第185話-ふしぎな落としもの

文字数 1,730文字


「ぶぶぶぶい~~~ん♪」

 古の森で一番の力持ちクマン魔蜂さん、モッチは上機嫌で飛んでいました。さっき、マグノラさんの白いお花の森から戻る時に、すっごい“お宝”を見つけちゃったのです。

「ぶぶん、ぶい~~~ん♪」
 まずは黒ドラちゃんに見せてみよう!とモッチは真っ直ぐに古の森の奥へ進んで行きました。自分が拾った“お宝”が、怯えて震えているのにも気づかずに……


 *****



 古の森の奥、エメラルド色に輝く湖のそばで、黒ドラちゃんはドンちゃんとお茶を楽しんでいました。先日、ノーランドの王宮の森にすむ食いしん坊さんのおばあさまから、ドンちゃんにクマン魔蜂マークの茶器セットが贈られてきたのです。

「やっぱりクマン魔蜂さんマークのティーカップで飲むお茶は一味違うねぇ」
 うっとりつぶやく黒ドラちゃんに、ドンちゃんも笑顔でうんうんとうなずきました。森で集めた甘々の実を食べながら「今日も良い天気だね~」なんておしゃべりしていると、おなじみの羽音が聞こえてきます。

「あれってモッチだ!」
 黒ドラちゃんが立ち上がって手を振りました。
「おーい、モッチー!見て見て!ノーランド製のクマン魔蜂さん茶器セットだよ!」
 手に、はちみつ入れを持ってかかげて見せます。

「ぶぶい~~~ん!」
 おや、モッチのほうも見て見て!って言ってますよ?何か黒くて丸いものを抱えています。そのまま得意そうに頭の上にかかげて黒ドラちゃんたちのところまで飛んできました。
「ぶいん!!」
 大きな羽音と対称的に、モッチはそうっと黒くてツヤツヤの玉をテーブルの上に置きました。

「モッチ、これなあに?どこで見つけたの?」
 黒ドラちゃんとドンちゃんは顔を近づけて見てみました。見たことのない丸い玉です。大きさはモッチと同じくらい。さすが力持ちのモッチです。他のクマン魔蜂さんだったら、きっと運べなかったでしょう。

「ぶぶん、ぶい~~~ん!」
 モッチは黒い玉を大事そうにすりすりしながら教えてくれました。
「えっ、黒い真珠?!そんなのあるの?」
 黒ドラちゃんとドンちゃんんが知っているのは白くて優しい光を宿す真珠だけです。こんな真っ黒い真珠なんて見たことも聞いたこともありません。
「ぶぶん、ぶぶい~ん!」
「マグノラさんから聞いたって?本当に?」
「ぶぶいん、ぶいん!!」
 モッチはホント、ホント!って自信たっぷりに言ってます。
「黒真珠かあ……」
「ぶうん、ぶい~~~~ん!」
 前にマグノラさんのところで2個の真珠を見せてもらって、その時に教えてもらったそうです。白やピンクの他にも、黒い真珠っていうのもあって、滅多に見つからなくてすごく珍しいんだよって。
「ふうん……」

 黒ドラちゃんもドンちゃんも黒真珠をじっと見つめました。

 ドンちゃんがそっと前足で転がします。

 コロンッ。

「真ん丸だね、黒ドラちゃん」

 黒ドラちゃんも爪の先でそうっと転がします。

 コロンッ。

「それに大きいね。確か、真ん丸真珠って『お高いんですよ』ってリュングが言ってたよね?ドンちゃん」

 そうして夢中で見つめていましたが、黒ドラちゃんはふと思い出しました。
「でもさ、真珠って海の中の貝から採れるって聞いたよ?モッチはこれ、森の近くで拾ったんじゃないの?」
「ぶいん?ぶ……ぶん」
 そういえばおかしいな、とモッチも考え始めたようです。見つけた時には、ツヤツヤの大きな黒真珠だ!って、夢中になっちゃって気づいていなかったみたいです。

「ぶぶ~~ん」
 モッチが黒真珠(仮)のそばに寄りました。もう一度そっと持ち上げます。抱えてクルクルまわしながらじっくり調べています。
「ぶ」
 モッチが黒真珠(仮)を降ろしました。しきりに首をかしげています。と、3匹が見つめる中で、誰も触っていないのに黒真珠(仮)がコロッと動きました。

「?!」

 と、見る間に黒真珠(仮)が伸びて広がり、歩き出しました。テーブルの上でモッチのいる方とは逆方向へ必死に進んでいきます。
「えっ!!」
 黒ドラちゃんがびっくりして声をあげました。声に驚いたのか、その生きモノは再びクルッと真ん丸になりました。

「……」

 どうやらモッチが拾ってきたのは珍しいお宝ではなくて、見たこともない虫のような生きモノだったようです。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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