第139話-みんなで新婚旅行!

文字数 2,384文字

 三人のニクマーン語りがひと区切りを迎えたところで、ブランが黒ドラちゃんの前にやってきました。

「黒ちゃん、これは僕から」
 そう言って小さな箱を差し出します。
 とうとう竜にもニクマーン信者が!?と思いながら、黒ドラちゃんがおそるおそる箱を開けると、中身は白い魔石でした。
「これ、まさかニクマーン魔石じゃないよね?」
「もちろんだよ。それは<真実の魔石>だよ」
「しんじつのませき?」
 初めて聞く名前です。

 黒ドラちゃんは包みから魔石を取り出しました。まるで霧が閉じ込められているかのような、不思議な白さをしています。
「これって、どういう魔石なの?」
「これはね、真実を見抜く魔石なんだよ」
「えっ!それってすごいんじゃない?これがあれば、ラマディーのお姉さんの無実もわかってもらえる?」
「ああ」
 ブランがうなずきます。

「すごい!すごいよ、ブラン!」
 黒ドラちゃんが興奮して、魔石を陽に透かしながらピョンピョンと飛び跳ねます。
「こんなすごい魔石が作れるなんて、ブランて本当にすごいね!」
 黒ドラちゃんに手放しで褒められて、鱗をほんのり染めながらブランが説明します。
「あのさ、実をいうと僕だけの力じゃないんだ。スズロ王子が妖精に頼んで、一時的に石に入ってもらってるんだ」
「えっ!これって妖精さん入りなの?!」
 黒ドラちゃんはびっくりして石を陽に透かして何度も覗き込みましたが、妖精さんは見えません。

「その中にいるのは、大昔に東の大陸から伝わったって言われている、キクっていう白い花の妖精だよ」
 そう言いながら、ブランがお花を一つ出してくれました。それはバラや百合のような派手な美しさはありませんが、可愛らしいお花です。

「大昔に東の大陸から来たんなら、ひょっとしてニクマーンの聖地にも咲いていたのかな?」
 黒ドラちゃんはクンっとお花の匂いをかぎました。なんだか誠実そうな匂いです。
「そうだね、もしかしたら咲いていたのかも」
 ブランがうなずいてくれます。

「私がスズロ王子に今回のことをご報告したところ、そばで聞いていたその妖精が、自分ならば真実を見抜けると教えてくれたそうです」
 相変わらず王子大好きなゲルードが、嬉しそうに教えてくれます。

「でも、どうやって真実を見抜くの?」
 また黒ドラちゃんは石を陽に透かして眺めてみます。確かに不思議な感じのする魔石ですが、どうやって真実を見抜くんでしょう。

「この花の白さと香りは<曇りなき眼の印>と言われてるんだよ」
「ねえ、ブラン、それって絵本に書いてあった言葉だよね?やっぱりニクマーンの聖地と関係あるんじゃない!?」
「どうだろう?東から伝わった花だからそう言われているのかもしれないし、本当にニクマーンの聖地と関係あるのかもしれないし、それはわからないんだ」
「ニクマーンの聖地に咲いてたからだったら良いなあ」
 黒ドラちゃんは、今度はキクの香りを深く吸い込みました。なんだか胸がスーッとします。

「それでね、この魔石は真実を述べている者が持てば白さを失わず、偽りを述べれば黒く染まるようになっている」
「へ~!すごいねえ。キクの妖精さんてすごいんだね」
 黒ドラちゃんは、すぐに魔石の力を試してみたくなりました。

「ブランなんて大嫌い!」
「えっ!!」
 黒ドラちゃんの突然の大嫌い宣言に、ブランが蒼ざめます。すると、黒ドラちゃんの手の中の魔石が真っ黒く染まりました。
「わあ!すごい!本当に嘘を言ったら黒くなったね!」
 黒ドラちゃんは大喜びです。その横でブランが胸を押さえてフラついています。
「ブラン、大好き!」
 黒ドラちゃんの手の中の魔石は、再び真っ白に変わりました。
「わあ!見た?ねえ、ブラン、今の見た?見た?」
 はしゃぐ黒ドラちゃんにうなずきながら、ブランは小声で「寿命が200年くらい縮んだ気がする」とつぶやいていました。

 こうして、4つのニクマーンこけしと真実の魔石を持って、黒ドラちゃん達は出発することになりました。
 まずは古の森から、ラウザー達の待つ南の砦に寄って、そこからナゴーンを目指します。
 古の森を出発する朝、食いしん坊さんと一緒に現れたドンちゃんは、さっそくケープを身につけていました。南へのお出かけには暑いんじゃないか?とちょっと心配したのですが、そこは愛妻家の食いしん坊さん。
「このケープは、寒いところでは暖かく、暑いところでは涼しくなってマイハニーを守ります!」
 と胸を張りました。
 スッキリした姿と頼もしそうな様子に、ドンちゃんが見とれています。新婚旅行感あふれる二匹は、いそいそと用意されていた魔馬車に乗り込みました。黒ドラちゃんも人間の姿になって魔馬車に乗り込もうとした時、森の中から羽音が聞こえてきました。あの大きな羽音はモッチです。モッチがはちみつ玉を抱えて見送りに来てくれました。
「ぶい~ん、ぶいんぶいん」
 元気よく、黒ドラちゃんにはちみつ玉を差し出してくれました。でも、なんだか形が変です。
「あれ?モッチ、これって……ニクマーン!?」
「ぶいん!ぶいん!」
 モッチが嬉しそうにクルクルと回りました。
「ぶぶいん、ぶいんぶん」
「ニクマーン像の持ち主にあげれば良いの?」
「ぶん!」
 モッチがお願いお願い!というように黒ドラちゃんの前を行ったり来たり飛んで見せます。
「わかったよ。三匹のニクマーン像と同じように大切にしてもらうように話すね」
 モッチが嬉しそうに「ぶい~~~~~ん!」とひときわ高く飛び上がって一回転しました。

 ご機嫌のモッチに見送られながら、魔馬車が古の森を離れます。少し走ったと思ったら、ガタンッと大きく揺れて、窓の外の景色は砂漠に変わっていました。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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