第119話-吹雪の山で

文字数 1,850文字

 黒ドラちゃんは、人間の姿でモコモコのマントに包まれています。足には極厚のブーツ、手にも分厚い手袋、モッチのリースはぬくぬくのマフラーで隠れています。完全な寒さ対策です。雪は止んだものの、まだ寒さは残っています。山の上に登るとなれば、もっと寒さは厳しくなるでしょう。

 初め、モーデさんは黒ドラちゃんが竜の姿で飛んでいくものだとばかり考えていました。天気さえ良ければ、その方がずっと早く群生地を見つけられるでしょう。でも、空は不安定な感じで、このまま晴れるような、いや崩れて雪になりそうな、そんな天気でした。
 「あたし、このまま人間の姿で山に登るよ!」
 黒ドラちゃんがそう言ったので、モーデさんは暖かな防寒着をしっかり着せてくれました。ゲルードが持たせてくれた籠は、大きいので持ち手を斜めにかけて、背負うようにしました。籠で出来た甲羅の亀さんのようなスタイルです。見た感じは大変そうですが、黒ドラちゃんにとってはなんてことありません。

 そしてモーデさんと魔法騎士さんは、一緒に登るとも言ってくれました。でも、ノラウサギ博士のおじいちゃんが言ったのです。
 「花嫁の冠にするノラクローバーは、友だちにしか探せないのですよ」と。

 それを聞いて、モッチはぶんぶん大張りきりでした。黒ドラちゃんも「そうだよねえ」と大きな声で答えました。そうしていないと、すぐにうつむいちゃいそうだったからです。ぶんぶんと元気なモッチと、どことなく元気のない黒ドラちゃんだけでの山登りは、こうして始まりました。

 一度小降りになり少しは晴れ間も見えたのに、黒ドラちゃんが山を登り始めてしばらくすると、また雪が降り始めました。というか、山にだけ雪が降り始めました。城下は晴れているのです。ノーランドでも珍しい天気です。

 王宮の森に入り、登り続けていればそのまま山の上の方へ出ることが出来ます。しばらく歩いていると、モッチが「ぶいん?」とリースから顔をのぞかせました。マフラーを少し持ち上げて、キョロキョロしています。
 「どうしたの?」
 黒ドラちゃんが話しかけると「ぶいん、ぶいん!」と羽音で答えます。ホペニが来る、こっちに向かっている、というのです。その場で立ち止まってちょっと待っていると、ブイ~ンという優雅な羽音が聞こえてきました。相変わらず美しい銀色の体に暖かそうなふさふさで、いかにも雪の国の蜜蜂って感じです。

 「ぶいん!」
 モッチがリースから顔を出してホペニを呼ぶと、そこだったのか!みたいな感じで、ホペニが「ブイン!」と羽音を立ててリースにくっつきました。
 いそいそと花の中にもぐっていきます。
 「ぶいんぶいん?」
 「ブイン!」
 暖かいでしょ?うん!なんて、仲の良さそうな羽音をさせています。仲の良い友だち同士の羽音を聞きながら、黒ドラちゃんはドンちゃんのことを思い出していました。

 おばあ様のお話では、ノラウサギの花嫁はお家に迎え入れられて、そこで暮らすようでした。そうなると、ドンちゃんはノーランドの王宮の森で暮らすということになります。黒ドラちゃんはドンちゃんと離れ離れは嫌なんです。でも、食いしん坊さんと結婚したら、ドンちゃんはノーランドへお嫁に行く……

 じゃあ、もし――
 もし花嫁の冠が作れなくて、お嫁に行くのは止めようか、ってなったら?そうしたらドンちゃんはずっと古の森に居てくれるかも……

 小降りだった雪が激しくなってきました。

 モッチと一緒にいるホペニが「ブインブイン?」と黒ドラちゃんに聞いてきます。
 「う、うん。大丈夫だよ。まだノラクロノーバーがいっぱい生えているところには着かないよね?」
 「ブイーン、ブイン」
 ホペニがまだまだ上だよ、と教えてくれます。
 「そうだよね……」
 黒ドラちゃんはギュッギュッと雪を踏みしめながら、山を登り続けました。

 雪はどんどん激しくなります。黒ドラちゃんの進むスピードもどんどん遅くなります。辺りはすでに暗くなり始めています。このままだと山で夜になってしまいそうです。

 「ぶいん?」
 モッチが、ブランの魔石で暖を取れば?と聞いてきました。
 「う、うん。そうだったね」
 黒ドラちゃんはベルトの魔石のことを考えました。体がほのかに温かくなってきます。けれど黒ドラちゃんのスピードはちっともあがりません。

 そうこうするうちに、とうとう黒ドラちゃんは一歩も歩けなくなってしまいました。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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