第3話 はじめてのおでかけ

文字数 1,770文字

 翌朝、黒ドラちゃんはドンちゃんに揺すられて目を覚ましました。
「ドンちゃん、一緒に行けるの!?」
飛び起きた黒ドラちゃんは嬉しくて目をキラキラさせました。
「……ううん。ごめんね、お母さんがダメだって」
「ええ~~~~~っ!そんなぁ」
 黒ドラちゃんはがっかりしました。
「ごめんね、黒ドラちゃん。お母さんがね、北の山はすごく遠いし上の方は寒いから、あたしには無理だって」
「そうなの?……あたしは大丈夫かなぁ……」
 わくわくした気持ちがしぼんで、黒ドラちゃんは急にお出かけが不安になってきました。
「大丈夫だよ、黒ドラちゃんは竜だし飛べるし丈夫だし!」
 ドンちゃんがあわてて言います。
「それでね、あたしは行けないけど、もし持って帰れるなら、ちょっとだけでも良いから雪を口に入れてみたいなあって」
「おみやげだね?」
「うん。雪って持って帰れるかな?」
「ブランに聞いてみるよ、きっと雪には詳しいと思うから」
「そうだね。じゃあ、ブランによろしくね!」

 ドンちゃんが帰っていくと、黒ドラちゃんはまた不安になり始めました。昨日は雪を口の中に入れることがすごく楽しみだったのに、一人で行くとなったらなんだか昨日ほど楽しみじゃありません。でも、ブランを待たせているんだし、とりあえず待ち合わせの場所へと飛んで行きました。

 昨日と同じように、ブランはキラキラしていてすぐに見つかりました

「お待たせ!あのね、ドンちゃんは来れなくなっちゃたの。だからあたしだけ」
 降りて黒ドラちゃんがブランを見上げると、ブランは特にがっかりしているようには見えませんでした。

「あのね、北の山は遠いし寒いしダメだってお母さんに言われたんだって。……あたしは大丈夫かな?」
 黒ドラちゃんが不安そうに言うと、ブランは優しく言いました。
「君は大丈夫だと思うよ。ドンちゃんたちから見たら北の山はすごく遠いかもしれないけど、僕たちは空を飛んで行くからね」
「どのくらい遠いの?今日中に着く?」
 黒ドラちゃんが不安そうに言うとブランが笑いながら言いました。
「もちろん。今から出発すればお昼ころには僕の家に着いてるよ」
「そうなの?!あのね、あたしドンちゃんに雪をお土産に持って帰るって約束しちゃったんだ」
「雪をお土産にかぁ。出来なくはないと思うよ。君には魔力が豊富にあるし」
「魔力と雪と関係あるの?」
「君が魔力を使って、雪の冷たさを閉じ込めれば良いんだよ」
「えー、そんなこと出来るかな?あたし」
 ブランは大丈夫と言ってくれました。
「むしろ君に出来ないことなんてあるのかな……」
 それはつぶやきのようで黒ドラちゃんはよく聞き取れませんでした。
「え、なあに?何て言ったの?」
「何でも無いよ、さあ、出発しよう!」
 ブランが大きく羽を広げて飛び上がりました。黒ドラちゃんもすぐ後ろから付いていきます。

 飛び立ってすぐに、黒ドラちゃんはブランに頼んで森の中のドンちゃんのところへ行きました。空の上でバサバサしながら大きな声でドンちゃんを呼びます。すると地面に掘られた穴の一つからドンちゃんがひょこっと顔を出しました。
「黒ドラちゃん!」
「ドンちゃん、あのね、雪は持って帰れるって!あたし出来るだけいっぱい持って帰るから、楽しみに待っててね!」
「うん!待ってるよ!いつ頃戻るの?」
「えっとー、夕方?」
 黒ドラちゃんが首をかしげながらブランをみると、うんうんとうなずいてくれました。
「じゃあ、行ってくるねー!」
 元気よく黒ドラちゃんが空中で一回転しました。普段はドンちゃんを乗せているからしないけど、やれば出来る子なんです、黒ドラちゃんは。
 ブランと一緒に飛んでいく黒ドラちゃんを見送りながら、ドンちゃんが雪のお土産を想像してワクワクしていると、お母さんが穴の中から出てきました。
「黒ドラちゃんが雪を持って帰ってくれるって!」
「そう、良かったね」
「うん!」
 そのままずーっと見送っていそうなドンちゃんにお母さんが声をかけました。
「お家に入るわよ」
 ドンちゃんもお母さんの後から穴に入りました。

(雪、楽しみだな)
青空が見えている出口を振り返りながら、思わずドンちゃんはタンタンっ!と足を踏み鳴らしました。

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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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