第40話ー陽気なラウザー

文字数 2,793文字

 黒ドラちゃんは、エメラルドグリーンに輝く湖で泳いでいました。水の中には小さなお魚さんがたくさんいます。お魚さんの銀色のキラキラと一緒になって、黒ドラちゃんは水の中で自由気ままに動き回っています。
 ドンちゃんは、湖のほとりで大好物のクローバーをむしゃむしゃと食べながら、その様子を眺めていました。時々、黒ドラちゃんの背中の真ん中で、エメラルドグリーンのうろこが日の光を反射して、七色にキラキラ光るのがとてもきれいでした。
「ドンちゃーん、ちょっとだけ湖に入ってみない?すごく楽しいよ!」
 黒ドラちゃんはいつも誘うのですが、ドンちゃんの答えもいつも同じです。
「あたし、見てるほうが好き。お水に入っちゃダメってお母さんが言ってたし」
「そっかあ、わかったよー!」
 そう言って、黒ドラちゃんはまたザッパーン!と水の中に潜っていきます。
 湖でたっぷりと遊んだ後、今度はドンちゃんを背中に乗せて森のお散歩に出かけました。森を飛んでいると、嗅いだことのない匂いがしてきました。
「ドンちゃん、匂う?」
 黒ドラちゃんが尋ねるとドンちゃんが首を傾げました。
「何が?」
 どうやらドンちゃんにはわからないようです。ってことはひょっとして……
「知らない竜が森に来てるのかも!行って見てもいい?」
 黒ドラちゃんが言うと、すぐに背中から「タンッ!」と元気の良い合図が帰ってきました。匂いのするほうへ飛んでいくと、森の南の外れの方に橙色の塊が見えてきました。森に入って迷っていたようで、木々の間をあっちこっちウロウロしています。
「おーい!」
黒ドラちゃんが呼びかけると「おっ!そっちかあ!」と明るい声で応えて飛んできました。
「助かったぜー!俺、ラウザー、陽竜さ、よろしくな!」
 そう言って橙色の竜がクルッと空中で一回転してみせます。あ、この竜ってブランが言ってた「気の良いラウザー」じゃないでしょうか。
「あのさー、ブランのお友達のラウザー?」
 黒ドラちゃんが尋ねると「おっ!聞いてる?その通りさ、よろしくなー黒ちゃん」とすっかりお友達な感じの返事が返ってきました。
「ねえねえ黒ドラちゃん、この、ラウザーって知り合いなの?」
 背中のドンちゃんが聞いてきます。
「おっ!そっちは野ウサギのドンちゃんか?!よろしくよろしくー!!」
 またまた一回転です。

「あのね、ラウザーってね、ブランのお友達なんだって。この間ブランがお泊りした時に聞いたんだ」
「へえー「なにーーーっ!?ブランってば黒ちゃんのおうちに泊まったのか?」
 ドンちゃんの返事をさえぎってラウザーが叫びました。
「う、うん。ブランから聞いてないの?」
「あんにゃろめ~、真面目そうな顔して隅に置けないぜ!」
 なんだかラウザーが「今に俺だって」とか「りありゅうめ」とか変なこと言ってます。
 それにしても、どうして突然ラウザーが現れたんでしょう。ブランが古の森に遊びにきているとでも思ったんでしょうか?
「今日はブランは来てないよ?」
 黒ドラちゃんがそう言うと「知ってる、知ってる」とラウザーがうなずきました。
「じゃあ、ラウザーはなんでここに来たの?」
 ドンちゃんも同じこと考えていたみたいです。
 ラウザーは空中に浮かびながら、あちこち視線をさまよわせて、尻尾の先っちょを自分でつかんでぎゅっとしたり緩めたりしていましたが、思い切ったように言いました。
「あのさー、黒ちゃん、海を見に行かない?」
「うみ?」
「なにそれ」
 黒ドラちゃんとドンちゃんがコテンと首を傾げます。
「えっとお、なんていうか海って言うのはすごくたくさんの水があって、魚が泳いでいたり、すごくキレイで、えっと、とにかく大きいんだ!」
 ラウザーはあまり説明するのは上手じゃないみたいです。
「それなら湖と同じだね」
 黒ドラちゃんが言うと「違う、違う、全然違うんだよ~!」と困ったような顔で応えました。
「海と湖じゃあ全然違うんだよ!なんていうか~……」

「湖よりも全然大きいし、海には波があるよね、それに海の水は塩辛い」

「そう!その通り!」
 考え込んでいたラウザーがパッと嬉しそうに顔を上げて、黒ドラちゃんの後ろを見ると「ブラン!」と叫びました黒ドラちゃんが振り向くと、不機嫌そうなブランがすぐ後ろにいました。
「ブラン!遊びに来てくれたのー?ラウザーの話に夢中になってたから、全然気づかなかったあ!」
 黒ドラちゃんは嬉しくてブランに飛びつきました。
「……うん。なんとなく黒ちゃんの顔が見たくなってさ」
 ブランが黒ドラちゃんを抱きとめながら、うろこをほんのりピンク色に染めています。
「くぅ~、何だよ、何だよ、見せ付けるなあ、ったくよ~」
 ラウザーが尻尾をぶんぶん振り回して、空中にも関わらずゴロゴロしています。
「それより、お前さ、今、黒ちゃんのこと森の外へ連れ出そうとしていなかったか?」
 ブランが黒ドラちゃんとラウザーの間に割って入ってきて聞きました。
「えっ!いや、その、えっと……」
 ラウザーは、とたんにそわそわしておかしな感じになりました。
「なんで僕に黙って黒ちゃんに会いに来たんだ」
「えっ、ブランに聞いて訪ねて来たんじゃないの?」
 黒ドラちゃんがラウザーに聞くと「いや、その」とますますおかしな感じになりました。
「黒ちゃんのことは、まだほとんどラウザーには話してないよ。ここんとこしばらく会ってなかったからね」
「そうなんだあ」
 黒ドラちゃんとドンちゃんの声が重なりました。

 お空でずっと話すのも何なので、下に降りようとブランが言って、森のはずれの草原に竜3匹で降り立ちました。

「俺さ、黒ちゃんのことは、マグノラねえさんに聞いたんだ」
 ラウザーが話し出します。
「マグノラさん!?」
 黒ドラちゃんもブランも驚きました。ついこの間、黒ドラちゃんの初鱗でお世話になったばかりですが、ラウザーのことは何も言っていませんでした。

「マグノラさん、ラウザーのこと何も言ってなかったよ?」
 黒ドラちゃんがそう言うとラウザーがうなずきました。
「そりゃそうだよ、俺、今朝マグノラねえさんに会って来たばかりだからさ」
「じゃあ、それですぐにあたしに会いに来たの?」
「うん」
「なんでそんなに急に来たんだ?」
 ブランが問い詰めます。

「あ、あのさー、黒ちゃんが初鱗を無事に乗り越えたって言うからさ、俺んところに遊びに来ないかな、って」
「なんでお前のところに行く必要があるんだよ」
 ブランは重ねて問い詰めます。
「えっとさ、せっかく初鱗を終えたんだからさ、色々なところに遊びに行きたいんじゃないかなって。……黒ちゃん、海、見たことないだろ?」

 黒ドラちゃんはうなずきました。


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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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