第118話-明日にしよう

文字数 1,830文字

 黒ドラちゃんが、おばあ様達と話している間に、モッチはホペニに連れられて王宮蜜蜂のみなさんとお話をしてきました。王宮蜜蜂の女王様は、ノーランド中のお花のことを知っていて、ノラクローバーのこともご存知でした。女王様のお話によると、昔はノーランドのあちらこちらで、たくさんのノラクローバーが見られたそうです。けれど、ノラウサギを狩ろうとする人間達が、わざとノラクローバーをひっこ抜いて減らして回りました。ノラウサギを捕まえやすいように、決まった場所だけに残して、罠を仕掛けたのです。ノラウサギ達は、一度でも人間が狩りに利用したノラクローバー畑には近寄らなくなりました。ノラウサギが引っ掛からなくなると、人間たちは、そこのクローバーをひっこ抜きました。

 そんなことしているうちに、ノラクローバーはとても少なくなってしまいました。今、残っているのは、保護されていた王宮の森のさらに上の方の群生地のみ。一年中雪の積もった山の上、寒さに強いノラウサギでなければたどり着けない場所だそうです。


 「ぶいん、ぶいん!」
 モッチは、黒ドラちゃんに話し終わると、でも、大丈夫だよね?と聞いてきました。だって、黒ドラちゃんは竜だもんね!寒さに耐えられるようにブランが魔石を持たせてくれたし!なんてったって豊富な魔力で叶えられないことなんてないもんね?モッチはもうノラクローバーを手に入れたような気持ちで、ご機嫌でぶんぶん飛び回りました。

 「そっか、山の上なんだ」
 黒ドラちゃんがつぶやきました。黒ドラちゃんがなんだか元気が無いことに、モッチはようやく気付きました。
 「ぶいんぶいん?」
 モッチが黒ドラちゃんの頭の上に止まって聞いてきました。
 「ううん、何でも無いの。大丈夫だよ。ただ、今日はもうお昼過ぎてるし……山に登るのは明日にしよう」
 「ぶいん?」
 え、行かないの?とモッチが話しかけましたが、黒ドラちゃんはもう王宮に向かって戻り始めています。モッチも仕方なく黒ドラちゃんの首にかかったリースに戻りました。一緒に山に登ってくれるつもりで待っていたホペニに「ぶぶいん!ぶいん!(ごめんね、また明日ね!バイバイ!)」と言ってから。


 翌日は朝から大雪でした。ノーランドは雪国ですが、今の季節にここまでの大雪が降ることは滅多にありませんでした。

 「せっかく場所が分かったのに、あいにくの天気ですね」
 モーデさんが窓の外を見ながら言いました。
 「う、うん。良いの。明日にするから」
 「そうですね。その方が良いと思います」

 黒ドラちゃんはノーランドのお城の中で、広間や絵画の部屋、彫刻の部屋、宝物庫なんかを見学させてもらって一日を過ごしました。

 翌日も朝から大雪でした。
 「こんなこと、めったにありませんのに……」
 さすがにモーデさんも心配そうです。
 「大丈夫!明日にするから」
 「ええ、それもそうなんですが、城下の者たちもこんな突然の大雪には備えが無くて……」
 「そうなの!?」
 「ええ。あちらこちらでこの大雪のために困ったことが起き始めているようなのです」
 「そ、そうなんだ……」
 「まあ、明日止んでくれれば大ごとにはならずに済むと思うのですが……」

 黒ドラちゃんとモーデさんは一緒に窓の外を眺めていました。でも、同じように雪を見ながら、考えているのは全く別のことでした。

 モーデさんは、早く雪が止むといいなあ、と。
 黒ドラちゃんは、雪は止まなきゃダメなんだよね……と。

 翌日、雪はほとんど降っていませんでした。まだ薄曇りですが、少し待っていれば晴れそうです。
 「良かった。これで安心ですね」
 「う、うん。そうだね」
 黒ドラちゃんは落ち着かない気持ちになりました。思わずうつむいて尻尾をにぎにぎしちゃいます。あれ?今って人間の姿じゃなかったっけ?こういう姿、どこかで見たことあるような――

 「あの、古竜様?」
 モーデさんが遠慮がちに黒ドラちゃんに話しかけてきます。その途端、黒ドラちゃんはパッと尻尾を放して、顔を上げました。
 「なあに?」
 もう尻尾は見えません。

 「今日は……山に登られますか?」

 モーデさんの問いかけに、黒ドラちゃんは再び尻尾をにぎにぎしはじめました。
 「う、うん!もちろん!」
 黒ドラちゃんは妙に元気な声で答えました。相変わらず、尻尾はにぎにぎしたままで。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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