第65話ーいばらは楽しい♪

文字数 2,086文字

 ブランとゲルードが頭を悩ませている頃、何も知らない黒ドラちゃんとドンちゃんは、楽しくおしゃべりしながら美味しいお茶とお菓子を味わっていました。けれど、ブランとゲルードがなかなか現れないので、だんだんと座っていることに飽きてきました。

 キョロキョロと部屋の中を見回していると、置かれている色々なものに触ってみたくなります。でも、なんとかじっと我慢していると、そばに仕えてくれていた侍女さんが「お庭を散歩されますか?」と声をかけてくれました。

「良いの?」

 黒ドラちゃんとドンちゃんが瞳をキラキラさせながらたずねると、若い侍女さんが笑いながら庭の説明をしてくれました。
「こちらの部屋の前に広がっている中庭は、低めの生垣でぐるっと囲まれております。その生垣さえ越え無ければ、大丈夫ですよ」
 それを聞いて、黒ドラちゃんとドンちゃんは庭に出て見ることにしました。

 中庭には背の低い木がバランスよく植えられ、綺麗なお花もたくさん咲いています。黒ドラちゃんは、今度来るときにはクマン魔蜂さんも一緒に連れてきてあげたいな、と思いました。少し歩いているうちに、塀のように整えられた緑が見えてきました。緑の塀は、黒ドラちゃんの肩くらいまでの高さでずっと続いているように見えました。植えてあるのは茨のようです。
(あれが生垣かなあ?)
黒ドラちゃんは、侍女さんに言われていた通りにドンちゃんと元来た方へ戻ろうと思いました。ところが、茨の囲いを見たとたん、ドンちゃんの目がキラリン!と光り、囲いの方へすごい勢いで走り出しました。
「ドンちゃん!?」
 あわてて黒ドラちゃんはドンちゃんを止めようとしましたが、ドンちゃんはあっという間に茨の中に消えていきます。

「黒ドラちゃん!ここすごいよ!すごいよ!すごーい!」
 そう叫ぶドンちゃんの声がどんどん遠くなっていきます。

「ドンちゃん、ダメだよ!これって越えちゃいけないって言われた生垣だよ!?ドンちゃん!」
 けれど、もうドンちゃんは近くには居ないようです。もう黒ドラちゃんはどうしたら良いのかわからなくて、その場で泣き出してしまいました。



 茨の囲いにもぐりこんだドンちゃんは、どこまでも続くように感じる長い茂みに大興奮していました。右に左にゆるくカーブを繰り返しながらしばらく走り続け、ふと気がつくと黒ドラちゃんからずいぶん離れてしまったようです。こわごわ茨の生垣から顔を出してみると、そこは中庭とは全く違う、広い緑の庭が広がっていました。

「黒ドラちゃん!」
 呼んでみても返事はありません。

「く、黒ドラちゃあん……」
 知らないお家で生垣に夢中になって迷子になるなんて、思ってもみませんでした。キョロキョロと見回すと、背の高い木がまばらに植えられています。ぐるっと回りを見回してみると、ゲルードのお屋敷が離れたところに見えました。いつの間にかずいぶん屋敷から遠ざかってしまっていたようです。

 もう一度、今出てきた茨の中に戻ってみよう!ドンちゃんはそう考えて茨の生垣に飛び込みました。ところが、ボフンッ!と何か柔らかいものにぶつかって、跳ね返されてしまったのです。コロコロコロン!と転がったところでようやく止まり、生垣を振り向いて見ると、中から灰色のモフモフしたものが這い出てくるところでした。

「ふう~、やれやれ吾輩としたことが、茨なんぞに夢中になってしまうとは……」とかなんとか言いながら、ブルッと体を震わせてモフ毛に着いた草を落としています。良く見てみると、灰色モフモフには長いお耳がありました。丸い尻尾もついています。ついでに黒くて小さなお鼻をひくひくさせています。そして「この匂いは、ノラうさぎか?まさか?」と言いながらドンちゃんの方を見ました。

「ち、違うもん!野良ウサギじゃないもん!あたし、古の森のドンちゃんだもん!」
 灰色のモフモフはドンちゃんの倍くらいの大きさでしたが、負けるもんか!とドンちゃんはがんばって大きな声を出しました。
「いや、お前はノラうさぎだろう?」
 灰色のモフモフはどんどん近付いてきます。ドンちゃんはギュッと縮こまりましたが「違うもん!」と、なんとか声をあげました。

「おかしいな、お前は絶対にノラうさぎだ。私と同じ」
 灰色のモフモフにそう言われ、ドンちゃんは目を丸くしました。だって、このモフモフは金の鎖のついた片眼鏡をしているんです。とても野良には見えません。

「あなたは野良なの?そんなキラキラした眼鏡してるのに」
 ドンちゃんが不思議そうに言うと、ちょっと間が空いてから灰色モフモフは大声で笑い出しました。
「ノラって野良犬や野良ネコの野良だと思ったのか?違うぞ、おちびちゃん」
「えっ!?違うの?」
 ドンちゃんが聞き返すと、灰色モフモフは胸を張って答えました。

「ノラうさぎとは、ノーランド魔ウサギのことである!」

 どうだと言わんばかりの灰色のモフモフの耳に「へえー……」というドンちゃんの平坦なお返事が沁みました。





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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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