第312話 最終章-古の森にいらっしゃい

文字数 1,610文字

 竜は不思議なつながりを持ちます。
 マグノラさんの森が枯れたことは、すぐにブランやラウザーにも伝わりました。

 ブランがやってきて、黒ドラちゃんを抱きしめてくれたとき、はじめて黒ドラちゃんは大声で泣きました。いっぱいいっぱい泣きました。

 それから、白いお花の花びらのお話をブランにしました。
 ブランは「きっと自分がいない間でも魔力が残るように、花びらに乗せて飛ばしたんだろう」と教えてくれました。
 だから、白いお花の森には、もうマグノラさんの魔力はわずかしか残っていないとも。

 それから、ここからは、『次のマグノラさん』の初鱗が剥がれる頃までは、誰も森には入れないと教えてくれました。


 しばらくは古の森のみんなも、悲しい気持ちで過ごしていました。
 ブランはもちろんのこと、陽気なラウザーでさえ、ちょっと悲しい顔をしていました。

 でも、毎日のように双子のノラプチウサギが元気に走り回り、小さくて心配されていたスズロ王子とカモミラ王太子妃の双子の王女の1歳のお誕生パーティーが開かれる頃には、バルデーシュも明るい雰囲気があふれてきていました。


 そして、古の森でみんなで顔を合わせれば、『次のマグノラさん』に会えたらこう話そう、こんなものを見せてあげよう、教えてあげようという話で盛り上がりました。

 誰のことも覚えていなくても、何も覚えていなくても、きっとあの声だけは変らないかもよ?なんてラウザーが言って、みんなで笑い合ったりもしました。





 **********






 ある朝のこと、黒ドラちゃんは何だかいつもと違う気がして、早くに目を覚ましました。

 何だか森の中に甘い香りが漂っています。

 もちろん、古の森はいつもポカポカ春のような陽気です。花の香りがしても不思議ではありません。
 でも、今朝はちょっとだけいつも以上に空気がほわんとしていました。


 何かに誘われるように、登ったばかりの朝日を浴びながら、黒ドラちゃんは枯れた森に向かいました。


 森に着いて黒ドラちゃんは驚きました。

 森はいつの間にか木々が緑の葉をつけていたのです。まだつぼみがほとんどでしたが、中には咲いている白いお花もいくつかありました。

 森の奥へと続く道も出来ています。
 黒ドラちゃんはドキドキしながら道をゆっくりと進んでいきました。

 やがて、懐かしいお花畑が見えてきました。真ん中には赤茶色の小岩があります。


 マグノラさん、と声をかけそうになって、黒ドラちゃんはハッとしました。『次のマグノラさん』は、もうマグノラさんじゃ無いんです。



 新しい竜へのご挨拶はどうだったんだっけ?

 一生懸命思い出そうとしているうちに、赤茶色の小岩が動きました。

 黒ドラちゃんはあせって話し出します。

「あ、あの、あたし古の森の黒です。古竜です。ごめんね、勝手に入り込んで……」

 黒ドラちゃんが謝ると、赤茶色の小岩がゆっくり起き上がりました。まだ小さいはずなのに、もう黒ドラちゃんよりちょっと大きいです。怒ってはいないみたいですが、黙って不思議そうに黒ドラちゃんを見つめています。


 黒ドラちゃんは、もう一度話しかけてみました。

「あの、あなたのお名前は?」


 赤茶色の竜がゆっくりと尻尾を振りました。辺りに甘い花の香りが漂います。懐かしい香りを深く吸い込むと胸がいっぱいになりました。

 赤茶色の竜が口を開きます。


「あたしの名前はね――」





 その日、可愛らしいガラガラ声が、ミツバチの舞う白いお花の森に戻ってきました。












― 完 ―






 最後までお読み頂き、ほんとうにありがとうございました。
 本編は、このお話で完結となります。

 黒ドラちゃんたちと一緒に、ここまでたどり着けたことに、感謝を

 2017年の4月に、黒ドラちゃんのお話を書き始め、いつの間にか七年経ちました。

 休み休みの更新でしたが、続けてこられたのは、本当にみなさまのおかげです。

 古の森から感謝を込めて☆

 2024年3月16日 古森 遊


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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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