第168話-はりきりモッチとはちみつ玉

文字数 2,275文字

「あれっ、じゃあ、キーちゃんはアズール王子にモッチのはちみつ玉を届けなきゃ、だよね!?」
 黒ドラちゃんがそう言うと、キーちゃんが「そ、そうなの!!」とあわてて飛び上がりました。
「でもさ、キーちゃんだけで行っても、王子様の部屋には入れてもらえないんじゃない?」
「そ、そうかも……」
 キーちゃんが羽をパタンと閉じて、がっくりとうなだれました。

 それを見ていたマグノラさんが、黒ドラちゃんに言いました。
「ブランに相談してごらん」
「ブランに?」
「ああ。きっと黒チビちゃんのためなら喜んで協力してくれるんじゃないかい?」
「わかった!ブランにお願いしてみる!」
 黒ドラちゃんはそう言うと、ふんぬ~!と全身に力を込めました。すると、黒ドラちゃんの背中の魔石がポワ~ンと輝きます。
「よし!……でも、ブランはすぐに来てくれるかな?」
「どうだろうね。とりあえず森に帰って待っていてごらん」

 マグノラさんにそう言われて、今日のところはとりあえず一度森に帰ることにしました。モッチを頭に、ドンちゃんを背中に、手のひらにキーちゃんを乗せます。さて帰ろう!とすると、マグノラさんに声をかけられました。

「ブランが来てくれたらね、明日、ゲルードと一緒にここに来るように話してごらん」
「マグノラさんのところに?」
「ああ、キーちゃんのことやアズール王子の話は、あたしからしてやろう」
「ありがとう、マグノラさん!」
 黒ドラちゃんはホッとしました。キーちゃんから聞いた長いお話を、きちんとブランに説明できるか自信が無かったのです。
 明日また来るのならと、キーちゃんはマグノラさんのところで休ませてもらうことにしました。マグノラの花の良い香りに包まれて、キーちゃんも心地よさそうなホワンとした顔をしています。
「また明日くるね」と約束して、黒ドラちゃんたちは白いお花の森を後にしました。

 帰り道でモッチがなにやら張り切っています。
「ぶいん!ぶぶぶい~~~~ん!」
 どうやら、アズール王子にあげるはちみつ玉を、たくさん用意してあげようと思っているみたいです。
 古の森へ着くと、気合の入ったモッチは森の奥に消えて行きました。ドンちゃんのことを巣まで送って、黒ドラちゃんは湖のそばの大きな木に戻ってきました。

 そのまま、いつものように洞の中で丸くなってウトウトし始めた時です。
「黒ちゃーーーん!」というブランの声が聞こえてきました。
「そうだった、ブランを呼んでいたんだっけ!」

 あわてて洞の外に出ると、ちょうどブランが湖の上を越えてくるところでした。

 黒ドラちゃんのそばにドスンと降りて「どうしたんだい!?何かあったのかい!?」と、心配そうに顔をのぞき込んできます。
「ううん。ブランを呼んだのは、あたしのことじゃないの。森にエステンコーモリが飛んできてね」
「エステンコーモリ?珍しいな、いったいどういうわけで?」
「えっとね、そのコーモリはキーちゃんていうんだけどね」
「うん」
「あのね、王子様がね」

「……王子様?」

 あれ?どうしたんでしょう、急にブランの目がキーンッとするどく光りました。まわりの温度もどんどん下がっています。

「ブラン?」
「ああ、いや、王子様がどうしたって?」
 ブランがぎこちなく笑って先を促します。

「あのね、キーちゃんの王子様が病気なの」
「あ、キーちゃんの王子様なんだ!」
 ブランがにっこり微笑んで、まわりの温度がすっかり元に戻りました。

「あのね、マグノラさんに相談したら、ブランにはマグノラさんからちゃんとお話してくれる、って」
「あ、わかったよ、明日マグノラのところへ行こう」
「うん、ゲルードも呼んで、だって」
「……わかったよ。呼んでおこう」

 黒ドラちゃんが無事だとわかると、ブランは安心して北の山に帰って行きました。帰りがけにお城に寄って、ゲルードにも声をかけておいてくれると約束もしてくれました。ブランを見送ると、黒ドラちゃんは再び洞の中で丸くなりました。


 今日は、新しいことをたくさん知りました。

 バルデーシュの西にあるという、霧に包まれたエステン国。

 マグノラの花の蜜で話せるようになったキーちゃん。

 頑固で怒りっぽいけどモノ造りが得意なドワーフのロド王。

 ちょっと気弱だけど器用で美しいというアズール王子。

 面倒見の良いコポル工房のおかみさん。

 ペペルの奥さんは、はちみつをお湯に溶かして飲んでる……

 明日、マグノラさんからお話を聞いたら、ゲルードとブランは協力してくれるかな?
 コポル工房の人たちは、キーちゃんが王子に会うことを良いって言ってくれるかなあ?いや、その前にアズロが本当はアズール王子だって知ったら、工房の人たちはびっくりしちゃうかな?
 そんな風に色々と考えているうちに、黒ドラちゃんはいつの間にか眠ってしまいました。


 夢の中では、大きなはちみつ玉を抱えたモッチと、それにぶら下がるキーちゃん、それを見てびっくりする王子様。ペペルの奥さんがはちみつ湯をごくごく飲んで、双子の赤ちゃんがバブバブとにぎやかです。マグノラさんが尻尾を振ると、辺りには甘い花の香りと共にふんわりとした白い花のおくるみが広がりました。みんなでおくるみの上でコロコロと転がって遊びます。いつの間にかブランやゲルード、鎧の兵士さんたちも加わって走り回っています。

 黒ドラちゃんは楽しい夢を見ながら、ぐっすりと眠りました。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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