第30話ー良い香り

文字数 1,742文字

 翌朝、黒ドラちゃんはすごく良い匂いに包まれて目が覚めました。まるで、マグノラさんの森にいた時のようです。むくっと上半身を起こして、大きく伸びをします。右手と左手を大きく伸ばして……そこでようやく人間の体のままだということに気がつきました。
「あ、あたし夜中に人間になったんだっけ!マグノラさん!?」
 キョロキョロすると、丸く自分を囲う岩のような体がありました。どうやらマグノラさんはお泊りしてくれたようです。まだ「ぐー」と寝息を立てているマグノラさんを起こさないように気をつけながら、黒ドラちゃんは洞の外に出ました。洞の外で竜の姿に戻りましたが、やはり朝になっているせいか背中はかゆくありません。
「そうだ、お礼にクマン魔蜂さんのはちみつを、ちょっともらってこようっと」
 そう言うと黒ドラちゃんは森の中を飛んで行きました。

 黒ドラちゃんが飛び立った少し後、洞にドンちゃんが遊びに来ました。

「黒ドラちゃん、あーそーぼっ!」

 すると洞の中から「おはよーっ」と大きなガラガラ声が聞こえてきたのでドンちゃんはビックリしました。
「黒ドラちゃん?!マグノラさんそっくりの声になっちゃった!!」
 ドンちゃんはビックリし過ぎてその場にペタンッとお尻をつきました。洞の中から大きな赤茶色の竜が出てきたのを見て、ますます驚きました。
「黒ドラちゃんがマグドラちゃんになっちゃったー!」
「おやおや、驚かしてごめんよ。あたしは本物のマグノラだよ。黒チビちゃんは朝早くにどこかに行ったみたいだね」
 マグノラさんがそう言うと、ドンちゃんは「なあんだ」と言ってホッとして立ちあがりました。

「マグノラさん、いつの間に遊びに来たの?」
「黒チビちゃんが背中がかゆくて眠れないんじゃないかと心配になってね、夜中に来たんだよ」
「そうなの!?夜にお出かけするなんて怖くなかった?」
「まあ、あたしは怖くなかったね、もっとも、この森の動物の方は怖かったかもしれないけどさ」
 そう言ってマグノラさんは尻尾を揺らしながら笑いました。
「それにしても黒ドラちゃん、どこに行ったんだろう?」
 ドンちゃんがつぶやくと、「探しに行くかい?」とマグノラさんが言いました。
「でも、待ってれば戻ってくるかもしれないし……」
 そう言いながらドンちゃんはちらちらマグノラさんを見ます。本当は探しに行きたいけど、マグノラさんが背中に乗せてくれるかどうかわからなかったので、言いだせなかったんです。
「あたしの背中に乗って、ドンチビちゃんが黒チビちゃんのことを呼びながら探せばいいさ」
「えっ!乗せてくれるの?!」
「当たり前だろ。別々に探したら、それこそ迷子になっちまうよ、あたしが」
そう言ってマグノラさんはガラガラ声で笑いました。ドンちゃんは目をキラキラさせながらマグノラさんのことを見上げました。こんなに大きな竜の背中に乗れるなんて、あとで黒ドラちゃんに自慢しちゃおう!そう思ったすぐ後に、あ、黒ドラちゃんも竜だったんだっけ、と思い出しました。
「お乗り」
そう言うとマグノラさんはその場でドデンと腹ばいになってくれました。ドンちゃんはぴょんと跳ねてマグノラさんの尻尾に乗ると、どんどん背中に向かって跳ねていきました。
「準備は良いかい?ドンチビちゃん」
 マグノラさんが聞いてきます。
「うん、良いよ!」
 ドンちゃんが返事をしながら元気に後ろ足でタンッとすると、マグノラさんはクスッと笑って羽をバサッと動かしました。ふわっと浮かび上がります。マグノラさんの良い香りがそこらじゅうに広がります。
「わあ~!」
 思わずドンちゃんはうっとりしてしまいました。

 マグノラさんの背中から見る森は、黒ドラちゃんと見るのとはまたちょっと違って見えました。何といっても花のような香りがしているので、ふんわりした気持ちになります。

 ドンちゃんが背中でポワーンとしていると「黒チビちゃんを呼ばないのかい?」とマグノラさんが声をかけてきました。あ、そうだった!とドンちゃんは気合いを入れて叫びました。

「黒ドラちゃーーーーーん」

するとすぐに

「ドンちゃーーーーーーん」

と返事が聞こえました。




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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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