第34話ークマン魔ばちさん

文字数 2,212文字

 翌朝、ブランと黒ドラちゃんはドンちゃんと一緒にマグノラさんの森に向かいました。その途中、鎧の兵士さんたちを連れたゲルードに会いました。
お城から消えたブランを追いかけてきたようです。
「古竜様ー、輝竜殿ーどこに行かれるのですかー?」
 ゲルードが空に向かって大声で聞いてきます。ブランは聞こえないをふりして飛び続けていましたが、黒ドラちゃんは答えてあげました。
「マグノラさんの森に行くのー。白いお花の森にー」
 すると、ゲルード達が向きを変えて黒ドラちゃん達の後に付いてきました。ブランはため息をつきましたが、そのまま飛び続けています。

 マグノラさんの森の外れに降りると、ブランはゲルード達が追い付くのを待ってから言い放ちました。
「今日はマグノラにとても大事な話がある。ついてくるな!」
 そう言われて素直に引き下がるようなゲルードではありません。逆に「竜三体がそろうような一大事!手をこまねいて見ていたとあっては、このゲルード、王に会わせる顔がございません!ついてくるなと言うなら、ここで殺してください!」と言うと、大の字になりました。「さあ、どうぞ!ひと思いに!」とか言っています。ブランはものすごく嫌そうな顔をしましたが、結局追い返すのはあきらめたようでした。
「マグノラが受け入れるなら僕は文句は言わないさ」
 そう言って森の中のへの一本道を進んでいきます。どうやら、この一本道はマグノラさんが認めた者しか、見つけられないし通れないようになっているようです。黒ドラちゃんがブランの後をついていくと、背中のドンちゃんが「ゲルード達ついてきているよ」と言いました。どうやらマグノラさんはゲルード達のことを入れてくれるようですね。そのまま一列に並んで歩いていると、またこの間のお花畑に出ました。

 お花畑の真ん中で、マグノラさんが待っていました。
「マグノラ、久しぶり……」
 あれ?ブランが挨拶しても知らん顔です。わざとらしく頭の上のクマン魔蜂さんの位置を直したりしています。
「マグノラ……さん、お久しぶりです」
 ブランが言い直しました。
「おやおや、ブラン坊やじゃないか!久しぶりだね。元気だったかい?」
「……はい、おかげさまで」
 ブランはマグノラさんの前だと別人ならぬ別竜のようです。

「今日はお詫びとお礼に伺いました」
「ふーん、なんだろうね?」
「私が連れ出したせいで黒ちゃんに辛い思いをさせてしまったこと、その後始末をマグノラさんにさせてしまったことです」
「ふむふむ、なるほど。わかっているなら良いんだよ」
「申し訳ありませんでした」
 ブランは竜のままでその場でグイッと首下げて謝りました。
「黒チビちゃんには、ちゃんと話したんだね?」
 マグノラさんが確かめます。
「はい。全部話しました」
「ならよろしい。あとは黒チビちゃん次第だ。このおバカさんを許すかい?」
「ブランにも言ったけど、あたしブランに会えて一緒に森からお出かけして良かったと思ってるよ!」
 黒ドラちゃんが言いました。
「だって、森から出たからみんなに会えたんだもん。マグノラさんとだって、仲良くなれたし」
 それを聞くとマグノラさんは目を細めてにっこりしました。
「黒チビちゃんがそう思うなら、もうこの件は終わりにしようか」
「うん!それより遊ぼうよ!」
 黒ドラちゃんがうれしそうに言いました。

「おっと、その前にもう一つあるんだよ」
 マグノラさんが言います。
「もうひとつ?なあに?」
「ほら、そこの人間。ゲルードだったかい?現在この国一の魔術師様」
「はっ華竜様、わたくしに何かご用でしょうか?」
 ゲルードがいそいそと進み出ます。
「いや、あたしじゃなくてこの子が言いたいことがあるらしいんだよ、お前さんに」
 そう言って、マグノラさんは頭の上のクマン魔蜂さんを示しました。
「あっ、いや、その、わたくし蜂に知り合いはおりませんので……」
 そう言いながらそろりそろりと後ろへ下がろうとするゲルード目がけて、クマン魔蜂さんは一気にぶいーん!と飛んで行きました。
「わあ!」
 ゲルードが必死に手を振り回しています。なんだかよくわからないけど、クマン魔蜂さんはとても怒っていて、ゲルードのこと追いかけまわしています。鎧の兵士さんたちもわけがわからないようで、巻き込まれないようにちゃっかり遠巻きにして見ています。

「マグノラさん、クマン魔蜂さんどうしちゃったの?いつもはおとなしいのに」
 黒ドラちゃんが不思議そうに言うと、マグノラさんが理由を教えてくれました。
「その坊やはね、黒チビちゃん達がお城へ行った時に、クマン魔蜂のはちみつを手に入れるために乱暴な手を使ったらしいよ」
「乱暴な手?なにしたの?」
「巣から離れようとしないこの子たちを追い払うために、炎の魔法を使ったんだとさ」
「えっ!ほんとに!?」
「ゲルード!そんなことをしたのか!?」
 黒ドラちゃんはもちろんのこと、ブランも驚いてゲルードを問い詰めました。
ゲルードは、ぶんぶん怒っているクマン魔蜂さんから逃げ回りながら、必死に言い訳をし始めました。
「違います!あ、いえ丸っきり違うわけでもないんですけど……そのっ、す、すみませんでした!」
 マグノラさんに睨まれて、ゲルードはとうとうその場に座り込んでしまいました。





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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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