第26話ー白いお花の森へ

文字数 1,724文字

「ねえ、マグノラってどんな竜だと思う?」
 背中からドンちゃんが聞いてきます。
「うーん、白い大きなお花が咲いてる綺麗な森だったから、お花みたいに白くてきれいな竜かな?」
「お花みたいな竜かあ。会うの楽しみだね!」
 ドンちゃんが言うと、なんだか黒ドラちゃんも楽しみに思えてきました。
「優しい竜だと良いね!」
「うん!」

 ちょっと元気が出てきた黒ドラちゃんは、マグノラの棲む森を目指してどんどんお空を進んでいきました。

 しばらく飛ぶと大きな白いお花の咲く森が見えてきました。濃くて鮮やかな緑に白くてふんわりしたお花がとてもきれいです。

「とりあえず降りてみようよ」
 ドンちゃんに声をかけられて、黒ドラちゃんは森のはずれの方にゆっくりと降りて行きました。



 近くで見るマグノラの森は、黒ドラちゃんの森と違って、大きな木がきちんと並んで生えていました。
 そして森の中に向かって一本道がまっすぐ続いています。
 空から見た時には全然わからなかったのに、不思議です。

「行ってみようか?」
 背中のドンちゃんに話しかけると、タンッと一回元気な合図が返ってきました。黒ドラちゃんはドンちゃんを背中に乗せたまま、1本道を歩きはじめました。

 森の中はとても良い香りです。白いお花の周りには、可愛らしいミツバチさんがたくさん集まっていました。お花の中に出たり入ったり忙しそうです。
 このミツバチさんのはちみつ、舐めてみたいなぁ、なんて黒ドラちゃんが考え始めた頃、急に目の前が開けました。まるで広場のように、ぐるっと丸くそこだけお花畑になっています。その真ん中に、茶色のゴツゴツした大岩がデーンと置いてありました。

「黒ドラちゃん、ここステキ!」

 ドンちゃんが背中からピョンと飛び降りて、お花の中に飛び込みました。色々な色の花びらが舞って、ドンちゃんは大喜びです。
「黒ドラちゃんもピョンピョンしようよ!」
「う、うん。でもマグノラさんがお留守みたいなのに、勝手に遊んで良いのかな?」
 黒ドラちゃんがそう言うと、ドンちゃんはピョンピョンをやめました。そして、真ん中にある茶色の大岩に登って後ろ足で立ちました。長いお耳をピンッと立てて辺りをぐるっと見回します。

「ここってマグノラさんのなわばりかな?」
 そうドンちゃんが言うと、黒ドラちゃんが答えるよりも早く、大きなガラガラ声が響き渡りました。

「わかってるんなら話が早いわ。ここはあたしの庭だよ、おチビちゃんたち」

 と、ドンちゃんの足元がグラリと大きく動きました。
「きゃー落ちるー」
 ドンちゃんは、あわてて岩の上でしゃがみこみました。ですが、岩が急に高く上に伸びてきたので、コロコロと転がって花の上に落ちてしまいました。
「ドンちゃん、大丈夫!?」
「うん、お花があったから痛くない。でも、岩が動いたよ?」

「岩って、あたしのことかい?」

 またガラガラ声が響いて、岩がくるりとこちらを向きました。
「わっ!岩じゃない!!」
 黒ドラちゃんとドンちゃんが一緒に叫びました。

 そこには、茶色と赤の混じったうろこを輝かせて、大きな竜が一匹立っていました。岩だと思っていたのは、竜の背中だったんですね。

「ごめんよ、野ウサギのおチビちゃん、落っことすつもりじゃなかったんだけどね」
 ガラガラ声で赤茶の竜がドンちゃんに声をかけました。
「大丈夫。あたしこそ、勝手に背中に登っちゃってごめんなさい」
 ドンちゃんが謝ると、赤茶の竜は「いいよ、いいよ」と言いながら、ドンちゃんの頭をなでなでしてくれました。

「で、あたしの昼寝の邪魔をしてくれたおチビちゃんたちは、どこの迷子だい?」
 そう言いながら、ブランよりもさらに大きい赤茶の竜は、黒ドラちゃんたちの前で大きく伸びをしました。伸びをしながら大きく欠伸をすると、口の中には丈夫そうな牙がずらっと並んでいました。とたんに黒ドラちゃんの背中に飛びついたドンちゃんが「こわくない、こわくない、こわくなんかない」とまるで呪文のようにつぶやいています。言葉と裏腹に、ちょっと、いや、かなり震えてるみたいです。




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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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