第171話-ブローチ大作戦☆

文字数 2,733文字

「ブラン!おはよー!」
「おはよう、黒ちゃん。キーちゃんはいる?」
「キー!」
 すぐにキーちゃんも洞の中から飛び出してきました。黒ドラちゃんが手を伸ばすと、そこにぶらさがります。

「あのね、昨日あれから魔石のビーズで飾りを作ったんだ」
「へ~!すごいね、ブラン」
「キキー!」

 ブランが握りしめていた手を開くと、そこには小さなビーズがキラキラとたくさんのっていました。
「キーちゃん、ちょっと僕の手のひらに乗ってくれるかい?」
「キー」
 キーちゃんがブランの手のひらにへばりつきます。逆さまになる場所が無いと、こうなっちゃうみたいです。

「じゃあ、いくよ?ちょっとだけ冷たく感じるかもしれないけど、我慢してね?」

 キーちゃんを手の平にのせたまま、ブランが目を閉じます。手の平でキーちゃんがブルッと震えました。ふわっと手の平から冷気が広がったかと思ったら、キーちゃんの体は魔石のビーズで綺麗に飾られていました。
「キー!!」
 キーちゃんがビックリして飛び上がりました。
「あ、ダメだよキーちゃん、ビーズが取れちゃう!」
 黒ドラちゃんはあわてましたが、ブランが優しく止めました。
「大丈夫。あれは僕の魔力で飾ってあるから、動いても取れたりしないんだ」
「へ~!」
 飛んでいるキーちゃんを見てみると、確かにビーズは付いたまま、とても綺麗です。

「キーちゃん、キラキラしててとっても綺麗だよー!」
「キキキー!」
 嬉しそうなキーちゃんが黒ドラちゃん達の周りをクルクル飛び回ります。

「さて、こちらの準備は出来たけど、ゲルード達はどうかな?」
 ブランがそうつぶやいた時です。黒ドラちゃんのお耳に、ガチャガチャという聞きなれた音が聞こえてきました。

「あ、鎧の兵士さんたちだ!ゲルードがきたんだよ、きっと!」
 そう言って、黒ドラちゃん達が音のした方へ進んでいくと、ゲルードを先頭に鎧の兵士さん達が歩いてきました。

「おお!古竜様、わざわざお出迎え頂いて恐縮です」
 いつものようにゲルードが片膝を折ってお辞儀をします。
「良いの良いの!だってキーちゃんのために協力してもらうんだもん、お礼を言うのはこっちだよ!」
 黒ドラちゃん達が駈け寄ると、ゲルードが立ちあがりました。

「それで、グラシーナの方はどうなった?準備は出来たのかい?」
「もちろんです!今日、これからすぐにでもコポル工房へ向かうことが出来ますぞ」
「キキーー!」
 キーちゃんが興奮してみんなの周りを飛び回りました。

「キーちゃんとやら、落ち着きなさい。ブローチですぞ、ブローチ」
 ゲルードに言われると、キーちゃんはそうだった!みたいな感じで、さっとゲルードの胸にぶら下がりました。そうしていると、ブランの魔石に飾られて、ビロードで作られたブローチにしか見えません。

「すごいね、これなら絶対にばれないよ」
 黒ドラちゃんがふんふんと感心しながらうなずいています。
「とりあえず、僕たちは一緒に行くことが出来ないから、ゲルード、頼んだぞ」
 ブランがゲルードに念を押していると、そこへドンちゃんがあわててやってきました。

「はあっはあっ、待って、待って!」
「ドンちゃん、どうしたの!?」
 見ればドンちゃんの頭にはモッチも止まっています。
「ぶぶいん、ぶいん!」
「え、モッチも行くって?どこに?」
「ぶん、ぶい~~ん」
 そう羽音で答えると、モッチはゲルードの胸、キーちゃんの横にぴたりと止まりました。

「……」

「モッチ?」
 黒ドラちゃんが声をかけると、モッチは(ぶぶぶ)と小声で答えました。

「あのね、モッチはアズール王子に会いたいんだって」
 ドンちゃんが固まったモッチの代わりに教えてくれます。
「えっ!じゃあ、まさかと思うけど、今のモッチってブローチのまね?」
(ぶ)
「え、じゃあ、まさかドンちゃんも王子様に会いたくて急いできたの?」
 黒ドラちゃんはドンちゃんが掴まるスペースがあるかなあ?とゲルードの胸元を見つめました。

「ううん。あたしはキーちゃんに木の実を渡したくて」
「キーちゃんに?」
「うん。だって、もし王子様に無事に会えたら、一緒にエステンへ帰ることになるかもしれないでしょ?」
「そ、そっかあ……」

 ドンちゃんがそっとブローチに化けたキーちゃんに話しかけます。

「あのね、キーちゃん、これね、古の森の木の実の甘い奴ばかり集めたの」
(キ)
 ドンちゃんは葉っぱでくるんだ木の実をゲルードに渡しました。
「もし、このままエステンに帰れることになったら、森の仲間と食べてね。お土産だよ、って」
「キー」
 あ、キーちゃんがしゃべっちゃいました。見れば、逆さまにぶら下がったキーちゃんの目から、ポロンと大きな涙がこぼれています。それはビーズのように輝きながら、ゲルードのマントの上を転がり落ちて行きました。



「じゃあ、そろそろ行きましょうか。まずはテルーコの店に寄ってグラシーナと合流します」
 ゲルードが声をかけると、鎧の兵士さん達も動きだします。森のそばに用意した魔馬車に乗って王都まで戻るそうです。黒ドラちゃんはブランとドンちゃんと一緒に古の森で待つことにしました。モッチは、ブランに魔石のビーズを5~6個キーちゃんから移してもらって、ブローチっぽく見えるようになりました。もちろん、アズール王子に会った後は、ゲルードがきちんと森へ連れて帰ってくれることになっています。

「がんばってね、キーちゃん、王子様によろしくね!」

 黒ドラちゃんが声をかけると、キーちゃんがパッと羽を広げて、またキュッと縮こまりました。気分はすっかりブローチになりきっているようです。

「モッチ、キーちゃんの邪魔しちゃだめだよ、王子様に会ったら帰ってくるんだよ!」
 黒ドラちゃんはモッチにも声をかけましたが、モッチは身動き一つしません。すっかりブローチモードに入っているようです。やる時はやる、モッチです。ゲルードが胸元を見て、ちょっと苦笑いしました。

「では、行ってまいります。後でご報告に伺いますので」

 そう言って、ゲルード達は王都へ向かいました。

 ゲルード達を見送ってから、黒ドラちゃん達はマグノラさんの元へ向かいました。作戦がうまくいくかどうか心配で、じっとしていられなかったのです。それに、こういう不安な時は、マグノラさんのお花の匂いをかぎたくなります。とにかく、マグノラさんとお話していれば、なんとなく大丈夫な気がしてきます。

 白いお花の森は、いつでも優しく黒ドラちゃん達を向かい入れてくれるのです。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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