第199話-お宝交換

文字数 2,088文字

「なんとか返してもらえる方法は無いのでしょうか……」
 悲しげなダンゴローさんのつぶやきが、黒ドラちゃんの頭の上から聞こえてきました。

「あ、あの、そんな小さなスコップよりも、こっちの大きなカミナリ玉の方がヒナも喜ぶんじゃないかな?」
 黒ドラちゃんが綺麗なカーラスに話しかけます。綺麗なカーラスはラキ様の手の平の特大カミナリ玉を見つめました。

「……カ、カア!」
 あ、ちょっと迷ってからダメって言う感じで鳴きました。黒ドラちゃん達は、カーラスに背中を向けると、みんなで内緒の相談を始めました。
「今、なんか迷ってたよね?」
 ドンちゃんがカーラスをチラチラ振り返りながら言いました。
「うん、絶対に迷ってた!」
「ぶぶいん!」
 黒ドラちゃんとモッチがうなずきます。
「もっと大きなカミナリ玉にすれば良いんじゃない?」
 ラウザーがパッと思いついて言いました。
「大きさは問題ではないのかもしれません」
 リュングがちょっと考えてから答えます。
「そうだな、大きさだけならこっちを選ばないはずがない」
 ブランもリュングの意見に賛成します。
「大きさが問題ではない、となると“形”でしょうか?」
 ゲルードがつぶやきます。

「形かあ」

 みんなが考えていると、それまで黙って聞いていたラキ様がふむ、とうなずきました。
「それならばこうしよう」
 そう言ってみんなの輪から外れると、二羽の前に再びしゃがみこみました。

「ヒナの好む形なのであれば、これならどうじゃ?」
 ラキ様が手の平を広げると、そこには特大カミナリ玉は無くなっていました。代わりに、数本の小さなカミナリスコップがキラキラと輝いています。

「カアアアアアーーーーーッ!!!」
 綺麗なカーラスが飛び上がるようにして喜んでいます。サッと金のスコップを羽毛の間から引き抜くと、ラキ様の前に差し出しました。
「うむ、確かに受け取ったぞ。では、これはそなたのモノじゃ」
 ラキ様がカミナリスコップを差し出すと、綺麗なカーラスは咥えられるだけ咥えました。さらに大きなカーラスに「クウウッ!」と指図しています。「なにぼやっとしてんの!」って感じの鳴き方です。カミナリスコップを咥えると、二羽のカーラスは嬉しそうにそして仲良く巣のある方へと帰って行きました。周りで見ていたカーラス達も、山積みになっていたカミナリ玉を咥えられるだけ咥えて巣に戻っていきます。
「さよならー!もう光りモノを勝手に持ち帰らないでねー!」
 黒ドラちゃんは手を振りながらカーラス達に声をかけましたが、聞いているカーラスはいないみたいです。

「とりあえず、王宮のブローチも置いて行ったし、思わぬ収穫でしたな」
 ゲルードがホッとしたように言いました。そうなんです、カーラス達はカミナリ玉を咥えて帰るために、自分たちが巣から持ってきた光りモノは置いて行っちゃったんです。
「持ち主のわかるモノは出来るだけ返しましょう」
 リュングが鎧の兵士さんたちと相談しています。その横で、ラウザーがラキ様を見つめて「やっぱりラキ様ってばすごい!可愛い!」と尻尾をカミカミしています。せっかくリュングが魔術で綺麗にしたけど、これじゃあラウザーの尻尾はまたすぐにくたくたになりそうですね。

 作戦は無事に終了しました。鎧の兵士さん達が次々と光りモノを持って草原を後にします。ラキ様とリュングも、ラウザーに乗って南の砦に帰って行きました。ブランはゲルードと一緒に、お城で色々と報告があると言って引き揚げて行きました。

 後には、黒ドラちゃんとドンちゃん、そしてモッチとダンゴローさんが残りました。ダンゴローさんは自分の元へ戻ってきた金のスコップを愛おしそうに撫でています。

「良かったね、ダンゴローさん。これで黄金色のフカフカ谷へ帰れるね!」
 黒ドラちゃんに話しかけられて、ダンゴローさんは嬉しそうにうなずきました。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
 何度もお辞儀をして、体が丸まりそうになっています。
「ぶぶいん」
 良かったね、ってモッチがダンゴローさんの背中を撫でています。あ、またどこかから白い布を取り出して磨き始めました。

「とりあえず、あたしたちも森へ帰ろうか?」
「うん!」
 ドンちゃんが元気良く返事をして、黒ドラちゃんの背中に乗りました。ドンちゃんの頭の上には、ダンゴローさんを抱えたモッチが乗っています。

 古の森を夕焼けが美しく染めていました。

「美しいですね、古竜様の古の森は本当に美しい」
 金のスコップを抱えたダンゴローさんがしみじみつぶやきました。
「ありがとう。ダンゴローさんの黄金色のフカフカ谷も綺麗なところなんでしょう?」
「ええ、そう……そうですね」
 ダンゴローさんは、故郷の谷を思い出しているようです。
「帰れるのですね、フカフカ谷に」
 夕陽を浴びながら、ダンゴローさんがつぶやきました。
「うん。帰れるよ。あたしも一緒に行くんだもんね!フカフカ谷を見られるんだ!」
 黒ドラちゃんのワクワクした声に、ダンゴローさんが「はい!」と答えます。

 ダンゴローさんの手の中で、夕日を浴びた金のスコップがキラリと光りました。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み