第206話-ダンゴロムシの勇者だよ!

文字数 1,983文字

 約束は果たしました。
 さあ、黒ドラちゃんとモッチは古の森に戻らなければなりません。ダンザエモンさんをはじめ、フカフカ谷のダンゴロムシさんがお見送りのために集まってくれました。

「古竜様、モッチ様、本当にありがとうございました」
 みんながいっせいに背中を丸めて黒ドラちゃんとモッチに頭を下げます。
「ううん、あたしの方こそ、こんなに綺麗な谷を見られて、美味しいロールケーキも食べられて、すっごく嬉しかったよ!」
「ぶぶいん、ぶいん!」
 黒ドラちゃんの言葉にモッチもうなずきます。うなずきながら、みんなの背中を磨きたそうに見つめています。

「では、古の森へ戻りましょうか」
 ダンゴローさんの声に促されて、黒ドラちゃんは金のスコップを握りしめました。そうなんです、帰りもこれで掘らなければ戻れないんです。飛べば帰れるんじゃないかな?とも思ったのですが、この場で元の大きさに戻ったら谷をつぶしてしまうかも知れません。そうなったら大変なので、試せませんでした。

「じゃあ、ダンゴロムシのみんな、元気でね!たまには古の森に遊びに来てね!」
 みんなにお別れの挨拶をすると、黒ドラちゃんは掘り始めました。金のスコップで迷いなく掘り進めます。ブランのくれた光の魔石が穴の中を明るく照らします。

 古の森へ、
 待っていてくれるブランやドンちゃんや、
 みんなの元へ――

 スポッと金のスコップが穴の向こうへ抜けました。黒ドラちゃんが顔を出すと、そこは古の森の黒ドラちゃんの棲む洞の前でした。

「帰ってきた!」
 穴から飛び出して黒ドラちゃんが大きな声で元気に言いました。

「ぶぶいん!」
 続いてモッチも飛び出して、嬉しげにそこいら辺をぶんぶん飛びまわっています。

「ああ、無事に着きましたね」
 最後にダンゴローさんも出てきました。

 黒ドラちゃんはダンゴローさんに金のスコップを返しました。すると黒ドラちゃんの体は金色の光に包まれて、元の大きさに戻りました。

「ありがとうございました、黒ドラちゃん、モッチ」
 ダンゴローさんが心の底からお礼を伝えます。
「ううん、あたしこそ、すごくすごく楽しかった!ありがとう!」
 黒ドラちゃんが言うと、モッチもうなずいています。
「ぶぶいん、ぶいん、ぶぶい~~ん」
「え、なんですか?」
 ダンゴローさんが聞き返します。モッチの羽音の中に聞きなれない部分があったのです。
「勇者って言ったんだよ。ダンゴローさんはダンゴムシの中の勇者だって!」
「ゆうしゃ?ですか?」
 ダンゴローさんが不思議そうに聞き返します。ダンゴロムシさんは地上のことに疎いので知らないのかもしれません。黒ドラちゃんとモッチも、ノーランドで絵本を読んでもらうまで知らなかったんですけどね。

「あのね、勇者ってね、他のみんなのために危ない目に遭ったりしてもくじけずにがんばるんだよ」
「ぶいんぶいん!」
「それでね、みんなを幸せにする大冒険をするの!」
「ぶいん!」
「ダンゴローさんはダンゴロムシの勇者だよ!」

 黒ドラちゃんとモッチに見つめられて、ダンゴローさんは金のスコップを握りしめたまま、背中を小刻みに震わせました。
「わたしは……臆病でたいした魔力もなく、これといって取り柄のないダンゴロムシで……」
「でも、谷のためにここまで来たじゃない!あたしを連れて行ってくれたじゃない!」
「ぶいんぶん!」
「そうだよ、大冒険だよ!ダンゴロムシ勇者の大冒険だよ!」
 黒ドラちゃんの言葉に、ダンゴローさんが顔をあげました。
「私が勇者……勇者。その言葉にふさわしい者となるように、これからもがんばります!」
 なんだかいつも以上に背中とお目めが輝いているように見えます。黒ポチお目めをキリッとさせて、ダンゴローさんが金のスコップで穴を掘ります。黒ドラちゃんとモッチは穴の中に向かって叫びました。
「気をつけてねー!元気でねー!今度は遊びに来てねー!」
「ぶいん、ぶぶいんん、ぶぶい~~~ん!」
 穴の中から「はい、ありがとうございます」という声が小さく聞こえました。スコップで穴を掘る音がどんどん遠ざかります。ひらりと落ち葉が1枚、ダンゴローさんの掘った穴の上に降ってきました。名残り惜しそうに見送っていたモッチが、落ち葉をどかします。すると、そこはただの地面になっていました。

「ぶぶっ!?」
 モッチが落ち葉を遠くへ飛ばして、そこら中の地面を調べています。

「ぶぶ!?ぶぶ!?ぶぶ!?」
 でも、穴は見つかりませんでした。ダンゴローさんの掘った穴は、消えてしまったのです。モッチがガクッと肩を落としたのを見て、黒ドラちゃんも悲しくなりました。

「ダンゴローさん、無事に帰れたよね?」
「ぶいん」

 帰れたはず。金のスコップは魔法のアイテムだから、きっと帰れたはず。わかっていても淋しくなります。二匹でうなだれていると、遠くから黒ドラちゃんを呼ぶ声がしました。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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