第196話-さあ、こっちだよ

文字数 2,168文字

 一瞬の白い光の後に、バルデーシュにあまねく雷の音が鳴り響き、女神からの恵みの雨が降り注ぎました。あちらこちらから人々の歓声が聞こえてきます。王都でもまるでお祭りのように人々が浮かれていました。けれど、それ以上に盛り上がってる生き物の存在が……

「カアーーーッ!」
「カアア!」
「カカーーーーーッ!!」

 カーラスです。

 もちろん、カーラスは王様の出したおふれなど知る由もありません。空がピカーッとしたら、ピカピカする丸いものがたっくさん空から降ってきたのです。国中のカーラスがカミナリ玉に夢中になりました。一粒でも多く拾って自分の巣に持ち帰ろうと、あっちでもこっちでも大騒ぎです。古の森に集まっている黒ドラちゃん達の耳にも、カーラスの鳴き声は聞こえてきました。

「ラキ様、やったね!カーラスたちカミナリ玉に大騒ぎしてるよ!」
「うむ、我の仕事はここまでじゃな。この先は銅鑼子よ、そなたの腕の見せ所ぞ」
 そう言ってラキ様は綺麗なキモノの袖をひらりとさせてラウザーの元へと戻りました。ラウザーったらすっかりデレッとしちゃって、噛み過ぎた尻尾の先がくにゃくにゃになっています。ラキ様がチラリと尻尾の先を見て、ふんっと鼻先で笑いました。でも、頬は薄らと染まったまま。ラキ様ったら、なかなか素直になれないツンデレさん(ラウザー談)ですね。

 さて、みんなでカーラス達の様子に耳を澄ませます。大騒ぎしていた鳴き声が小さくなっていき、だんだんと収まってきました。
「黒ちゃん、カーラス達は巣の中に持ち帰ったものは自分の所有物として執着するんだ」
「うん」
「だから、カーラス達がそれぞれの巣にカミナリ玉を持ち帰ってからが勝負だ」
「うん!」

 ブランが再び耳を澄ませます。竜は、その気になればかなり遠くの音まで聞く事が出来るんです。
「ほとんどが巣に戻ったみたいだ。もう少ししたら、黒ちゃんの魔力でカミナリ玉を集めよう」
「古の森に集めるの?」
「いや、森の外の方が良いだろう。カーラスに警戒させないためにね」

 そうでした。古の森は黒ドラちゃんの魔力に満ちています。普通の鳥であるカーラスは、普段は森の中には入れません。いくらカミナリ玉に惹かれて来ると言っても、森の中に吸い込まれていく様子を見たら、近づいてこないかもしれません。
「じゃあ、森の外に出るの?」
「ああ。ゲルードが森のそばの草原に準備をしてくれているはずだ」
 そういえば、いつの間にかゲルードがいなくなっています。
「今日一日は、人間がこの辺りの草原に入り込まないように、見張りを立ててくれているんだ」
 なるほど、さすが国一番の魔術師、根回しバッチリです。

「じゃあ、森の外に出ようか」
 ブランを先頭を飛び、黒ドラちゃんがドンちゃんを背中に乗せて続きました。ドンちゃんは、頭の上にダンゴローさんを抱えたモッチを乗せています。後ろからラウザーがラキ様とリュングを乗せて飛んでいきます。ラウザーったらすっかりご機嫌でなにか歌っています。

 ~みなみのとりでのめがみさま~とってもとってもかわいいよ~♪

「浮かれて変な歌を口ずさむでない!」
 あ、鼻先にラキ様が稲光を落としています。
「ぴゃっ!」と嬉しそうに叫んだあと、ラウザーは大人しくなりました。

 森を出ると、ゲルードが鎧の兵士さんを数人連れて待っていてくれました。
「古竜様、カーラス達はカミナリ玉を巣に持ち帰っております。今、玉を引き寄せれば、もれなくカーラスがついてくるでしょう」
「うん、ゲルード、色々ありがとう!」
 黒ドラちゃんがお礼を言うと、背中のドンちゃんの方から「ありがとうございます」とダンゴローさんの声が聞こえてきました。ドンちゃんの頭の上から、ダンゴローさんを抱えたモッチがぶい~~んと飛んできました。そのまま黒ドラちゃんの頭の上に乗っかります。
「ぶぶいん」
「うん、そうだね、モッチとダンゴローさんはそこで見てて!」
 黒ドラちゃんの周りから、他のみんなが少しだけ離れます。カーラスが人間を警戒するかもしれないので、ゲルードや鎧の兵士さんは、さらに離れて背の高い草の陰に入りました。

「ふんぬ~~~~~~~~~~~!!」

 黒ドラちゃんは体の中の魔力をいっぱいあふれさせます。そして、目を閉じて、想像しました。

 ――バルデーシュ中のカーラスが、巣の中にカミナリ玉を持ち帰っています。カミナリ玉は巣の中でピカピカと光っていて、カーラスがうっとりと見つめています。
 さあ、カミナリ玉を目の前の草原に集めましょう。カーラスの巣の中で、カミナリ玉がふわりと浮かびます。ピカピカと光りながら、一斉に古の森のそばの草原へ、黒ドラちゃんを目指して飛んできます。カーラスが、巣の中に持ち帰った光る玉が飛び出して行ったと大騒ぎしています。驚き騒ぎながら、カミナリ玉を取り戻そうとして追いかけてきます。
 カアーーーーッ!
 カカアーーーーー!
 無数のピカピカ光る粒の後を、同じくたくさんの黒いカーラスが追いかけてきます。
 さあ、こっちだよ――


「カアアアアーーーーーッ!」
「カカーーーーッ!」
「カアッ!カアーーーーッ!」

「黒ドラちゃん、あれ見て!!」
 ドンちゃんが大きな声で黒ドラちゃんを呼びました。

 黒ドラちゃんが目を開けると、草原を囲むように空にピカピカの光の帯と黒い帯が現れました。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み