時にはね、エステン特製のからくり仕掛けが見られるんだって!食いしん坊さんは少しだけ見たんだって」
 その言葉に、黒ドラちゃんもモッチもびっくりしました。エステンのからくりって言ったら、黒ドラちゃん達も音色小箱をもらいました。それはとても素敵なからくりで、みんなそれぞれ箱を抱えてうっとりしたものです。

「結婚式のからくりってどんなのだろう?」
「ぶぶいん?」
「う~ん、あたしもまだ教えてもらっていないんだ。食いしん坊さんは『もう少し待っててごらん』って」
 そう言いながら、ドンちゃんはモッチのことをチラッと見ました。
「ぶいん?」
「ううん、何でもない!きっと詳しいことは技術協力の会合の時に教えてもらえるんじゃないかな?」
「そっか!そうだよね!アズール王子も来るし、きっとその時にどんなデザインなのか教えてもらえるよね?」
 黒ドラちゃんたちは、きっとすごく素敵なからくりに違いないと想像して、それを見られる時を楽しみに待つことにしました。




 *****



 お城までは、いつものように魔馬車でお出かけです。森の外れで魔馬車を待ちながら、黒ドラちゃんはワクワクしていました。腕の中にはドンちゃんを抱っこしています。食いしん坊さんは、先にお城にお出かけしていました。カモミラ王女と一緒に、会合や結婚式のいろいろな打ち合わせがあり、食いしん坊さんは、このところとても忙しいのです。毎朝早くに「ハニー行ってくるよ」って、ドンちゃんのお耳にチュッと口づけしてからお出かけして、戻ってくるのは空にお星様がいっぱい出てからになるのです。ドンちゃんは、そんな食いしん坊さんのために、昼間はせっせと甘い木の実やおいしい草や実を集めています。そして、黒ドラちゃんはドンちゃんを手伝いながら、森の中を楽しく飛び回っていました。
 おっと、今日は違いますよ、何しろお城へのお出かけですからね。黒ドラちゃんもドンちゃんもちょっぴりおしゃれをしています。薄い水色のくるぶしまでのふわふわしたワンピースに、ブランにもらったエメラルドのネックレスと髪飾りをしています。靴は黒ドラちゃんの髪の色に合わせて、黒っぽい魔石でブランが作ってくれました。ワンピースとお揃いの、淡い水色の魔石のリボンがついています。クルッと回るとワンピースの裾がふわりと広がって、黒ドラちゃんは何とも言えないウキウキした気持ちになるのです。
 黒ドラちゃんの腕の中のドンちゃんは、食いしん坊さんお毛製のふんわりケープを身に着けています。暑さ寒さも防いでくれて、おまけに守りの魔法も効かせてある、優れものなんです。愛妻家の食いしん坊さんならではの愛情籠った一着です。煙水晶のクローバーのネックレスをつければ、可愛らしいノラプチウサギの若奥様の出来上がりです。
 楽しみすぎてそわそわしている黒ドラちゃんたちの前に、魔馬車が現れました。すぐに馬に乗ったゲルードも現れます。魔馬車からはブランが下りてきました。黒ドラちゃんのことを見つめて、にっこりと微笑みます。
「お待たせ、黒ちゃん。そのワンピースも靴もとても似合っているよ」
 ブランに褒められて、黒ドラちゃんはすっかり嬉しくなりました。ちょっとその場でぴょんぴょんしちゃいます。

「それでは、皆様、馬車にお乗りください」
 ゲルードが黒ドラちゃんたちをうながします。ブランにエスコートされて、黒ドラちゃんは魔馬車に乗り込みました。後からドンちゃんとモッチもゲルードが乗せてくれます。黒ドラちゃんは馬車に乗り込むとドンちゃんを膝に、モッチを頭に乗せました。

「では出発いたします」
 外からゲルードが声をかけます。
 わくわくしている黒ドラちゃんたちを乗せて、魔馬車はゆっくりと動き出し古の森を後にしました。

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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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