第91話-見事なかんざし

文字数 1,730文字

 ブランが作る魔石は、国との取り決めで魔術師にしか譲れません。けれど、魔力をほとんど含まない石は、こういうお店に宝石として売ることが出来るのです。

「いや、今日は売る方じゃなくて、買いに来たんだ」
 そうブランが答えると、紫ローブのおじいちゃんはとても驚いたようでした。

「それは光栄なこと!しかし、輝竜様にお買い求めいただけるような宝石がございますでしょうか?」
 ちょっと自信がなさそうです。
「いや、小さくアクセサリーに加工したものが欲しいんだ。出来ればグラシーナが手掛けた物を見たいんだけど」
 それを聞くと、おじいちゃんはなるほどと言うように大きくうなずきました。

「ちょうど明日にでも店先の飾り棚に出そうと考えていた品がございます。しばしお待ちを」
 そう言って、さっき出てきた店の奥へ消えて行きました。

 おじいちゃんが戻ってくるのを待つ間、黒ドラちゃんはお店の中をキョロキョロと眺めていました。
 ドンちゃんもラキ様も同じようにキョロキョロしています。

 と、ラキ様が何か棒のようなものを手に取りました。
「ほお、これは……。美しい、見事な簪じゃ」
「かんざし?それ、どうやって使うの?」
 ドンちゃんたら、ラキ様のこと怖がっていたのに、もうすっかりお友達みたいにしゃべっています。
「これはな、このように――」
 そう言ってラキ様が髪に簪を挿しました。

 ラキ様の艶やかな黒髪に、鮮やかな赤色が映えてとても綺麗です。
「わあーラキ様きれい!すごく似合ってる!」
 ドンちゃんがぴょんぴょんしながらはしゃぐ後ろで、ラウザーがラキ様にぼーっと見とれています。ズボンから尻尾がぷらーんと出てしまっているけど、全然気づいていないようです。リュングがため息をついている横で、黒ドラちゃんはお店に並べられたたくさんの宝石を手にとって、光に透かして楽しんでいました。ブランはお店の中をぐるっと回っています。自分が持ち込んだ宝石がどんな風に加工されたのか、一つ一つ確かめているようです。

 その時、奥から人が出てきました。さっきのおじいちゃんかと思って見ると、黒髪の綺麗なお姉さんでした。
「輝竜様、お久しぶりでございます」
 そう言って軽くお辞儀をしたお姉さんにみんなの視線が集まりました。
「わあ“閃光の細工師”グラシーナだあ」リュングの溜め息まじりのつぶやきで、このお姉さんがグラシーナさんだとわかりました。その声で、グラシーナさんはブランの後ろにいるみんなの方へ視線を移しました。

「ふじの!?」
「かみなり様!?」

 同時に見つめあう黒髪の美女二人。でも、ラキ様はすぐに「いや、そんなはずはない」と、寂しげにつぶやきました。一方、グラシーナさんも「まさか、そんな……本当に?」とつぶやいています。ラウザーはラキ様の様子を見て黙っていられなかったのか「ふじの……さん?」とグラシーナさんに話しかけました。グラシーナさんは、大きく目を見開くとラウザーを見て、それからラキ様を見て、それから首を横に振ると「いえ、いいえ、私は」と言ったきり黙りこんでしまいました。

 その時テルーコさんが店の奥から顔を出しました。
「グラシーナ、輝竜様にこれも見ていただいたらどうかな?」
 と、手にしたキラキラのアクセサリーを皆の方へ出して見せましたが、すぐに雰囲気がおかしなことに気付いたようです。

「あの、輝竜様、何かお気に障る事でもございましたか?」
 テルーコさんの心配そうな声に、あわててブランが答えます。
「いや、そんなことは無いけれど、私の知り合いがグラシーナの細工物にとても興味があるようなんだ」
 そう言いながらリュングを前に押し出します。リュングはちょっとビックリしつつも「は、はい!私は魔術師の見習いですが、グラシーナさんの類稀なデザインの細工物には以前から興味がありまして……」と続けてくれました。さすが!伊達に日々ラウザーの尻拭いをしているわけではありませんね。するとテルーコさんは嬉しそうにうなずきながら「ありがたいお褒めの言葉ですな。良ければ奥に円卓がございますので、そちらでお話をされては?」と言ってくれました。

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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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