第123話-ただいま、モーデさん

文字数 2,432文字

 山の上のノラクローバーの群生地は、雪に埋もれることなく黒ドラちゃん達を迎えてくれました。黒ドラちゃんは人間の姿になると、プチンプチンとクローバーを摘んでは籠に入れます。ドンちゃんが幸せな花嫁になれますように。ドンちゃんが笑顔で食いしん坊さんと過ごせますように。一本一本丁寧に籠に入れながら、黒ドラちゃんは摘んでいきます。モッチとホペニが楽しそうにノラクローバーの花に頭をつっこんでいます。空は晴れて、風が優しく吹いていました。
 籠いっぱいにノラクローバーを摘んだ黒ドラちゃんは竜の姿に戻ると、帰りは飛んで山を下りました。王宮の森に着くと、女王蜂を初め、王宮蜜蜂のみなさんがホペニを心配して勢揃いして待っていました。ホペニのきょうだいは、全部お姉ちゃんです。未来の女王候補のお姉ちゃんたちは、ホペニを小突きまわしながら、それでも無事をとても喜んでいました。黒ドラちゃんが、ホペニにお礼として魔力を込めたノラクローバーの小さな花束を渡します。ホペニは最初「ブブンブン!」と遠慮して受け取ろうとしませんでした。でも女王が「ブンッ!」と大きく羽を鳴らすと、ちょっと照れくさそうに受け取ってくれました。どうやら、つまらない遠慮はお止し、と言われたようです。
 それから、女王蜂はモッチのところへ飛んできて、優雅な飛び方で「ブブイ~~~ン、ブブイ~~~ン」と二回羽音を鳴らしました。今回もホペニを鍛えてくれたお礼と、またぜひお越しください、というごあいさつでした。モッチが「ぶぶいん!ぶん!」と嬉しそうに羽音で答えています。また来てくれると聞いて、ホペニが嬉しそうに飛び回りました。


 王宮蜜蜂のみなさんとお別れして、王宮への道を進んでいると、森の入り口でモーデさんが騎士さんたちと一緒に待ってくれていました。黒ドラちゃんとモッチが心配で、ここまで迎えに出てくれていたようです。
 「古竜様!おかえりなさいませ!」
 モーデさんが嬉しそうに駆け寄ってきます。黒ドラちゃんも「モーデさん!」と駈け寄りました。思わず抱き合いそうになりましたが、行きは人間の姿でしたが、今は竜です。キュッと止まってモーデさんに籠を見せました。
 「見て見て!こんなにたくさん摘んだんだよ!きっと花嫁の冠すごいの作れるよね?」
 「まあ、すごいですね、古竜様。そういえば、ノラウサギのおばあ様が会いたがっておられるそうです」
 「えっ!?そ、そうなの?」
 「ええ、花嫁の冠のことをお話したいとのことでした」
 「うん!わかった。じゃあこのまま行っちゃおうか?」
 黒ドラちゃんは出発前とは違い、明るくきっぱり言いました。

 「あ、いえ、おばあ様は寝ていることが多いそうなので、前の日にご連絡を下さいと二世殿から言われています」
 「あ、そっか、そうだよね」
 「ですから、明日の午後のお茶の時間などいかがでしょう?その時間は比較的起きていることが多いそうなので」
 「うん!わかった。じゃあ、明日の午後にしよう!」

 黒ドラちゃんはモーデさんと一緒に、王宮へと戻っていきました。
 王宮では黒ドラちゃん達が無事にノラクローバーを摘んできたことで、盛大な晩さん会が開かれました。行く前に食べた、雪蜜りんごが甘く煮られてクリームの上に山盛りされているデザートを見て、黒ドラちゃんは歓声をあげました。モッチはマグノラさんの花で作ったはちみつ玉を、王様や王妃様にプレゼントしています。モッチのはちみつ玉の周りに、淡い光が集まって、ゆらゆら揺れて見えました。黒ドラちゃんがじっと見つめていると、後ろに控えたモーデさんがそっと教えてくれます。
 「あれは妖精です。よほどはちみつ玉の甘い匂いと魔力が魅力的なのでしょう」
 そういえば、ノーランドもノルドと同じで、竜はいないけど妖精が沢山いる国だと聞きました。けれど、モーデさんの話によると、これほど大勢の人が居る場所に現れることは珍しいということでした。
 「やっぱりモッチのはちみつ玉ってすごいんだね!」
 黒ドラちゃんが褒めると、モッチが「ぶぶいん!」と嬉しそうに羽音を鳴らしました。


 楽しい時間を過ごして晩さん会が終わりをつげ、黒ドラちゃんはふかふかのベッドの中にいました。枕元にはマグノラさんのリース、足ともにはノラクローバーがたくさん入った籠が置いてあります。バルデーシュに帰ったら、みんなにお話ししたいことがたくさん出来ました。明日の午前中は、王都でお土産も買えるそうです。バルデーシュに帰るのが楽しみで、ドンちゃんの喜ぶ顔が早く見たくて。その日の夜の黒ドラちゃんの夢は、バルデーシュを出る前に見たような、みんなが笑顔で出てくる楽しいものでした。
 翌朝、目を覚まして美味しい朝食を頂き、さて着替えをという段になって、モーデさんが申し訳なさそうに黒ドラちゃんに言いました。
 「あの、古竜様、もしよろしければ王都に買い物に出る時に、一度竜のお姿を皆に見せていただいてもよろしいでしょうか?」
 「良いの?ビックリする人がいないかなあ?」
 黒ドラちゃんはちょっと心配でしたが、モーデさんが続けて説明します。なんでも、空前のバルデーシュブームが起きているノーランドでは、黒ドラちゃんの姿を一目見ようと、王都にたくさんの人が集まってきているそうなのです。

 「古竜様が竜のお姿で皆の前に現れ、その後人間のお姿になれば、民も大喜びだと王はお考えで」
 「そっか。じゃあそうしよう!」
 「よろしいでしょうか?ありがとうございます」
 「じゃあさ、王都をぐるっと飛んで見せようか?」
 「そこまでしていただけるとは、まさか王も考えておられなかったと思います、ありがとうございます!」
 モーデさんはキラキラした目で黒ドラちゃんにお礼を言ってから、すぐに部屋を出て行きました。
 竜になるとなれば、またそれなりに色々と準備があるようです
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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