第107話-フワフワとモフモフ

文字数 2,124文字

 みんなの動きが止まった中で、ドンちゃんのお母さんが動きました。近くに生えているクローバーをプチッと摘むと、食いしん坊さんの前に差し出します。
「ささやかなものですが、どうぞ」
 それを聞いた食いしん坊さんはパッと頭をあげると、その場でピョンピョンと跳び始めました。
「やった!やった!お母様、ありがとうございます!」
 ドンちゃんのお母さんからクローバーを受け取ると、そのままドンちゃんのところまで一直線に飛び跳ねてきました。まだドンちゃんはビックリして固まったままでした。お口にあてた前足もそのままです。食いしん坊さんは、その前足をそっと掴むと、震える声でドンちゃんにたずねました。

「マイ・プチ・レディ、お母様にはお許しを頂いた、今度は君にたずねる番だ」
 ドンちゃんが食いしん坊さんのことを見つめます。食いしん坊さんはさっき受け取ったクローバーをドンちゃんの前に差し出しました。
「私と一緒に、毎朝クローバーを食べてくれるかい?」
 これは伝統的なノラウサギのプロポーズの言葉でした。ドンちゃんは食いしん坊さんが差し出したクローバーを見て、それからお母さんを見て、黒ドラちゃん達を見て、そしてもう一度食いしん坊さんを見つめました。食いしん坊さんの青い目が揺れています。
 ドンちゃんはそっとクローバーを受け取ると「はい」と小さく返事をしました。
 途端にわあっと湖の周りが賑やかになりました。食いしん坊さんは嬉しくて声も出せない様子でしたが、周りのみんなが大騒ぎだったんです。
“古の森花祭り”は、いきなり“古の森花嫁祭り”に変更になりました。ドンちゃんと食いしん坊さんを囲んで、可愛い系の皆が花びらを散らしてくれます。黒ドラちゃんとブランも空から花びらや木の実をふりまきました。下でみんなが「うわあ!」とか「きゃあ!」とか言っていましたが、その後に必ず笑い声が響きました。そのまま湖の上でぐるぐると旋回していると、森の南の方から「おーい!」という声が聞こえてきました。見るとラウザーがこちらに向かって飛んできていました。

「遅れてごめーん!やけに盛り上がってるなあ!?」
 そう言いながら湖の広場に降り立ちます。背中にはラキ様しか乗せていません。今日はゲルードや兵士さんたちもいるので、リュングは一緒じゃなくても大丈夫だろう、ということらしいです。

ラキ様は降りるとすぐにいそいそとドンちゃんのところへやってきました。隣に食いしん坊さんが寄り添っているのを見ると、眉間にシワが寄りました。
「我のフワフワの横になぜモフモフがぴったりと寄り添うておるのじゃ?」
 すると、黒ドラちゃんが「食いしん坊さんがドンちゃんにプロポーズしたんだよ!」と嬉しそうに答えます。
「なに!?プロポーズとな?……それはなんじゃ?」
 ラキ様はプロポーズという言葉を知らないようです。
「結婚してください!ってこと。で、ドンちゃんは良いよ!って答えたの」
『黒ドラちゃんが空中でクルクルと回転しながらご機嫌で答えます。まるでいつものラウザーのようです。

「なんと!我のフワフワは嫁に行くのか!?」
 ラキ様がびっくりしている横で、ラウザーが「リア獣だ。いや、リアノラウサギだ」とうらやましそうにブツブツとつぶやいています。ラキ様はしばらくわなわなと震えていましたが、ドンちゃんの幸せそうな様子を見ると何も言えなくなったようでした。しょんぼり肩を落としてラウザーの横に座り込み、手の中でカミナリ玉を転がしています。きっと、今日もドンちゃんにたくさん上げようと思って持ってきていたんでしょう。


 食いしん坊さんは一通りみんなから冷やかされたりお祝いの言葉をもらったりした後で、ドンちゃんのお母さんの所へいきました。
「お母様、改めてありがとうございます。きっとバルデーシュ1の幸せなノラウサギになって見せます!」
 と宣言しました。ドンちゃんのお母さんも「ありがたいお言葉ですわ」としみじみしながらうなずいています。どうやらここまでが、伝統的なノラウサギのプロポーズの流れのようでした。

 無事にプローポーズが済んだことで、食いしん坊さんはようやく気持ちに余裕が出てきたようです。ドンちゃんのお母さんの木の実配りを手伝い始めました。ゲルードや兵士さんに配りながら「おめでとう!」なんて言われて嬉しそうです。カモミラ王女とドーテさんが、ドンちゃんのところに行って結婚の決め手を聞いています。ガールズトークで盛り上がっているようです。

『食いしん坊さんとドンちゃんのお母さんが、黒ドラちゃんとブランのところへ木の実を配りに来ました。ブランが「やったな、グィン・シーヴォ」なんて言いながら食いしん坊さんのことを尻尾でどついています。食いしん坊さんはよろけながらも幸せそうです。それから、黒ドラちゃんの前に来ると、思いついたようにドンちゃんのお母さんに聞きました。
「ところで“ノラウサギの花嫁の冠”は、やはり黒ドラちゃんにお願いするのでしょうね?」

 それを聞いたとたんに、にこにこしていたドンちゃんのお母さんが、お耳を垂れて小さくなってしまいました。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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