第127話-ひとつだけ

文字数 2,205文字

 みんなでしみじみとノラクローバーを眺めていると「おーい!黒ちゃーーーん!」と言う声が聞こえてきました。森の南の方からラウザーが飛んできています。
 「ラウザー!こっちこっち、ここだよー!」
 黒ドラちゃんが迎えに行って、ラウザーを湖のほとりの大きな木のそばまで連れてきます。

 「黒ちゃん、お帰り!無事にノラクローバー集められたんだなあ。良かったな、ドンちゃん!」
 ラウザーの明るい声を聞いてるうちに、みんなのお祝いムードが高まってきました。
 「黒ちゃん、花嫁の冠って、作るのにどれくらいかかるんだ?」
 「あのね、食いしん坊さんのおばあ様に教えてもらって、練習もしてきたから多分今日の夕方までには出来ると思う」
 黒ドラちゃんが答えると、ラウザーが「じゃあ、今夜は花嫁の冠祭りだな!」と楽しそうに言います。
 「いや、黒ちゃんとモッチは少し休ませてあげた方が良いよ。休まず飛んで来たんだろう?」
 ブランが心配そうに言いました。
 「ううん、大丈夫。全然疲れてないよ。でもみんなは夜まで森にいて大丈夫?戻らなくて平気?」
 黒ドラちゃんがカモミラ王女やゲルード、鎧の兵士さんたちに心配そうに聞きました。
 「カモミラ王女や我々のことならご心配なく。たとえ夜になっても私の魔術がございますし、森のすぐそばまで馬車を待たせますので」
 ゲルードが答えてくれました。
 「心配ならば、王女とドーテさんだけでも、僕がお城へ乗せてゆくよ」
 ブランも言ってくれます。
 「少しくらい暗くなっても大丈夫じゃ。我のカミナリ玉で照らしてやろう」
 そう言いながらラキ様がたくさんのカミナリ玉を袖の中から出してくれます。
 もう、みんなお祭りする気満々です。
 「じゃあ、黒ちゃんが花嫁の冠を作っている間、祭りの準備をしようぜ!」
 ラウザーが元気よく言うと「たっくもう、なんでお前が仕切ってるんだよ」とブランが尻尾でペチンと叩きました。
 「良いじゃんかあ!お祭り竜だぜ、俺!」
 張り切ってラウザーが言うと、みんなの楽しそうな笑い声が響きました。



 その日、夕暮れの古の森を可愛い系のみんなが総出で忙しく動き回っていました。ドンちゃんの兄弟のノラウサギさん、魔リスさんたちは木の葉を敷き詰めて、湖の前に広場を作っています。魔ねずみさんたちもキラキラ光る木の実、いえ、ラキ様のカミナリ玉を咥えて忙しそうに行き交っています。モッチをはじめ、クマン魔蜂さんたちも蜜を集めてはちみつ玉作りに余念がありません。ブランやラウザーは、魔ねずみさんたちからカミナリ玉を受け取って、大きな大きな大きな木に飾り付けて行きます。マグノラさんは花の上を飛びまわりながら、尻尾をゆらゆらとさせています。マグノラさんが通り過ぎると、花々が何とも言えない良い香りを漂わせました。ゲルードと鎧の兵士さんたちは、何やら丸い台のような物を作っています。湖の上にはラキ様が浮いていて、水面の上にまんべんなくコロコロとカミナリ玉を転がしています。湖上と大きな木に飾られたカミナリ玉がピカピカと輝いて、湖のまわりはとても賑やかな雰囲気でした。


 そこへ、カモミラ王女とドーテさんに付き添われて、若草色のエプロンを身に付けたドンちゃんが現れました。フリフリしたエプロン姿はとても可愛らしくて、食いしん坊さんがお口をポカンと開けて見とれています。
 「さあ、花嫁と花婿はこちらへ!」
 ゲルードが手招きしているのは、さっき作っていた丸い台でした。今はお花で可愛く飾りつけされています。ドンちゃんが食いしん坊さんにエスコートされながら、一緒に台の上にピョンと乗りました。
 「花嫁の親友から、冠をどうぞ」
 ゲルードの声とともに、頭の上にモッチを乗せて、黒ドラちゃんが洞の中から現れました。手にはノラクローバーで作られた冠が乗っています。

 黒ドラちゃんが台の上の二人の前に立つと、ドンちゃんがちょっと頭を下げました。そこへ、そっと冠が載せられます。
 「おめでとう、ドンちゃん。食いしん坊さんと幸せになってね」
 黒ドラちゃんの言葉が終わらないうちに、冠がぽーっと輝きました。
 「おお!花嫁の冠の“願い事タイム”です!」
 食いしん坊さんが言いました。
 「願い事タイム?」
 ドンちゃんがちょっと首をかしげると、台のそばで見守っていたお母さんが教えてくれました。
 「あのね、心の底から祝福されて花嫁の冠をかぶせてもらったら、一つだけ願いをかなえてもらうことが出来るのよ」
 「一つだけ?」
 「ええ、一つだけ。どんなわがままな願いごとでも良いのよ?一生に一度なんだから」
 「一生に一度……」

 みんながドンちゃんを見守っています。自分たちに出来ることなら、なんでも叶えてあげよう、そんな気持ちが伝わってきます。

 何を願う?何を願う?ええっと、ええっと――

 ドンちゃんはこれまでの古の森であった色々なこと、森の外であった様々な出来事や出会った人を考えました。そして、横にいてくれる食いしん坊さんを見ました。それから、黒ドラちゃん、ブラン、ラウザー、湖の上のラキ様、カモミラ王女とドーテさん、少し離れたところにいるゲルードと鎧の兵士さんたち。そして、優しく見守るマグノラさんがうなずくのを。


 ドンちゃんの願い事が決まりました。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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