第184話 おまけ キーちゃんのひとりごと

文字数 2,238文字

 エステンコーモリのキーちゃんが、その後のエステンでの様子をちょこっとだけ語ってくれました。短いお話ですが、小さいお口を一生懸命動かして伝えてくれたので、どうぞ聞いてあげてください。


 *****


 こんにちは。
 あたし、エステンコーモリのキーちゃんです。あのね、はじめに「キーちゃん」って呼ばれた時、すごく変な感じだったの。だって、あたしたちエステンコーモリはみんな「キー」って鳴くでしょ?だから、エステンにきたら森はキーちゃんだらけになっちゃう。可笑しいな、って。でも、バルデーシュで知り合ったみんなから「キーちゃん、キーちゃん」って呼ばれているうちに、この名前がとても好きになったんだ。良いよね?キーちゃんって、可愛いよね?
 そんなわけで、エステンに帰っても、あたしはキーちゃんてことになってるの。他のみんなも「キー!」って鳴くけど、この名前はあたしだけのもので良いんだって。みんなすごく優しくしてくれて、やっぱり森に帰れて良かったな、って思ったよ。
 あのね、アズール王子と一緒に帰ってから、あたしはすぐに森に返されちゃったから知らなかったんだけど、王子と王様はとても仲良くなったんだよ。以前、アズール王子はいつも暗い顔してたんだけど、顔つきが明るくなって別人みたい。ううん、ちょっと太ったとか、そういうことは関係ないと思うんだけど……ま、確かにちょっとだけ太く…じゃなくて、たくましくなった!そう、たくましくなったんだ!!うん。最近は森にも昼間に来てくれるんだよ。

「緑が美しいね、ここも」って言ってくれるの。
「ここも」って言いながら嬉しそうに森を見回すの。
 森は前から綺麗だし、何も変わっていないと思うけど、王子様の方が変わったのかな?前はいつも下ばかり見てたからね。
 そうだ、今度ね、バルデーシュの職人さんがたくさんエステンにおべんきょうに来るんだって。
「エステンの伝統的な工芸技術と、アズールの繊細な芸術性を知らしめる一大イベントだで!」
 って、森に来たロド王がでっかい声で得意そうにしゃべってたの。

 あ、ロド王って言えばね、アズール王子がバルデーシュに出て行っちゃってから、すっかり元気がなくなっちゃってたんだって。とてもそんな風には見えないけどね。
 でも、前は滅多に来なかったロド王が、今は頻繁に森に来るんだよ。みんなはあたしに会いに来てるって言うんだけど、そんなことないよね?あ、噂をすれば、今日も……


「おーい!キーちゃん!ロドだどー!お出迎えがねえどー?!」
「キー!」
「あ、そこかそこか。元気にしてたか?おめえ全然デカくなんねえな?」
「キ、キキー!」
「あ、そうか、それでも十分なのか?そっかそっか」
「キー?」
「あ、あんなあ、おめえ、バルデーシュでテルーコおやじの店でグラシーナって女職人がいたろ?」
「キー」
「その、うちのアズールとそのグラシーナって言うのは、その、えっと、どんな感じだったんだ?」
「キキー?」
「いや、そのどんな感じ?って聞かれても、こっちが聞いてるんだで」
「……キキー」
「いや、良い人だっていうのはわかってるけどな」
「キー?キキキー!!キキー」
「すごく綺麗で可愛くて良い人、か。そうかそうか」
「キ?」

 ロド王ったらすごく嬉しそうな顔しちゃって、うんうん一人でうなずいてどっかに行っちゃった。ね、あたしに会いに来てるなんてことないよね?だって、勝手に一人でしゃべって一人で納得して帰っちゃうんだよ?違うよね?

 あ、今度はアズール王子だ!わーい!!王子様王子様!

「キキー!!」
「あ、キーちゃんこんにちは。良いお天気だね」
「キー」
 相変わらず王子様はステキ。ちょっぴりたくましくなって更にステキ。モッチにも見せてあげたいなあ。

「それにしてもおかしいな?」
「キー?」
「いや、今日は父上と一緒に来んだけど、気づいたら一人にされていて」
「キ」
「まったく、気まぐれであちこち行かれるから、追いかける方は大変だよ」
「キ、キー」
「ああ、あっちの方を探してみるよ。じゃあね」

 ロド王ったら、アズール王子を置き去りにして何やってるんだろ?おかしいよね。でも、王はどうしてグラシーナさんのこと気にしてたのかな?
 そう言えば、モッチもグラシーナさんのこと気にしてたなあ?
「ファンクラブ会員No.2として見過ごせない存在だ!」
 とかぶんぶん息巻いてたよね。あたしは、グラシーナさんみたいな素敵で腕の良い職人さんが王子のそばにいてくれたら良いなあって思ったんだけど。そう言ったらモッチは「No.1の愛は深すぎる!!」とか叫んでたけど。エステンのみんなは、きっとあたしと同じ気持ちだと思うけどなあ。
 アズール王子には、真面目で芯の強い人が合うと思うんだ。そうそう、前の王妃様みたいにね。その上、グラシーナさんなら技術的にも王子を支えて協力してくれそうなんだもん。でも、王子とグラシーナさんの、本人同士の気持ちが一番大切だもんね。こればっかりは、あたしにはわからないし。


「キキー!」
「キキキー!!」
「キーキー!」

 あ、みんなが呼んでる!

「キキッキーッ!!」

 あたし、行くね。
 また遊びに来てね~!


*****


 ちなみに、キーちゃんを飾る魔石のビーズはそのままになっています。それを目印にロド王はキーちゃんをすぐに見分けられるらしいです。アズール王子の場合は、自分に向って飛んできてくれるのはキーちゃんだけ、という認識です。
「愛だ、愛」
と、モッチがつぶやいたとかつぶやかないとか……
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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