第6話-お姫さまじゃないの?

文字数 2,085文字

 森の中から、他の人間よりも一際キラキラした何かが姿を現しました。
「ゲルード……やっぱり君か」
 ブランが鼻の頭にしわを寄せて睨んでいます。ゲルードと呼ばれた青年は、鎧は着ていませんでした。けれど、腰まである髪は美しく金色に輝き、瞳は透き通るような青で、白いマントはひらひらと花のように広がり、その姿を鎧よりも輝かせて見せていました。

 ブランが何か言おうとしたその一瞬前に黒ドラちゃんがブランの翼の囲いを抜け出して、ゲルードの目の前まで飛び出しました。
「あたし、知ってるよ!あなたのこと!」
「ほほお、私のことをご存じか、古竜の子よ」
 ゲルードは得意そうにマントを翻しました。
「うん!あなた、お姫様でしょ!?」
「「なっ!?」」
 ゲルードとブランの声が重なりました。
「金色と青い目ときれいなひらひらを体に付けているのがお姫様だって、ふくろうのおじいちゃんが教えてくれたもん!」
 黒ドラちゃんが嬉しそうに言うと、ブランがのけぞって笑いだし、ゲルードは舌打ちしました。そして、さっとマントのフードをかぶり、金の髪と青い目を隠してしまいました。
「なんで隠しちゃうのー?」
 黒ドラちゃんが残念そうに言うと「うるさいっ!黙れ、このトボケ竜!」
 ゲルードがぶつぶつ悔しそうに小声で文句を言っています。
 ブランがゲルードの前に進み出ます。
「そんなことより、あの罠はどういうことだい?僕が今日山から出ていることは知っていたろう?」
「もちろんでございます。それに古の森の古竜様に会いに行ったってことも、です」
 ゲルードがちらっと黒ドラちゃんを見ます。
「なら、なんで罠なんてしかけたんだ!?」
 ブランが怒りをにじませると、
「私も会わせてくださいとあれほどお願いしたのに、聞き届けてはいただけないようでしたので、強硬手段をとらせていただきました」
 ゲルードはしれっと答えました。
「あの罠に、もしこの子がかかったらどうなっていたと思う!」
 ブランがくってかかりますが、ゲルードは平気です。
「輝竜殿が古竜様を危険な目に遭わせるはずが無いと思っておりましたから、安心して罠を張らせていただきました」
 言われたブランはぐっとゲルードを睨みつけました。黒ドラちゃんは二人の顔を代わる代わる見ながら、どうしよう?と考えていました。どうやらゲルードは<お姫様>では無かったようです。しかもブランと仲が悪そうだし、今にもケンカになりそうです。でも、待てよ、と思いました。古の森の竜って、あたしのこと?
「ねぇ、ゲルードはひょっとしてあたしに会いたかったの?」
 ブランとゲルードがそろってこちらを見ました。ブランは困ったように、ゲルードは嬉しそうに。
「どうしてあたしに会いたかったの?お姫様じゃ無いんだよね?あたしのこと知ってるの?」
「ええ、お姫様ではございません!」
 すかさずゲルードがイラついた声で返します。
「そうだ、世界中のお姫様に失礼だからね」
 ブランもすかさず言います。二人はまた睨みあいました。ダメダメ、これじゃあ話が進みません。
「なんでゲルードはあたしに会いたかったの?」
 黒ドラちゃんがもう一度たずねると、ゲルードが片膝を折り黒ドラちゃんに頭を下げました。
「伝説にもあるような、尊き魔力を持つ古竜様が再び蘇ったと知り、お目にかかりたいと考えるのは魔術師としては当然のことでございます」
 いかにも芝居がかった様子で俯くゲルードに、ブランが足でさりげなく土を飛ばしていました。
「へー、よくわかんないけどすごいね。でも、それってあたしかなあ?」
黒ドラちゃんはブランのさりげない嫌がらせに気づくことなく、ゲルードにたずねました。
「もちろん。貴方は古の森に住んでいらっしゃるのでしょう?」
 それって黒ドラちゃんの森のことでしょうか。
「わかんない。いにしえのもりなのかどうか、あたし知らないよ」
「ふむ」
 ゲルードが頭にかけられた土を払いながら聞いています。
「いつも春なの。それで大きな大きな大きな木があって、ブランの瞳と同じ綺麗な湖があって」
「ええ、そうでしょう、っ」
 ゲルードは再び飛ばされた土を払いながらブランを睨んでいます。
「それでね、森には可愛い系のみんながいて、仲良しのドンちゃんがいて、いつもお散歩するの、それで、あっ!」
 黒ドラちゃんは急に大声を上げました。
「ブラン、大変だよ!ドンちゃんに雪をお土産にするんだった。早く行かなきゃ、夕方までに戻れなくなっちゃう!」
 黒ドラちゃんがあわてて飛び立とうとすると、ブランが止めました。
「大丈夫。それよりまずは空に張った罠を消させよう。じゃないと君がぶつかったら大変だ」
 ブランがゲルードを睨むと、見た目だけお姫様っぽい魔術師は、うやうやしくお辞儀をしながらパチンッと一回指を鳴らしました。
「すでに消してありますよ。伝説の古竜様に会って、お話もさせていただけた。光栄です」

 再び膝を折るゲルードの上に、ひときわ大きな土の塊が飛ばされました。

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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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