第189話-クロ様はどこに?

文字数 1,976文字



「黒ちゃーーーん!」

 白いお花の森の道を、人の姿のブランがすごいスピードで進んできました。
 はあはあと息を切らしています。

「ブラン、来てくれてありがとう!」」
 黒ドラちゃんが嬉しそうに尻尾をぶんぶん振って見せると、ブランはホッとしたような表情を浮かべながら駆け寄ってきました。
「どうしたんだい?何があったの?黒ちゃん」
 ブランが湖と同じ碧い眼で見つめてきます。

 最近、黒ドラちゃんはブランに見つめられるとなんだかドキドキして落ち着かなくなっちゃうのです。それで、ダンゴローさんのことをブランに説明しなきゃと、焦って話しだしました。

「あのね、あのっ、モッチが黒真珠かな?ってピカピカの玉を拾ってきて、それで違います、ありふれた妖精です、ってなって、本当は黄金色のフカフカ谷へ帰るはずだったんだけど、金のスコップをカーラスが咥えて飛んでちゃって、帰れなくて困ってマグノラさんに相談して、ブランが飛んできてくれたの!」
 一生懸命に説明する黒ドラちゃんにうなずきながら、ブランはちらりとマグノラさんに視線を送りました。
「まあ、だいたいの話の流れはそんな感じだね」
 マグノラさんが可笑しそうにうなずいてくれます。
「ええと、それじゃあ、つまり……」
 ブランはその場をぐるっと見回してから、お花の上でモッチと一緒に居るダンゴローさんに気が付きました。
「君は?」
「あの、初めまして。フカフカ谷のダンゴローと申します。ありふれたダンゴロムシ妖精です」
 ダンゴローさんは、緊張しながらも丁寧に名乗りました。
 ブランはダンゴローさんのことをじっと見つめてからうなずくと、黒ドラちゃんにたずねました。
「つまり、このダンゴロムシ妖精のダンゴローさんを、フカフカ谷とやらへ帰してあげたい、ってことかな?」
「そう!そうなの!!」
 黒ドラちゃんとドンちゃんが声をそろえて答えました。モッチも「ぶんぶん!」と羽音でうなずいています。ところが「あ、それはちょっと違います」と声がしました。
「えっ?」
 黒ドラちゃん達がビックリして聞き返しました。花の上のダンゴローさんがたくさんの手足をもじもじさせながらみんなを見上げています。
「違うの?」
 ドンちゃんがたずねました。
「はい。あの、わたしは確かにフカフカ谷へ帰る必要があるのですが、まだ帰るわけにはいかないんです」
「金のスコップが無いからでしょ?」
「えっと、それももちろんそうなのですが、ある方を探している最中なのです」
「ある方?」
「ぶぶいん?」
 黒ドラちゃんとドンちゃん、そしてモッチも首をかしげています。てっきり“金のスコップさえ見つかれば、フカフカ谷へ帰れて無事解決!!”って思っていたんです。

「ある方ってだあれ?」
 黒ドラちゃんがたずねると、ダンゴローさんがみんなをぐるりと見まわしてから話しだしました。
「あの、竜の皆さまがお揃いなので、ひょっとしたらご存知の方がいらっしゃるかもしれませんが……」
「うんうん!言ってみて言ってみて!」
「ある方というのは、古の森の伝説の古竜、クロ様です。わたしは、フカフカ谷の子どもたちのために、偉大なるクロ様を谷へお連れしなければならないのです!」

 みんなはキョトンとしてダンゴローさんを見つめました。

「伝説の、古竜?」
 ドンちゃんがつぶやきます。

「はい、あの、わたしのようなありふれたダンゴロムシ妖精が伝説の古竜とお会いしたいなどと生意気な!と思われるかもしれませんが……」
「ううん、そんなこと思わない、けど」
 黒ドラちゃんもつぶやきます。

「わかっております、クロ様が私たちのような目立たない、何の取り柄もないような存在を気にかけてくださっているとか、そんな期待は」
「いや、そう言うことじゃ、なくて……」
 ブランもつぶやきました。

「ああ、ダンゴロムシは地上のことに疎いからね……」
 マグノラさんが呆れたようにつぶやきました。
「はい、あ、申し訳ありません。やはり大それた望みでしょうか……」
 ダンゴローさんががっくりと肩(?)を落として背中をいっそう丸めました。

「ぶぶいん!」
「え?」
「ぶぶぶい~~ん!」
「えっ!クロ様はここに居る?」
 ダンゴローさんがビックリして顔をあげ、黒いポッチリしたお目めを輝かせました。
「ど、どこにいらっしゃるのでしょうか?」
 ドキドキしながら辺りをキョロキョロと見回しています。

「ぶい~~~~ん」
 モッチが飛び立って黒ドラちゃんの頭に止まりました。
「ぶいん!」
「えっ!?」
「ぶいん!!」
「えっと、黒ドラ様が?」
 黒ドラちゃんは、申し訳なさそうに名乗りました。
「えっと、とてつもなく大きな丸っこい鳥だとばかり思われていたけど、古の森の古竜の黒です」
「えええええ~~~~~~~!!!」
 ダンゴローさんがのけぞって驚き、その拍子に丸まって花の上からコロコロと転がり落ちました。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み