第312話 最終章-古の森にいらっしゃい
文字数 1,610文字
マグノラさんの森が枯れたことは、すぐにブランやラウザーにも伝わりました。
ブランがやってきて、黒ドラちゃんを抱きしめてくれたとき、はじめて黒ドラちゃんは大声で泣きました。いっぱいいっぱい泣きました。
それから、白いお花の花びらのお話をブランにしました。
ブランは「きっと自分がいない間でも魔力が残るように、花びらに乗せて飛ばしたんだろう」と教えてくれました。
だから、白いお花の森には、もうマグノラさんの魔力はわずかしか残っていないとも。
それから、ここからは、『次のマグノラさん』の初鱗が剥がれる頃までは、誰も森には入れないと教えてくれました。
しばらくは古の森のみんなも、悲しい気持ちで過ごしていました。
ブランはもちろんのこと、陽気なラウザーでさえ、ちょっと悲しい顔をしていました。
でも、毎日のように双子のノラプチウサギが元気に走り回り、小さくて心配されていたスズロ王子とカモミラ王太子妃の双子の王女の1歳のお誕生パーティーが開かれる頃には、バルデーシュも明るい雰囲気があふれてきていました。
そして、古の森でみんなで顔を合わせれば、『次のマグノラさん』に会えたらこう話そう、こんなものを見せてあげよう、教えてあげようという話で盛り上がりました。
誰のことも覚えていなくても、何も覚えていなくても、きっとあの声だけは変らないかもよ?なんてラウザーが言って、みんなで笑い合ったりもしました。
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ある朝のこと、黒ドラちゃんは何だかいつもと違う気がして、早くに目を覚ましました。
何だか森の中に甘い香りが漂っています。
もちろん、古の森はいつもポカポカ春のような陽気です。花の香りがしても不思議ではありません。
でも、今朝はちょっとだけいつも以上に空気がほわんとしていました。
何かに誘われるように、登ったばかりの朝日を浴びながら、黒ドラちゃんは枯れた森に向かいました。
森に着いて黒ドラちゃんは驚きました。
森はいつの間にか木々が緑の葉をつけていたのです。まだつぼみがほとんどでしたが、中には咲いている白いお花もいくつかありました。
森の奥へと続く道も出来ています。
黒ドラちゃんはドキドキしながら道をゆっくりと進んでいきました。
やがて、懐かしいお花畑が見えてきました。真ん中には赤茶色の小岩があります。
マグノラさん、と声をかけそうになって、黒ドラちゃんはハッとしました。『次のマグノラさん』は、もうマグノラさんじゃ無いんです。
新しい竜へのご挨拶はどうだったんだっけ?
一生懸命思い出そうとしているうちに、赤茶色の小岩が動きました。
黒ドラちゃんはあせって話し出します。
「あ、あの、あたし古の森の黒です。古竜です。ごめんね、勝手に入り込んで……」
黒ドラちゃんが謝ると、赤茶色の小岩がゆっくり起き上がりました。まだ小さいはずなのに、もう黒ドラちゃんよりちょっと大きいです。怒ってはいないみたいですが、黙って不思議そうに黒ドラちゃんを見つめています。
黒ドラちゃんは、もう一度話しかけてみました。
「あの、あなたのお名前は?」
赤茶色の竜がゆっくりと尻尾を振りました。辺りに甘い花の香りが漂います。懐かしい香りを深く吸い込むと胸がいっぱいになりました。
赤茶色の竜が口を開きます。
「あたしの名前はね――」
その日、可愛らしいガラガラ声が、ミツバチの舞う白いお花の森に戻ってきました。
― 完 ―
最後までお読み頂き、ほんとうにありがとうございました。
本編は、このお話で完結となります。
黒ドラちゃんたちと一緒に、ここまでたどり着けたことに、感謝を
2017年の4月に、黒ドラちゃんのお話を書き始め、いつの間にか七年経ちました。
休み休みの更新でしたが、続けてこられたのは、本当にみなさまのおかげです。
古の森から感謝を込めて☆
2024年3月16日 古森 遊