第7話-ドンちゃんってね

文字数 1,695文字

 ブランと黒ドラちゃんはまた空の旅に戻りました。いったい、なんだったんだろう?あの人。黒ドラちゃんが不思議に思っていると、ブランが察したように教えてくれました。
「あいつはね、この国で一応、一番と言われている魔術師だよ。魔術には竜の存在が大きく関わるからね。だから君にどうしても会いたかったんだろう」
「一番の魔術師?それってすごい人間てこと!?」
  黒ドラちゃんがたずねると「一応だよ、一応」とブランが不服そうに繰り返しました。
 黒ドラちゃんはずっと知りたいと思っていたことをブランに聞いてみることにしました。
「あのね、あたしって古竜なの?」
「そう。黒ちゃんは古竜だよ。3年ほど前に古の森が大きく広がった。だから多分その頃に産まれたんじゃないかな」
「え、あの森ってもっと小さかったの?」
 黒ドラちゃんは驚きました。黒ドラちゃんがはじめてドンちゃんをのせてお散歩に行った時には、もう森はあの森でした。
 今度はブランが聞いてきました。
「あのさ、ずっと聞いてみようと思ってたんだけど、どうしてあのウサギをドンちゃんって呼んでるの?」

「それはね……」

 まだ黒ドラちゃんがあまり洞の外に出なかった頃のこと。洞の中でうとうとしていると、突然茶色い塊がドンッ!と洞の中に飛び込んで黒ドラちゃんにぶつかったんです。
「うわー、何?今のドンって、ドンって何?」
 黒ドラちゃんはびっくりして洞の中で飛び起きてキョロキョロあたりを見回しました。ぶつかってきた茶色の塊、それはまだ小さな野ウサギでした。ちょっと怖い系のイタチさんに追いかけられて、近くにあった黒ドラちゃんの洞の中に飛び込んじゃったんですって。小さな野ウサギは、すぐに「ぶつかってごめんね」って謝ってくれたので、黒ドラちゃんもすぐに許して、それから一番の仲良しになりました。
 初めて会った時ドンってしたからドンちゃんです。
「可愛い名前でしょ?」
 黒ドラちゃんが言うとブランは「そうだね、丸くてフワフワしてるあの子にぴったりだ」と言ってくれました。

 さて、と森と古竜の話に戻りましょうか。ブランの話だと、黒ドラちゃんが産まれる前(どうやらあの灰色の卵の中にいた頃のことのようです)森はもっとずっと小さくて、湖のそばに少しだけの緑とあの巨木が1本あるだけだったと言います。
 なんだか想像できなくて、黒ドラちゃんは黙ってブランの話を聞いていました。
 さらにもっと前、黒ドラちゃんがまだ卵に入る前の年老いた黒い大きな竜が生きていた頃は、森はもっと大きかったんですって。でも、人間同士の大きな戦いがあって、森のほとんどが燃えてしまったって。黒い竜がとても大きな魔力で、戦う人間同士を静かにさせて、ようやく戦いが終わったそうです。それで黒い竜はもう自分の力が尽きるとわかって、あの洞の中に入っていった……と。黒い竜が目覚めることの無い眠りについた時、巨木の葉がすべて枯れ落ちました。そう、黒ドラちゃんのお家の中に敷き詰められていたフカフカの落ち葉、あれはその時の落ち葉だったんです。
 そこまで話してくれたブランは黒ドラちゃんの顔を見てびっくりした声をあげました。
「黒ちゃん、大丈夫?!」
「?」
 黒ドラちゃんが不思議そうにブランを見ると「だって、泣いてるから」と。え?と思って顔に触ると黒ドラちゃんの顔は涙でびしょびしょでした。良くわからないけど、なんだか涙があふれてきて、止まりません。
「ご、ごめんね、黒ちゃん。竜が記憶を忘れるのは、その必要があるからなのに、思い出させるようなこと話しちゃって」
 ブランがものすごく申し訳なさそうな顔で言いました。
「ううん、大丈夫だよ。ブランのせいじゃない」
 そう、ブランのせいじゃないんです。人間同士の大きな戦いのこと、その時の森が燃えたこと、巨木の葉が全部落ちてしまったこと、黒ドラちゃんには何も関係ないはずなのに、聞いたらただただ涙が出てきただけなんです。

「お話が目に染みただけかも」

 黒ドラちゃんがそういうと、ブランがちょっとだけ笑ってくれました。

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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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