第95話-つくります!

文字数 1,819文字

 この国では、年に一度夏のお祭りで、様々な手芸・工芸品の品評会が開かれます。 実用的な盾や剣、魔術師の使う杖、誰でも身に付けられる服や指輪等のアクセサリーなど、種類は様々です。出された品物は、種類ごとに分けられて審査され、それぞれ一番優れている品物に、その年の優秀賞が贈られます。

 その中から、さらに種類を超えてその年に一番すぐれた品物を作った者とその工房が選ばれて、王都の広場で王様から表彰されるのです。

「知ってます!テルーコ様は何度か表彰されていますよね?」
 リュングが我慢しきれずに話に首を突っ込みました。

「ええ、確かに何度かは。ですが私が選ばれたのは、これこの通り、年の功です」
 テルーコさんは全く気にかける様子もなく、さらりと話しました。

「皆さま、わたしは、グラシーナをこそ、あの表彰台に立たせてやりたいのです」
 テルーコさんがしみじみと言いました。
「この娘にはその力が十分にある。あとは、その力を発揮するチャンスだけがあれば良いのです」
 グラシーナさんが俯きました。

 パッと見た瞬間に思わず手に取りたくなるような、そんな人目を引くデザインが得意で“閃光の細工師”と呼ばれるグラシーナさん。でも、これまで一度も表彰されたことがありません。
「そういえば……?なぜでしょうか?」
 リュングが不思議そうにつぶやきました。


 グラシーナさんが、顔をあげました。

「わたしは、いつもカミナリ様のことを思い浮かべながら、作品を作っていました」

「夢の中だけで会える、強くて優しくて、美しい姿を」
 手放しで讃えられ、ラキ様がちょっと頬を染めました。

 グラシーナさんは、これまでのことを思い出すように、ゆっくりと話します。

「けれど、夢の中にしかいない存在のためにつくるなんて、おかしいんじゃないか。
 この世界では、私がふじのとして生きていた世界で感じていた美は、誰にも理解されないんじゃないか。
 自分がここでは受け入れられない存在かもしれない。常にそういう気持ちが、心のどこかにありました」

  知らず知らずのうちにその気持ちが作品に反映されて、どこかはっきりしないような、何か今一つ決め手に欠けているような、そんな作品になっていたんだと思う、とグラシーナさんは話してくれました。さっき、ラウザーが買おうとしていた簪、あれもやはりグラシーナさんの作品でした。

  「でも、あれも。まだ本当の美しさを表現しきれていないんです。本当はもっと華やかで綺麗なんです、もっと……」
 そう言いながら、ラキ様を見つめます。

 ラキ様は黙ってグラシーナさんの話を聞いていました。

  「カミナリ様の姿を目にして、お話して。今なら、今の私なら、もっと違う仕上がりをお見せできる、そんな気がするのです。 夢の中のふじのではなく、その記憶を持つこの世界の細工師のグラシーナとしての想いを、表現してみたいのです」

 
 再びテルーコさんが口を開きました。

「皆さまにお作りする作品の中で、特に優れた出来栄えのものを品評会に出すことをお許し願えませんでしょうか?」
 そう言いながら深々と頭を下げます。

「おれ、おれ、大賛成!!おれのうろこで綺麗な花くし……だっけ?作ってくれよ!」
 ラウザーが真っ先に声をあげました。尻尾は大車輪のように勢いよく回っています。

「あたしも!あたしも大賛成!」
「あたしも!、あたしも!」
 黒ドラちゃんとドンちゃんもラウザーに続きました。食いしん坊さんもうなずいています。

「もし、細工に必要な宝石があれば言ってくれ。僕が用意するよ」
 ブランが申し出てくれました。

「ありがとうございます。わたし、皆さまのお気持ちを活かせるような、そんな作品を作ります!」

 グラシーナさんがきっぱりと宣言しました。ラウザーの尻尾はさらに勢いよく回り、黒ドラちゃんとドンちゃんはぴょんぴょんと跳ね、そして頬を染めたリュングは拍手を送っています。




 色々とお話をしていたので、結局初めてのお買い物はテルーコさんのところだけで終わってしまいました。けれど、とてもとても楽しくて、嬉しいこともたくさんあったので、黒ドラちゃんとドンちゃんはお買い物が大好きになりました。古の森まで送ってもらいながら、もう次のお買い物の約束をして、その日は皆とお別れしました。

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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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